13-1「散開」

「っ……」



佑心はふらつきながら膝をついた。煙と炎の中から姿を現した上背のないマスクの男、モモはヒトの頭部を後ろに投げ捨てた。



「おかしいおかしい、おかしいんだよなー……」



モモは佑心に近づいてくる。



「二発で確実に全員殺るはずだったんだが、何かしたか?」



モモが佑心の前にかがみ、顔を覗き込んだ。



(なんなんだ、こいつ……魂の気配が他とは違う……!)


「ケホッ、ケホッ……」


「ん?」



側から咳き込む声が聞こえて目をやると、うっすらと煙の中にピンク色に照らされた箇所があるのが見えた。



「それって……これのこと?」



風で煙が晴れ、一条が爆発しかけたリュックをパージ能力で抑え込んでいるのが明らかになった。佑心は安堵の息をこぼした。



「やるね。いつまで耐えられるか測ってみる?」



抑え込んだ爆発が内側からパージ能力の殻を押してくる。一条は歯を食いしばった。



(クッソ……挑発には乗りたくないけど、確かにこのままじゃ抑えきれない!ベストは人のいないところで爆発させる!)



一条は判断するなり、地上を蹴って跳び上がった。が、そこに十字の書かれたマスクの巨漢、ガンが突進してきた。



「なっ!」


バンッ!



ガンの手が一条にかかろうかと言うとき、銃声がしてガンが地上に引きずり降ろされた。弾の跳んできた方向には少々焦げた心が銃を構えていた。



「ナイスッ!」



一条はそのまま爆発を抑えたまま、上昇した。

地上では、ガンと心、佑心とモモが対峙する形になった。ガンは左ももを撃たれているが、その屈強さで持ちこたえている。



「いいね。やっぱりこっちの方が燃える……」



モモは嬉しそうにマスクを片手で撫でた。



「始めようか……」



モモが一気に距離を詰め、佑心に殴りかかった。



(はやいっ!)



佑心は打撃を受けて後ろに吹き飛ぶが、なんとか体制を立て直した。



(あの体格でこの威力……腕が、しびれる……)


「基本の身体強化は出来るみたいだな……そうでなきゃお前は今頃ひしゃげていた、関心関心……」


(あのマスク、何なんだ……舜が撃った相手も、変なマスクをしてた……こいつらが、テロの犯人なのか⁉)


「おい!神戸のテロもお前らがやったのか!」


「ん?ああ。仕事だからな。」


「っ!」



佑心がモモに向かっていくとモモも走り出した。

そのそばでガンと心が対峙する。心は冷静に相手の特徴を分析した。



(接近戦ならパワーで押されるのが目に見えてる。僕はパージ能力も見えないし、身体強化もできない。だったら距離を取って撃ちこむしか……)


「銃使いのパージャー、見たことがない。」


「……」



ガンは袖を破り取って、撃たれた左ももを縛った。



「手早く片付ける。」



そういうなり、ガンは大きく跳躍して心に殴りかかった。心はすぐに銃を構えて放つ。



(捉えた!)


バンッ!



しかしガンは空中で器用に体を捻り、弾丸を躱し、途端に視界から消えた。



(うそっ!)



心は銃を構えつつ、焦って辺りを見回した。



(どこだ⁉どこに行った⁉はっ!)



突然感じた気配に心が上空を見上げると、ガンがかかと落としを繰り出そうと落下してきていた。心は地を転がって避けた。ガンの足は心がいた場所のコンクリートにめり込んでいた。すぐにガンは接近し、右ハイキックをかました。心は咄嗟に身を低くしてハイキックをかわし、ガンの負傷した足元を狙って蹴りを入れた。



「ぐっ!」



ガンは苦しみの声を上げて、左膝をついた。心はガンの頭上まで飛び、宙で逆さの状態で銃を構えた。しかし、その手はガンに掴まれた。



「なっ!」



そのままガンは心の腕を持って、側の建物の壁に投げつけた。心は土煙を立てて壁にめり込んだ。ガンは右手を上げ、心を投げた壁に向ける。



「(こいつ、パージ能力が使えないのか?)……終わりだ。」



その掌に薄黄色の霧のようなパージ能力が宿される。それはだんだんと大きくなり、遂に壁に向かって発された。霧が晴れると、心が壁からずり落ちるのが見えた。ガンは心を見下ろし、近づいていく。目の前まで来た時、ガンは目を見張ることとなった。気を失っていると思った心が銃のマガジンの尖った先端をガンの足に刺したのだ。



(まだ生きていた⁉……何をしている……?)


「あいにく、ただの銃じゃないんですよ……」



心がマガジンを強く握ると、そこから灰色の光があふれ、ガンの内部まで稲妻のような痛みが響いた。



「ぐうわっ!」






佑心の右ブローをモモは余裕でさばく。続いた左も左掌で受けられた。モモは佑心の腹を突いた。



「ぐあっ!」



佑心は咄嗟に左拳をパージ能力で固め、発散させた。すると赤い光が炸裂し、モモは勢いで後退した。対するモモは紫のパージ能力で空中に一回転して逃げた。



「やるか!」



モモは頭上にパージ能力を集めだした。紫の光が大きく渦巻く。両手を重ねて佑心に向けると、その光の中から、鋭く長いスピアーが出現した。佑心のすぐ足元に突き刺さり、佑心は後ろに飛びのいた。続々と出現し、一本が佑心の左肩を掠めた。



「っ!」



どんどん地面に突き刺さるスピアーに佑心は逃げ惑うほかなかった。ダダダと連続して、佑心の目の前にスピアーが刺さると、佑心は逃げ道を失ってしまった。急いで振り返ると、なんとモモが待ち構えていた。モモはニヤッと笑って、佑心の胴にパージ能力を込めた蹴りを食らわした。佑心は駅のすぐ横のモールの屋上まで吹き飛んだ。モモは地上を蹴り、佑心を追って屋上まで跳躍した。まだ滞空している佑心に上から振りかぶった。



(やばいっ!)



佑心は急いでパージ能力の薄いバリアを張ったが、モモの拳はバリアに大きな音を立ててぶつかり、それをカバーガラスより簡単に割った。佑心はそのまま屋上に落下したが、自分の下にパージ能力を集め緩衝した。



「ガホッ……ケッ……」



モモは優雅に降りてくるなり、倒れる佑心に近づきながら地面の瓦礫を蹴りとばした。



「弱い弱いなー。今の組織はこの程度か?モルが泣くぞ。」



佑心はもうろうとする意識の中、屋上のへりまで這っていった。



「今頃、もう一人もやられてるかもな。陽動を読めなかった無能な組織を恨め……」



モモが手をかざすと、佑心は何の前触れもなく自ら屋上から飛び降りた。



「⁉」



モモが思わず屋上から下を見下ろすと、パージ能力が飛んできた。



「っ!」



佑心は落ちながら、上方にパージ能力を放っていたのだ。モモはパージ能力を真正面から受けた顔を手で覆い、狂気的に笑った。



「くっ、っ、キャッハハッハ!悪くない!悪くない!」

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