20ー2「奇襲」
「おじいちゃん!」
心は戸を開けてすぐ叫んだ。すると、膝立ちで壁に向かう祖父が苦し気にこちらを見た。その目は黒く染まっている。
「っ!おじいちゃん!」
心は顔を引きつらせ、祖父のもとに走っていく。心は祖父の身体を抑え込むように抱きかかえた。
「ねえ、聞いて!おじいちゃん!」
間もなく祖父の髪が青く燃えだし、雄たけびを上げるようになった。
「すぐ僕の仲間が来るから!もう少し待ってて!」
祖父を抱きかかえたままの心をパージ能力が侵食し始めた。
「ぐあっ!……僕は、苦しんで欲しくないんだっ!ごめん、ごめんなさい!」
突如として心を包むパージ能力が大きくなり、心の心臓が白く光った。
(な、に……?)
心は自分の身体に起こる変化を感じて目を見張った。何かは起こっているが、何が起こっているのかは分からない。視界が明転した。
*─*─*─*
広がるのは真っ白な空間。心は固く閉じていた目をゆっくりと開けた。
「ん、眩しっ……何、どこだろ?」
心は辺りを見回す。白だけで、縦と横の境目も分からない。その時、心は気配に気づいて振り返った。そこに浮いているのは薄い青色の火の玉だった。心は首をかしげつつ近づき、右手を恐る恐る近づけてみた。
(ゴースト……?)
「触んな」
「えっ!?」
心は驚いて火の玉から飛びのいた。
「だ、だれ……?」
完全に怯え切った表情で心はまた辺りを見回したがやはり誰もいない。
「ここだ!」
「うわあーー!」
再び聞こえた声は火の玉からだった。心は跳び上がって火の玉を見下した。
「いや、冗談でしょ……」
「聞こえてんのか!」
「マジで喋ってるって!」
「知らねーよ……」
心はひとまず落ち着き、火の玉に向き合った。
「君、ゴースト、だよね……?」
「知らんが、俺の一部だ。本体の身体は今頃獄中だな。」
「何で喋ってんの!?え、僕死んだ?走馬灯!?」
「舜はまだ生きてる。安心しろ」
心の側にはさっきまで存在していなかったベンチが置かれていた。今までその手の中にいた祖父が座っていた。
「お、おじいちゃん‼」
心は涙を浮かべた。
「座りなさい。ちょっと話そうな」
心は祖父の隣に腰を下ろした。火の玉はまだそこにいた。
「死んでないって、こと?おじいちゃんは何か知ってるの?」
「まあ焦りなさんな。多少検討はついてる」
「勝手に話進めてんなよ」
二人がゴーストに目を向けた。困惑する心とは対照的に、祖父は落ち着いて正面を見つめている
「ここは、恐らくお前の世界だ、舜」
「え?僕の、世界?」
「じゃあ、ここにいるおじいちゃんとゴーストは僕の想像?」
心はまた泣きそうな顔になった。
「そうでもないんじゃないか。お前が私と彼を引き込んだ、とか」
「?」
「私のせいだな。もっと早く話しておけば良かったと思っている」
「おじいちゃん、何……」
「心、お前は――」
*─*─*─*
「っ!」
心は汗をかき息を荒げて、ぱっと目を開けた。その手中には何もなく、もう祖父もいない。手先に白く輝く煙が漂っていた。
「はあ、はあ、はあ……」
心の見開かれた目には喪失感と驚愕が秩序なく混ざり合っている。
―目を覚ませ―
太い声が脳内に響き、心は慌てて周囲を見渡した。そして、焦って頭に手を当てる。誰かが話しているのではない。自分の中から響いてきていた。
「きゃーーーー!」
「っ、皆!」
突然の悲鳴に、今までの出来事も忘れて心は急いで部屋を出た。
*─*─*─*
ガタイの良い男が光と景を塀際に追い込んだ。一条と佑心を奇襲した男と同じような目立たない服に身を包み、片手には通常見かけないほど巨大な斧が握られている。景は光を庇うように少し前に出ていたが、二人とも恐怖から足が動かないでいた。危機はそこだけではなかった。もう一人の細身の敵は日根野の後ろに隠れる両親を数メートル先から狙いを定めていた。日根野は悔しさに唇を噛みながらも何もできないでいた。
「っ!」
日根野はオレンジのパージ能力をたぎらせた掌を細身に突きつけた。
「ストップストップ。できないでしょ。」
「できないことはないんじゃないの?」
景と光が相手の手中にある今、日根野は焦りつつも必死で煽り返す。内心は焦燥に駆られていた。
(早く来て……みんな!)
バリンッ!
二階の窓が派手な音と共にガラス片をまき散らした。その奥から舜が大きく飛び出してきた。その直線上には景と心。日根野が希望と共に舜を見上げ、両親と兄弟も驚きに目を凝らした。
「日根野さんっ!お願いしますっ!」
心は声を張った。日根野は驚きつつも、こちらを狙う敵を鋭く捉えパージ能力を発した。
「どわっ!」
敵は不意を突かれて吹き飛ばされた。
「なっ、くそっ!」
景たちを囲っていた男は日根野に吹き飛ばされた男を見て焦りを表情に浮かべた。心の方に注意を戻すと、心は銃のパージ能力貯水槽を破壊した。先ほどの部屋のようにパージ能力が周囲数メートルに広がった。パージャーであるガタイの良い敵は視界を遮られた。心は二人の前に着地して景と心を器用に抱えた。男は晴れない視界のまま焦って斧を上に振り上げた。周囲からは様子がよく見えない。
生々しい音だけがした。心は二人を抱えながら少し遠くの塀に降り立った。景と心は固く閉じていた目を開けた。日根野が心の方をすぐ見やった。
「舜っ!」
心は二人を下ろした後しばらく下を向いていたが、側にいた景ははっと息を呑んだ。心は唇を噛んで痛みに耐えているようだった。男はその様子に気づきにやりと不気味に笑った。地面の草を血液が濡らしていく。少し顔を出した月が照らしたのは、姿を消した心の左手。それに気づいた日根野、両親は自分の目を疑った。
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