19ー2「出発」
PGO本部メインホールの待合室で、佑心は一条、心、日根野と合流した。
「あんた昨日どこ行ってたの?こっちは大変だったのに」
「ああ、今朝聞いた。松本さんは?」
「幹部会議」
「なあ、昨日あの人も一緒にいたんだろ?宗崎ってパージャー」
一条は途端に不機嫌になり、息をついた。
「ええ。宗崎泰河ね。期待の新星って呼び声高いけど、紫の派閥なんて怪しいやつらばっかり。犯罪者のパージャーには紫の能力が多いって言うし」
佑心はすぐにモモのことを思い出した。
「そうだな……」
「じゃあこれは聞いた?次の任務の行き先」
日根野はいたずらっぽく佑心に耳打ちした。そしてくるくると楽し気に回ってピースサインを出した。
「ジャパニーズハワイ おっきなわだよ~!やった~!」
「晴瑠さん、喜んでる場合じゃ……」
「でも管轄外の私たちが慌てても犯人は見つからないでしょ?なんとかできるのは自分の任務だけ」
日根野は肩をすくめた。
「しっかも、沖縄はなんとなんと!舜の出身地なので~す!」
「えっ!全然知らなかった……」
「まあ、しばらく帰ってないですけど。実家に泊まれるんで、宿代は浮きますよ!」
ソファに座っていた心が満面の笑みでグーサインを出した。その時、背後から現れた松本は一条の肩に手を置いた。
「晴瑠の言う通り!内部犯の件に関してはおまえたちの管轄外だ!舜の帰省にもなるわけだし、紅芋タルトでも食べてしばらく向こうで休んでくるといいんじゃないか?」
*―*―*―*
舜はガラッと一軒家の戸を開けた。
「ただい――」
「おかえりーー!」
心の家族は皆を熱烈すぎるほどに歓迎した。心家の夕食の席には沖縄感満載の皿が豪華に並んだ。現代にしては大人数の家族の家はさすがに賑やかだった。佑心は心の弟、
「へー、まだ6歳なのかー!小学校楽しい?」
「うん!クラスみーんな友だち!」
「そっかそっかー!」
楽しそうな様子の彼らに対して、一条は向かいの席の心の姉、
「あの、私に何か……?」
「……舜の同僚なんですよね?」
「え、はい」
景は一条の顔をまじまじと見つめた。
「彼氏とか、い、いるんですか?」
「げほっ、けほけほ!」
一条はむせて食器を置いた。
「いませんし!舜は普通に友人なだけですからっ!」
察した一条は景にそう叫ぶと、景は全身の力が抜けて肩を落とした。
「嬉しいような、悲しいような……」
「あはは……」
離れた席で舜が苦笑いしていた。舜の向かいには久しぶりに顔を合わせる両親がいた。
「それで、任務で帰って来たんでしょ?」
「うん。最近、沖縄で活動してるパージャーの半グレ集団がいるから、それで」
「そんな話は聞かないけど、この近くなのか?」
「相手はパージャー。一般人の目を避けてるだろうし、移動は自由だから正確な場所は分からない」
両親は不安げな顔を浮かべた。
「でも大丈夫だよ!僕の仲間は皆優秀だし、ここに危害は及ばない!」
母親の手が舜の手に重なった。
「舜はどうなの?やっぱり力のある人たちと一緒に働くのは危ないでしょ?守ってもらえてる?」
「大丈夫ですよ、お母様!」
日根野が心の後ろから両肩に手を置いた。
「守られるどころか、私はよく舜に守ってもらっちゃってます!ほんとにすっごく頼もしいんですから!」
一条も箸を置いた。
「舜はパージ能力がなくても、立派なパージャーで、私たちの仲間です。私たち全員、お互いの背中を預けられます!」
日根野は舜の活躍について楽し気に、得意げに語り続けた。その間、少し離れたテーブルで祖父は壁掛けの先祖の写真を静かに見上げていた。
*―*―*―*
夜の海沿いは、月が輝き星空に鳥が数羽飛んでいた。佑心と一条は並んで海辺を歩いた。波打ち際で波の寄せる音が聞こえ、穏やかな時間が流れている。
「本当に遊びに来ただけみたい」
「ずっとこんな感じならいいのにな……」
佑心は足を止め、海の水に手をさらした。すると、水中に赤のパージ能力が流れ、美しく光りを放った。一条も静かにそれを見つめた。しかし、海に映る月が雲に隠れ、辺りは少し暗くなった。佑心は、流れる赤色の先に水面に反射する灰色の燃えるような光を見つけた。目を見開き、焦って振り向いた先には。
「っ!」
佑心は振り向きざまにパージ能力を発する攻撃態勢に入った。大柄の男は灰色のパージ能力を全身にまとって宙に浮き、二人を見下ろしていた。
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