歪な黒い感情
1. 依存
どうして、こうなったんだろう。どうして私は、この世に存在しているのだろう。最近はずっとそのことで頭がいっぱいだ。
女の子になって、全ての日常が崩れ去り、今の私は哀れで惨めな人間に成り変わった。この世に存在する価値もない社会不適合者。
時々思い出す。あの時の事を。私が引きこもりになってしまった原因である、あの記憶を──。
「っ……!?」
暗闇に包まれた部屋。どうやら私は、夢を見ていたようだ。
「はぁ……はぁ……」
また悪い夢。そのせいで、私の精神はすり減っていく。
「お兄ちゃん……? どうかしたの……?」
隣で寝息を立てていた妹が起きてしまい、そのまま私に声をかけた。
「……なさい」
「……え?」
「ごめ、なさい…………」
気がつくと、私の目からは涙が溢れていた。
「ど、どうしたの……!」
「ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」
「お、お兄ちゃん……!?」
止まらない自己否定と際限なく襲いかかるトラウマ。
正常に呼吸が出来ない。心が締め付けられる。苦しい。辛い。痛い。
「はっ、はぁっ、うぐっ……はぁっ……」
「大丈夫。大丈夫だよ、ゆっくり息を吸って……吐いて」
妹は優しく抱きしめてくれた。
「……はぁ……はーっ……はぁ…………」
「大丈夫、私がついてるから」
「……どこにも、いかないで…………」
「どこにも行かない、ずっとそばにいるよ」
こうやってただ妹に依存して、甘えて、慰めてもらって。私は本当に、ダメな人間。
生きている価値がなくて、依存しないとまともに生きられない私なんて──。
とっとと死んじゃえばいいのにな……。
───
今のお兄ちゃんの状態はあまりいいものとはいえない。
あのトラウマで心はボロボロ。不安や恐怖を感じると意味もなく謝ったり泣いたりしてしまう程には、精神的にやられている。
「……大丈夫?」
ある時、私とお兄ちゃんがベッドで横になっていた際。
「……ごめん、なさい。生まれてきて、ごめんなさいっ……」
こうして度々メルタルが壊れてしまうお兄ちゃんは、その度に謝罪を口にして泣いてしまう。
「謝らなくてもいいんだよ。お兄ちゃんはこうやって生きているだけで偉いよ」
頭や背中をさすり慰めの言葉を掛ける。でもお兄ちゃんの震えと恐怖心は止まらない。心做しか、私を抱きしめる力が強くなっていく。
「私なんかがいて、うざいよね……鬱陶しいよね……。ごめ、なさ……。ごめん、なさいっ……ごめんなさいっ…………!」
止まることを知らないであろう自己否定。
溢れ出る嗚咽を押し殺して。でもできなくて、最終的にはぽろぽろと泣いてしまう。
「そんなことないよ。私はお兄ちゃんと一緒にいれて幸せだから、絶対にそんなことない」
私の胸の中でひたすら涙を零すことしかできないお兄ちゃんは、とても辛そうに見えた。
「私なんか、私なんか…………」
自分を卑下に扱うことすらもあった。例えばこうやって「死んじゃえば――」なんて。
「お兄ちゃんッ!」
だから私は、死を仄めかすお兄ちゃんに怒りを覚えた。そんなこと言わないで欲しいから。私はお兄ちゃんに生きていて欲しいから。
「っ!? ごめんなさいごめんなさいっ……! 許して、くださいっ……!」
お兄ちゃんの震えがまた一段と強くなった。
「あっ……ごめん、強く言っちゃったね。大丈夫、大丈夫だから」
もう一度ギュッとお兄ちゃんを抱きしめる。さっきよりも強く。お兄ちゃんの存在全てを肯定するように、強く。
「そんなこと言わないでよ。私はお兄ちゃんのこと大好きだから。生きていてほしいから。だから、そんな悲しいこと言わないで……?」
「ぐすっ、うぅぁ……」
お兄ちゃんはなにも悪くない。
「大丈夫、大丈夫だよ」
それなのにどうしてお兄ちゃんがこんなに辛い思いをしなければならないのだろう。ただお兄ちゃんは、自分らしく精一杯生きていただけなのに。
もうこれ以上、お兄ちゃんを傷つけたくない。
なのに、どうして私は――。
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