4-2「大いなる力」
「あなた、一体な……!」
一条が言いかけると、男が手を伸ばして灰色の光を飛ばした。灰色のパージ能力の持ち主だと分かった時には一条は受け身を取れず、道の反対側に吹っ飛んだ。
「一条!くっ!」
佑心が前を向くと、今度は佑心にパージ能力が飛んできた。佑心はすぐに能力で強化した腕でガードした。心はウエストポーチに手を伸ばし、拳銃を構えてすぐに一発撃ったが、男はパージ能力で跳躍し、二人と距離を取ってビルの屋上に登った。
「っ!」
佑心もすぐに追いかけて、ふらつきながらパージ能力で屋上に飛んだ。訓練を受けたとはいえ、実践経験は浅い。心は飛んでいく佑心は見上げていた。パージ能力を持たない心に彼らを追いかけることはできない。
佑心が屋上にたどり着くと、男と向かい合った。すると、男はニヤリと笑って尋ねた。
「そうか、君もそうなのか……」
「は?」
「その力だよ。」
佑心は顔をしかめた。
(パージ能力のことか?)
「ずっと探し求めてきた、同じ力を持つ同類を……それなのに、どいつもこいつもすぐに死にやがって……クソ!」
「や、やっぱり、お前が連続殺人犯!」
男はコートのポケットに手を突っ込んだ。
「まあそう言うやつもいるか……同じ能力が使えるやつを探し回っていたからな……この能力をすこーし浴びせるだけで大概は死んじまうんだ……だからその後で包丁で刺して普通の殺人に見せかけるしかなかったが……」
男はさも当たり前のことかのようにつらつらと話を続けた。
(なっ!死因は刺し傷じゃなく、パージ能力だったのか!じゃあ、あの壁の痕はこいつがパージ能力を使った痕!)
犯行現場で一条が見つけた壁の黒い痕はパージ能力の痕。佑心は唇を噛み、男に向かって走り出した。パージ能力で強化した右拳で殴るが、男はにやりと笑って腕でガードされる。次の左パンチがそれた後、右足キックを流れで繰り出した。二か月前には考えられなかった佑心の体術だが、男はダメージを受けず左手でパージ能力を放った。
「っ!」
灰色の光に包まれて、佑心は屋上の反対側まで吹っ飛んだ。
心が空を見上げながら走っていた。
「はあ、はあ、はあ……」(佑心たちはどこに行ったんだ?)
佑心が男を追いかける前に、心は飛ばされた一条に駆け寄っていた。
「一条さんっ!」
一条は向かいの家のブロック塀にめり込み、ブロック塀はボロボロと崩れ落ちていて、一条は頭を垂れていた。
「大丈夫ですか、一条さん!」
心が近くにいくまでに、一条はふらりと立ち上がった。
「っ大丈夫……遅れたけど、受け身取れたから。舜は先に佑心のところに!」
そういわれて、心は佑心と男を追っているのだった。その時、上の方でドーンと音が鳴り、土埃が舞った。
「あそこか!」
心は走る速度を上げた。
事務局の人と車に乗っている原と川副は、なかなか戻らない三人を気にして不思議そうにしていた。原はスマホで時計を見てイラついていた。
「もう、三人は何やってるのよ……」
「さすがに遅いですね……」
そこへドタドタと一条が戻って来たのだ。車のドアに手をかけ息を整えて。
「はあ、はあ、はあ……」
「い、一条!どうしたの⁉」
原は一条の服が汚れていたり、頬が擦傷していたりするのに気づき、川副ははっと口に手を当てる。
「はあ、はあ、はあ……」
一条は左目を閉じて、額の汗を拭った。二人はそうしてやっと事情を知らされたのだった。
そんな間にも佑心と男のタイマンは継続中。男はぐったりする佑心の元に悠然と歩いて行く。佑心はぐったりと頭を垂れている。
「やっと会えた、同類に……でも君の力とは色が違うようだな……」
佑心がなんとか目を開いた。
(こいつ、パージ能力のこと、よく知らないのか……)「お前、同じ力を持つ人間を見つけて、何がしたいんだ?」
「ん?」
歯を食いしばって佑心が聞いたが、男は不思議そうに顔を傾けた。
「俺や君のようなやつを集めて、社会を正す……この力のせいで、霊感の強い俺は気持ち悪いだとかほら吹きだとかとか……否定されてきたが、それも終わりだ……君はどうだ?」
「あ?」
男は拳を強く握った。佑心は片膝を立てて、立ち上がろうとする。
「君はその力で、終わらせたいことはないのか?忌々しい力も、使いようでは世の理不尽を壊せる……そうは思わんか?」
佑心はまだ片膝をついて俯いている。
(理不尽な世の中、そうだ……パージ能力は俺の人生を狂わせた。そして確かに使いようによっては理不尽を壊せる。だから……)
「俺は俺の家族や古田みたいな理不尽をぶっ壊そうとしてんだよ!お前とは違う意味でな!」
佑心が力強い笑顔で顔を上げると、犯人は怒りに顔を歪めた。
「きっ!」
犯人はパージ能力で燃え上がった右腕を真横に上げて、佑心に振りかざす。
「くっ!」
佑心は膝をついたまま、咄嗟に両腕をクロスしガードしようとした。衝撃に備えて目をつむったが、しかし、衝撃は来ず目前で青い光が炸裂したのだった。佑心は眩しさに目を開けると、目の前になんと川副が立っていた。犯人は数メートル先に吹っ飛んで、腕を庇っている。
「川副!」
「佑心君、大丈夫⁉」
「ああ。」
佑心はそういって、口元を拭いながら立ち上がった。
「なんだ?お前もか?きっひっひ、この調子だと同類は結構いるってことだな!探し続けてきた甲斐があったってもんだ!」
いかにもヴィランのように、天を仰いで両手を前に上げる犯人。
「何なの……?」
「くっ!」
興奮する男だが、バンという音と共に突然目を見開いて苦しみだした。右手は左肩口を押さえ、膝をつき唸り出した。
「っ!なー!」
「はあ、はあ、はあ……二人とも、大丈夫⁉」
犯人が膝をついたことで、奥に銃を構えて息を切らして立つ心が見えた。佑心は安心して、グーサインを出し、心も頬を緩めた。しかし、犯人はまだ完全には制圧されておらず、地に這いながら佑心に手を伸ばした。
「この……!」
伸ばされた掌から光がじわじわと貯められていく。それに佑心が気づき、大声を上げた。
「川副避けろ!」
「え……」
川副はそれに気づいておらず、犯人が今にもパージ能力をぶつけようとしていた。とその時、青い光が細長く宙に走り、犯人の頭に命中した。犯人は一瞬で白目をむいて気絶し、ぱったり力をなくした。
「あんたたち、油断してないの!」
青い光が飛んできた方向から、原がゆっくりと宙から降りてきていた。
「まさか死んだんですか?」
「いいえ。気絶しただけよ。」
焦る佑心だが、原はジト目で倒れる犯人を見下していた。
「そんなピンポイントでできるんだ……」
「特に青のパージ能力はバランスが良くて、コントロールしやすいって言われてるからね。」
川副は肩をすくめた。
「それはそうと、一条はどこよ!あいつに聞いてここに助けにきたのに……」
原が腰に手を当てて悪態をついた時、心の携帯がなった。
プルルルル……
「一条さんからです!はい、もしもし。」
心はそういってみんなの近くに行き、スピーカーに切り替えた。スマホから小さく息遣いが聞こえてきた。
「今、殺人犯のゴーストを追ってるの!」
「え⁉」
電話の向こうで、一条は走って電話しながら、ゴーストを追っていた。
「佑心たちが犯人を刺激したから、そのゴーストも活発になって気配が分かりやすくなったんだと思う!それに活発化して憑依体化しやすくなってるだろうから、早くパージしないと!」
屋上にいる佑心たちは一条の緊迫したムードとは裏腹に落ち着いていた。
「それならきっともうそんなに急がなくても大丈夫よ。連続殺人犯はこっちで捕まえたか……なっ!」
原は犯人が気絶しているはずの足元を見て驚いた。
「犯人が、消えた⁉」
「いつの間に!」
心と佑心も続けて驚嘆の声を上げた。なんとさっき原が気絶させた犯人の男が消えていたのだ。
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