3-4「青の派閥」

 PGO本部内の青のオフィスで、川副沙蘭がバッグになにやら荷物を詰めていた。長い空色の髪がバッグに垂れた。



 「さらーん!何やってんの!早く行くよ!」



 扉の陰から原奏海が顔を覗かせた。彼女は川副と同じ、青の派閥所属のパージャーである。



 「はい!」


 「今日から合同捜査なんだから、遅れたら一条にどんな嫌味言われるか、げー……」



 今にも吐きそうな顔をしてみせた原に、川副は控えめに笑った。原と川副はこれからの合同任務に想像を巡らせながら、会議室へと向かった。



「よりにもよって赤と協力なんて、へっ……」



 原は不満な態度を隠さなかった。



 「ちょうど奏海さんも私も一つ任務が終わったところでしたからね。それに松本さんのところに新しく入った人もいるらしいじゃないですか?」


 「あー、そういえばそうだったわね。タフな人だといいけど……」



 最後の言葉だけ妙に重々しかった。

 その一階下の廊下で同じように佑心、一条、心が話していた。



 「青と赤って仲悪いのか?」



 佑心の質問に、一条は少し答えにくそうにした。



 「いや、別に仲悪いって訳じゃ……ただ、青の派閥も赤の派閥も所属人数が同じくらいだから、張り合ってる節はあるかもね」


 「仲の悪さで言ったら、守霊教は相容れないって感じだけど」



 心の口から飛び出た守霊教という言葉に、佑心は飛びついた。



 「そうそう、守霊教とPGOって何か関係あるのか?PGOの建物は大聖堂の地下にあるし、本部にも守霊教の人結構いるし……」


 「関係大ありだよ!PGOには守霊教のパージャーも所属してるし、教皇はPGOでも絶大な発言権がある。もちろん、PGOのことを一切知らない一般教徒も沢山いるけどね」


 「そもそも守霊教って色んな宗教からパージャーが集まってできたらしいし。歴史の話だけど」


 「ふーーん……」



 そこで皆立ち止まって、会議室に足を踏み入れた。一条が扉を開けると、中には情報局の人間が一人いて、机に資料を配っているところだった。



 「お疲れ様です。全員揃い次第会議を始めますので」


 「分かりました。……情報局の人よ」



 席につきながら、一条は佑心に囁いた。ガチャリと扉が再び開きくと、「お疲れ様です」と原と川副が入って来た。それに応えながら、一条が立ち上がった。佑心と心も慌てて立ち上がった。



 「お久しぶりです、一条希和です。こちら同じく執行部の、心舜と新田佑心です。沙蘭は二人と同期だから、仲良くね」



 原と川副は交互に挨拶した。



 「よろしくお願いします」



 心と佑心が揃って頭を下げた。



 (この人が、新人さん……)



 川副は佑心を物珍しそうに見つめていた。

間もなく情報局の女性がホワイトボードの前に立って会議を始めた。



 「今回皆さんに追ってもらうのは、ここ三ヶ月間都内で連続殺人を起こしている犯人です。被害者は六人で、それぞれの被害者に共通点は見られず、警察は無差別だと考えています」



 五人全員が真剣に耳を傾けた。



 「捜査が難航している原因の一つは、犯人が一度も現場付近の防犯カメラに映っていないことです」


 「目撃情報は?」



 原が聞いた。



 「残念ながら、ありません。周囲の目を盗んで、周到な計画のもと行われた犯行と思われます」


 「なるほどな……」


 「でも妙ね。いくら計画的だったとはいえ、住宅街での犯行なのに誰にも見られないなんて可能なの?」



 一条が疑問を示した。



 「こちらが犯行前後の被害者宅の映像です」



 職員が机上に差し出したタブレットには、薄暗い普通の住宅街の一角が映し出されていた。全員がそれを囲むように覗き込んだ。佑心は川副が映像を必死に覗き込んでいるのを見つけると、自分のいたところからするりと抜け出した。



 「川副、こっち」


 「え?あ……」



 沙蘭は手招かれるまま前に進んだ。その後ろから佑心は川副の頭上越えてタブレットを見下ろした。沙蘭は驚きつつもほんのり頬を染めた。タブレットの映像は早送りされて流れたが、暗い住宅街以外何も映っていなかった。左上の時間表示だけがぐるぐると進んでいく。ふとある時、一度だけ被害者宅の扉が開き、誰も出てこないまま閉まった。佑心はこの場面が映った時、顔をしかめ、一条はそれに気づいていた。



 「佑心、どうしたの?」


 「いや、何でもない……」



 何かを隠す佑心に、一条は探るような視線を送った。

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