5-1「絵空事」
「何?どうしたの!」
電話口から一条の心配する声が聞こえる。
「そ、それが気絶していたはずの犯人がいつの間にかえてて……·」
「はあ?何してるの!!!とにかく!こっちに応援を寄こして!ゴーストの気配が強いって言っても、探すのも一苦労なんだから!」
ブツッ!
「うえ、切られた……」
心は勢いのまま切られた電話を決まり悪そうに見つめた。真っ先に動いたのは、原だった。
「この中なら、私が一番速い。一条のサポートに行ってくるわ!皆は犯人を頼んだ!」
「了解!」
パージャー歴がこの中で一番長い原は、パージ能力による強化した走力跳躍により移動を一番スムーズに行えるのだ。言うなり、原はパージ能力で飛び立ち、ビルから降りていった。
犯人を任されて、残された佑心、心、川副、心は眉をひそめてひどく考え込んでいた。
「でも、いつの間に逃げたんだ……誰も全く気がつかなかったなんて信じられないよ……」
「んー……」
「そのことなんだけどさ……」
佑心が真剣な顔で切り出すと、二人は驚いて顔を上げた。
「PGO本部で見た防犯カメラの映像覚えてるか?」
「え、ま、まあ。でも玄関から誰かが侵入したところは映ってなくて、別の場所から家に入ったんだろうってことか……」
佑心は心の言葉に大きく頷く。
「でも、今日の昼に行った現場は窓も壊れてなくて、勝手口とかもなかった。」
「警察もそれが分からなくて、行き詰ってたんだよね……」
川副が相槌を打つ。
「あの映像の中で、玄関の扉が一回開いたんだ。誰も出てこなかったけど、俺、なんかそこにあいつがいる気がしたんだ。なぜかは分からないけど、ただそこにいるが……」
本部で見た防犯カメラの映像。佑心がひっかかった扉が開いたシーン。佑心はそこに人の気を感じ取っていたのだ。
「それって……あの男はカメラには映らないってこと?」
「もしくは、透明人間……とか?」
川副の発言から、ホラー映画の始まりのような不穏な雰囲気が漂った。
「と、透明人間⁉そんなファンタジーみたいな……」
心はそんなことがあっていいはずがないと苦笑いをこぼした。
「川副、パージ能力で透明になれるとか、そういう効果ってあるのか?」
川副は険しい顔で考え込んだ。
「実際やってる人は見たことないけど、守霊教の説話で少し聞いたことがあるの……太古の昔にそんな司祭がいたって。伝説だけど……」
「もし本当にそうだったら……佑心、今も男がどこにいるか分かる?」
「ああ、なんとなく。」
「行こう!」
心の呼びかけに、佑心と川副が力強く頷いた。
原がビルの屋上から身を乗り出して、一条を探してキョロキョロする。
「もー、一体どこにいるのよ!一条は電話でないし!」
原は携帯を見ながら、地団駄を踏んだ。その時、原は妙な気配を感じて目を見開いた。そして勢いよく振り返ると、
「こ、これはっ!」
すぐに横のビルに飛び移り、地上に降りた。そこから暗い路地をかけていく。いくつめかの角を曲がろうとするとき、反対側から走って来た誰かと真正面からぶつかった。
「ぎゃっ!」
「イッテテ……」
原が尻もちをついて顔を上げると、一条も頭に手を当てて地面に伏していた。
「い、一条!やっと見つけた!ねえ、あんたもゴーストの気配を追ってきたんでしょ!」
「はい。奏海さんが来てくれて良かったです!早く行きましょう!」
一条は立ち上がって原に手を差し伸べた。原は不満そうな顔をしつつも、その手を取り威勢よく言った。
「ええ。あんたこそ遅れんじゃないわよ!」
佑心を先頭に、心と川副が路地を走って犯人を捜していた。
(もう少し……このあたりに……)
暗い夜の路地を突き進む。
(近い……!)
佑心は角で立ち止まり、心と川副を手で制した。角の先を慎重に覗き込み、佑心は眉間にしわを寄せた。
(いる……すぐそこに……)「舜、ここから二つ目の電柱の前。アスファルトに血痕が……」
「……見えた!」
心が拳銃を下に構えつつ壁からのぞき、標的を確認すると、すかさず銃口を敵に向け、一発撃った。
バンッ!
すると、標的のいるであろう場所に灰色の光が炸裂し、犯人の姿が露になった。
「防がれた!」
犯人はまだ心に撃たれた肩を庇いながら、左手で攻撃を防いだのだ。
「なんだ?俺が見えるのか……」
川副は側のビルの屋上に登り、佑心と心は正面から突進した。心はすぐに物陰に隠れ、佑心は正面からパージ能力を浴びせた。男はしばらく呻いたが、軽い反撃を受けて佑心のパージが途切れてしまった。佑心は反動で腕が上に上がり、後ずさりした。そのすきに心は物陰から出て拳銃を構えるが、男は能力を発して心の拳銃が飛ばされてしまった。男は矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。心自身にもその攻撃が当たり、最初の一条のように吹き飛ばされてしまった。
「舜!」
一方、川副は上空からいくつも攻撃を仕掛けて、男を壁際に追いやることに成功した。
「佑心君!」
佑心は川副と目配せして、一気に光束量を増やしたパージ能力を当てた。すると、閃光弾のような何かが男の目の前で炸裂し、佑心も川副も一瞬にして視界を奪われた。上空から見ている川副は眩惑が治まるなり、反対側から攻撃しようとしてあることに気づいた。
(見えないっ!……うそ、犯人がいない!)
焦って辺りを見回すと、佑心の背後に素早く回り込んだ男がかすかに見えた。
「佑心!」
佑心はその声に気づいて後ろを振り返り、迫る攻撃に目を見開いた。このままではまともに攻撃を受ける。
上空にいた川副は間一髪のところで、佑心の背中に迫る男の間に入って佑心の背中を守った。しかし男は川副を横に軽々と蹴り飛ばした。川副は圧倒的に力負けして飛ばされてしまう。すぐに男はすぐ目の前の佑心にパージ能力を当てた。佑心は振り向きざまに、攻撃を受けてしまった。それが数秒で途切れたかと思うと、目の前にはもう男はいなかった。
(また消えた!)
男を失って一秒とせず、佑心は後ろから誰かに足をかけられて派手にこけた。また男の奇襲。仰向けに倒れた佑心の目の前にパージ能力を宿した腕がどんどん迫って来るのが見える。佑心は絶体絶命の状況に呼吸を忘れた。
(っやられる!)
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