PURGER

6-1「胸懐」

　　「う、うん。分かった！」

　川副はまた空に上がり、佑心は「待機！」と突然叫んだ。反対に佑心は男に向かっていった。

　「待機？……チッ、無駄なことを……」

　男はつまらなさそうに舌打ちし、佑心は先ほどまでと変わらない接近戦を繰り返した。しかし、すべて同じというわけではなかった。佑心はわざと打撃の位置をそらせて、受け身な体勢を取ったのだった。男も少しそれを不思議に思ったが、透過という選択肢を持つ彼には大した問題ではなかった。佑心の軌道がそれてよろけた時、男は透過した。その瞬間、佑心の目つきは鋭くなり、気配のする場所のすぐ上に小さな火の玉を打ち上げた。

　(来た！……ここだっ！)

　川副はそれを上から見つけて、体勢を整えた。佑心が耳打ちしたことをよく思い出した。

　「川副……俺との接近戦であいつが透過した瞬間、俺が何とかあいつの場所を伝えるからそこに打ち込んで……それから、今から俺が言うことは無視しろ！」

　今、その作戦の実行の時が来たのだ。何もないところの上空に小さな火の玉が打ち上がり、川副はそれを見逃さなかった。川副は光が上がった所にまっすぐ攻撃を落とした。地上の佑心のすぐそばに、川副の攻撃が青い落雷のように落ちた。すると、かすかに唸り声が聞こえ、男は姿を現し地面を転がった。男は透過を見破られたことに僅かに戸惑いを見せていた。男が上空からの攻撃に気を取られているすきに、佑心がとびかかった。

　「こっちだ！」

佑心は着地すると同時に蹴りを入れる。ついでに地面に落ちていた鉄の塊を道の端に蹴り飛ばした。この行動が後に戦況を変えるものであることは佑心にしか分かっていなかった。また男の姿が消えた。

　(もう一回！今度は……ここかっ！)

　佑心がまた火の玉を打ち上げると、先程より早く川副の落雷が落とされた。今度は間一髪のところで男はそれを避け、すぐに上空に川副を見つけた。

　「けっ、あそこか！」

　(しまった！)

　男が嬉々として猛スピードで上昇したのを見て、佑心は唇をかんだ。自分をかばったときのように、川副は恐らく純粋なパワー勝負では負けてしまう。限りなく男が川副に近づいた時、男はなぜかそれ以上上昇できなくなった。足首には青い光の鞭が巻き付いていた。

　「何⁉」

　「かわいい後輩に手出さないでくれる？」

　駆け付けた原は男を地面まで引きずり下ろした。

　「原さん！そのまま離さないでください！」

　「っ、はあ⁉」

　佑心は男にパージ能力を浴びせると男が悶えた。灰色の光を全身から放出して必死に抵抗する男。原にも限界が訪れようとしていた。

　「っ、もう無理ー！」

　原の鞭は断ち切られ、原自身は反動で後方に飛んだ。佑心と川副も巻き起こった風に目をつむった。その時、男は閃光弾のように凝縮した光を一気に爆ぜさせ、誰一人として男を追うことができなかった。