13-2「散開」
佑心は地上に転げ落ち、膝をついたがそれ以上立ち上がることはできなかった。モモも降りてきて、佑心の頭に優しく手を置いた。
「なあ、弱いと言って悪かったよ。今の機転、狡猾さ、いいないいな。お前、名前は?なあ?」
佑心は俯いたまま、呟いた。
「(クッソ、足が痺れて立てない……)ケホッ…………気はない……」
「ん?」
聞こえなかったモモが佑心の顔をニコニコで覗き込もうとすると、佑心はぱしっとモモの腕を掴んだ。モモは不思議そうに首を傾げた。
「人殺しに教える気はない!」
「そうか。」
モモは最大の笑顔で右腕を横に振りぬいた。すると、腕からパージ能力
が発され、その先端は巨大な鎌のようになった。
「残念だ。じゃあな、名無し君………」
(くっ……)
モモが振りかぶって振り下ろしたが、
バンッ!
銃声と共にその腕は途中で止まった。モモの右腕の能力は静まり、左手で銃弾を止めていた。モモはゆっくりとそれを見つめた。
「なるほど……ただの銃弾じゃない。パージ能力が込めてある。良い、良い技術だ。」
モモは後方数十メートル先にいる心を見やった。心は必死の形相で銃を構えていたが、ガンは側で気絶していた。
(弾を、止めた……⁉)
モモは銃弾を捨てた。
「だが、こんなもの使ってるうちは俺に勝てない」
モモは再び右手に力を宿し、佑心の腹を蹴った。
「がはっ……」
モモは今度は冷たく佑心を見下ろし、振りかぶった。
「っ佑心!」
(死ぬ……!)
心の叫びもむなしく、佑心も死を覚悟した時、
ガンッ!
目を堅く閉じた佑心の目の前に立ちはだかったのは、左膝をついて庇う橘健太郎。長い金属製の棒で、モモの右手を防いでいた。
「た、橘さん……」
モモは刃を出したまま、後ろに飛びのいた。橘は立ち上がり、右手で棒を回転させ、右脇に挟んだ。
「遅れてすまない。立てるか?」
「っ……あぐっ……」
佑心は立とうとしたが、足に力が入らない。すると、橘は佑心の足元に小さなエピペンのような注射器を落とした。中には緑色の液体が入っていた。
「癒波の作った、いわば回復薬だ。多少は魂の補完ができる。」
佑心は何のためらいもなく、それをふとももに勢いよく指した。
「ありがとうございます。もう大丈夫です。」
佑心は橘の後ろで力強く立ち上がった。
「そうか、ようやく本番だな?」
橘が走り出すと、モモは小さなパージ能力を打ち出した。橘は棒を高速で回転させ、それを防いだ。橘はモモの前まで来ると、地面に棒を突き立て、頭上まで飛んだ。その後ろから佑心はパージ能力を撃ち、モモの視界を奪った後で顔面に強打した。
「っ!ハハッ!」
食らったモモは楽しそうに笑った。橘はモモの向かい側に着地し、振り返って心に叫んだ。
「一条パージャーは⁉」
「爆弾を別の場所に――」
「では君もそっちに向かえ!ここは私と新田で引き受ける!」
心が言い終える前に橘は叫んだ。
「は、はい!」
心はこけそうになりながらも、急いで走っていった。
そのまま一条を上空に探しながら、心は走った。携帯を耳に当てながら、ひたすら走った。
「やっぱ出ないよね……(一条さんの現状を確かめてから、松本さんたちにも連絡取らないと……)」
すると、ビルからビルへ軽やかに飛び移り、黒地に三本の白線が入ったマスクの女が心の道を阻んだ。モモらの仲間、セトだ。
「っ……(マスクの仲間⁉)」
心は急ブレーキをかけた。
「え~、モモに呼ばれてきたのに……まあ、ここで組織の奴殺しといたら、褒めてもらえるかな……」
セトは色っぽい立ち方で、右手に紫のパージ能力を宿した。
「さっさと殺してあげる。」
「そうですね……僕も急いでるので早くしましょう……」
心もマガジンを押し、リロードした。
一条がパージ能力をずっと出しながら右手に爆発を掴み、上空を飛んでいる。爆発が度々大きくなり、そのたびに一条は空中でふらついた。
「くっ!(早く処理しないと、私の方が先に能力切れになるっ!)」
一条は左手からもパージ能力を浴びせ、爆発を抑えた。
(狙い目は東京湾……狙いは殺人だろうし、もう一個の爆発の感じからしても、金属片入りってところか……っそういえば、あいつらの狙いって……?)
その時、一条の背に衝撃が走った。誰かに蹴られた。そう意識する前に、一条は降下した。それでも爆弾は手放さなかった。
「させねえよ!クソ女!」
「っ!(何だ、こいつ!)」
一条は自由落下にブレーキをかけた。がしかし、再び長身細身の男が突進してきた。葉脈を模ったような文様のマスクをつけたヨニは右手から長い爪のようなものを顕現し、一条の背を引っ掻いた。
「ぐあっ!」
一条はヨニの腹を強く蹴り、突き放した。すぐに振り返って、ヨニに背を向けて地上まで急ぐ。ヨニも後を追いつつ、一条に向かって長く鋭い爪の攻撃を放った。ヨニが空を引っ掻くと、空に攻撃が飛んで一条を襲った。一条はそれらをするりと躱しながら、地上に向かう。
「逃げんな、社畜!」
「ああ?社畜じゃねえよっ!」
一条は後ろ向きに飛び、開いている左手で反撃したが、ヨニは叫びながら、一回転して避けた。ヨニは一条の頭上から霧のようなパージ能力を降らした。一条は何か分からずそのまま浴びてしまった。
「ケホッケホッ!(何これ……変なにおいするし、ほこりっぽ……視界が、ぼやける……な、に……)」
一条の視界がぼやけた。頭もふわふわとしてきた。ヨニは目を瞬かせる一条を見て満足げに笑った。
「ヒッヒ!」
そして一条の腹に蹴りを入れると、一条はみるみるうちに地上まで落ちていった。一条は派手な音と共に、埠頭のコンテナに落下した。その手中にはまだ爆発が抑え込まれている。ヨニはどしんとコンテナに着地した。千鳥足のようにおぼつかない足取りで一条の方に歩く。死んだかと思われた一条はぴくりと動いた。
「けっ、落ちたのにまだそれ持ってんのかよ?バッカじゃねえの?」
一条は頭から血を流しているが、よろよろと体を起こした。
「イッタイ……」
「頭回んないんだから、諦めて死ねよ。元からちっちゃい頭だろ、社畜。」
「……あ?(まじで頭痛い。でもなんかふわふわもする。さいってい、こいつ……)」
「ん?」
ヨニは独り言のように呟き、耳から水を出すように自分の頭を叩き始めた。そしてかかとを上下させ始めて、何かを催促するような様子を見せた。
「クッソ、切れやがった……」
ヨニはいらいらしていた。
「おい……」
一条は立ち上がって、ヨニに指を指す。
「頭小さいのはお前だよ……諦めて死ぬのはそっちな?」
一条は強がりか、不敵に笑った。
(佑心、舜、ごめん……そっちには戻れそうにない……なんとか耐えてっ……)
一条は爆発を抑える力を強くし、爆発をさらに凝縮した。
二月二日。ヨニと対峙するボロボロの一条、セトと対峙する緊張気味の心、橘と共に戦闘中の佑心。各々がそれぞれの場所で、それぞれの強敵を相手することとなったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます