22‐2「才能の開花」

 バリアに攻撃が降りかかり、どんどんひびが大きくなっていく。景と光も何かを感じ取って、お互いを強く抱いた。



 「ねえ!まずい気がする!」


 「お兄ちゃんっ!助けてー!」



 心の瞼が重く上がり、瞳には白い光が走った。その瞳は徐々に中心から光が差していく。黒い瞳に後光が差していき、中心に向かってダイヤモンドのような有彩色が差し込んだ。



 「大丈夫だよ、光。不安にさせてごめんね……」



 心はゆっくりと立ち上がった。その周りにはだんだんと白い光が渦巻いていき、心からは白のオーラが大きく漂い始めた。



 「おい、何やってる……!?」



 心は壊れゆく球の中で、真っ直ぐ立った。



 (そうだ、僕は選ばれたんだ……これは、光や景を守るための力だ……もう大切な人を救えないなんて、いやだっ!!)



 心は自らパージ能力のバリアを破り、周囲に白のパージ能力が一気に広がった。刹那、敵が一斉に吹き飛ばされた。真夜中のはずの海岸が白い光に照らし出されていた。



 「僕は、白のパージャーだ――」



 瞳はもう全体が白色に変わり、左腕が時間を巻き戻したかのように再生した。景と光は呆気に取られて見ていることしかできなかった。



 「おにい、ちゃん……?」


 「もう大丈夫。皆、すぐ行くから……」


*―*―*―*


 日根野は泣けた先で、建物の影に父親と母親を隠した。二人ともパージ能力に当てられて意識を失っている。



「はあ、はあ、はあ……早く向こうの応援に――」



気づいた時には日根野の背後から一条と交戦していたはずのパージャーが日根野の首に斧の先を向けていた。反応が遅れるが、間一髪のところでパージ能力を発動した。



「なかなかやるな!だが、あいつほどじゃないと見たっ!」



パージャーは嬉しそうにそう言って、斧に力を入れた。日根野のパージ能力が火花を散らしてどんどん相手の斧が浸食してくる。能力の込められた斧では、日根野の力では止めきれないことが両者とも分かった。しかし注意すべきは前方だけではなかった。斧の先端が日根野の腕に触れた時、建物の影から日根野が先刻撒いた非パージャーが飛び出し、心の両親に銃口を向けた。日根野はそれに気づき、焦って振り返った。



「やめてっ!」


「死ねーーー!」



斧男は勝利を確信して笑みを浮かべたが、非パージャーのさらに背後から現れたのは一条だった。彼女は細いパージ能力を敵の後頭部に叩き込むと、非パージャーは白目を向いて倒れてしまった。



「一般人まで手を組んでるなんて……」


「希和!」



日根野は再び前方の敵に注意し、上手に上空へと退避した。軽やかに建物の天井に舞い降りた。日根野が退いたその場所から一条は男に狙いを定めた。



「くっ!」


「私の仲間を傷つける輩は、どこに逃げても必ず見つけ出すから。最後までよく覚えとけよ」



パージ能力を貯め、大きな桃色の光を男に向かって打ち出した。その光線はまっすぐ伸びてその腹部を貫いた。



「ぐあっっ!!」



男は為すすべもなく、血を吐いて後ろに倒れた。



「はあ……まだ加勢があるかもしれないわね……晴瑠さん、平気ですか?!」



一条は日根野を見上げて言った。



「問題ナッシング!来てくれて助かったわ〜!」



日根野がグーサインを出したのを見て、一条は笑顔になった。が、すぐに表情を戻した。



「佑心と舜も心配だけど、こいつが死ぬ前に聞いとかないとね」



一条は倒れたパージャーのもとに歩み寄った。マスクは既に取れていた。大柄に似合う強面だが、徐々に強さを失っていった。一条がパージャーに掌を向けたが、パチパチと火花だけが出た。



「ん?はあ、さすがに使い過ぎたわね……」



男は一条を恨めしく見上げて肩で息をする。



「死ぬ前に答えろ。どうして私たちを奇襲した?」



男から出るのは吐息だけ。



「早く答えろ、どうせ死ぬのよ。」



様子を見ていた日根野は屋根から飛び降り、一条の後ろに着地した。



「あの、晴瑠さんはあんまり見ない方が――」



そう言いかけて、一条は前方に注意を向けた。そこには追いついてきた佑心が立っていた。



「佑心……さっきのパージャーは?」



一条は眉間にしわを寄せて恐ろしい答えが帰ってくるのを待った。一条に光を映さない目が向けられた。



「……殺した」


「っ……!そう……」


「ゔうぅ……」



一条と佑心は苦しそうな声を出した足元のパージャーを見下した。



「最後に、手土産でも、や、るよ……よ、ろこべ……」



一条は首をかしげた。



「偽善の、そ、組織の犬が……」



佑心も訝し気にパージャー見ていた。彼のポケットに何か光るものを見つけた瞬間声を荒げた。



「一条、伏せろ!!」


「ぇ……?」



一条が何も気がつかないうちに、パージャーのポケットから灰色の光る網のようなものが飛び出し、一条の周囲を取り囲んだ。



「なっ……」



反応できず視界がスローモーションになった。数メートル先では佑心が手を伸ばし何やら叫んでいる。



(油断、したっ!)



どんどん灰色の網が一条を囲んで収縮していく。すると、闇夜にすっと純白の光のような靄が流れた。途端に、一条の周辺の網が白色の光に飲み込まれて消失してしまった。



「!」



一条は目の前の光景に呆気に取られた。先ほどまで日根野が佇んでいた屋根の上に白い竜巻のように靄が巻いて、あっという間に人が姿を現したのだ。足元から徐々に上半身へと視線を移していくと、そこには真っ白なオーラを周囲に湛えている人物がいた。いつもの舜だが、目の色だけが異なっていた。



「しゅ、舜……!?」


「ってか、お前、その腕……俺の目が疲れてる訳じゃないよな……?」



心はいたって落ち着いて、真剣な表情で答えた。



「あとで、いろいろ説明させて」


「舜、あんた、それって――」



一条は戸惑いと共に舜を見上げたが、言い終えないうちに瞼が閉じた。そして静かに後方へ。



「おい!」



佑心が慌てて前に踏み出し、一条の身体を支えた。一条の腕の脈を取って一息はいた。



「大丈夫。でも一応緑のパージャーに見みてもらわないと」


「ちょっと私に見せてくれる?」


「日根野さん?」



日根野が一条の隣に膝をついた。日根野は集中して一条の心臓に手をかざした。軽くパージ能力をたぎらせると、日根野は閉じていた目を開けた。



「うん、ひとまず大丈夫みたい」


「叶さんがやってたのと同じだ……」



佑心は無意識に呟いた。



「私のパージ能力は魂の補完とまではいかないけど、緑のパージ能力に近い性質があるんだ!皆、いろいろ気になることはあると思うけど、今はとにかく家に戻ろう。ね、舜」



舜は背を向けていたが、少しだけ振り向いて笑顔を作った。



「そうですね」

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