新情報




 日埜恵ひのえ善嗣よしじと共に日埜恵ひのえの記憶を取り戻す旅に出る一週間前。

 二つの大きな風船にそれぞれ恋寧ここね周空ちからを入れて、もう一つ作った大きな風船に乗って町まで飛んだ呂々爺ろろやは、警察に恋寧ここね周空ちからを引き渡したその足で自衛組本部まで向かうと、玄関ホールで仲間の一人が興奮した面立ちで待ち構えていたのだ。


 名前は加寿美かすみ

 アフロ頭で糸目、常に白衣を身に着けている細身の若者男性である。


「悪の帝王について、新しい情報を得たっす」

「何じゃとおおお!?」


 呂々爺ろろやは目をかっぴらいては吠えると、早く教えろと加寿美かすみに迫ったのである。


「ふふ。悪の帝王は何百年も前に死んだと噂されていた。それは知っているっすね?」

「もちのろんじゃ」

「けど、どうやって死んだかは、誰もわからない。有力候補は悪の帝王と敵対する組織、つまり今の世の中を誕生させた組織によって、殺されたと言われている。それも知っているっすね?」

「もちのろんじゃ」

「でも、新しい情報によると、殺したわけじゃない。封印したんすよ。己の身体を使って」

「な、な、何じゃとおおお!?」

「何じゃとおおお!?すよねえええ!?」


 呂々爺ろろや、吠える。

 加寿美かすみもまた、吠える。


「つ、つまり、己が身を犠牲にして、悪の帝王を封印したと。そして、己の寿命が尽きると同時に、悪の帝王をあの世へと導いたのじゃな。うむ。ではもう、悪の帝王は死んだというわけじゃな。よかったよかったまことよかった。その悪の帝王を封印した御仁の名前はわかっておるのか?墓参りに行かなければならぬ。感謝を申し上げねばのう。もしも墓がなければ、わしが身銭を切って墓を建てるゆえ」

「死んでないっす」

「ほう。つまり生きている、と?」

「はいっす」

「ほう。ほうほうほうほほうほほう」

「まだ生きているらしいっす」

「………何百年も生き続けているってかいのう?」

「そうっす。生き続けて、悪の帝王を封印し続けてるっす」

「ふうむふむ。ふむふむふむ」

「ただ、何百年も悪の帝王を封印し続けている所為で、支障が出始めてるみたいっす。まずは、部分的な記憶の喪失。次に身体の部分的な喪失。最後に存在の喪失。その封印している人が死んで、記憶がみんなから消え去ったら、悪の帝王が復活するみたいっす」


 呂々爺ろろやは両頬に手を添えて、首を左右に激しく振った。

 五分間。無言で。

 そののちに、不敵な笑みを浮かべた。


「………ふ、ふふ。やはり、悪の帝王は一筋縄ではいかぬようじゃな」

「まったくっす。ここまでしても倒せないなんて、しつこすぎっす」

「その今もなお、封印し続けている尊き御仁のお名前は何じゃ?」

「わからないっす」

「………うむ。相わかった。また新たな情報を得たら教えてくれ」

「はいっす」

「わしは護衛の任に就いて、あちこち旅をする事になったゆえ、おまえの魔法道具で頼むぞ」

「はいっす」


 呂々爺ろろや加寿美かすみにまたのうと言うと受付に向かい、警察に恋寧ここね周空ちからを引き渡した事を伝え、自らの研究室へと向かい、自ら開発した魔法道具をありったけ持ち出すと、大きな風船に乗って、日埜恵ひのえ善嗣よしじの元へと向かったのであった。











(2024.6.19)



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