ぜんぶ




 『花音かのん』店の地下一階の宿泊施設内の一室にて。




「絶対に赦さない。あいつだけは。絶対に。あいつさえ居なければ、今頃、ペガサスは、私と一緒に旅をしていたのよ。私が先だったの。約束したのは。私が。母ペガサスと約束したのよ。私と母ペガサスはとっても仲良しだったから。だから、母ペガサスもこどもを、ペガサスを私に託してくれたのよ。託すって約束してくれたの。それを。あいつが。私が見ていない隙に何度も何度も訪れて、ペガサスを誑かし続けたの。母ペガサスもよ。あいつに誑かされた。あいつが悪いの。ペガサスは悪くない。母ペガサスもよ。私は、何度も何度も、ペガサスを正気に戻そうと頑張ったわ。母ペガサスに説得してくれって頼んだわ。でも、ペガサスの意思を尊重したいって、ごめんなさいって、何度も何度も謝られたわ。あいつが悪い。ペガサスは悪くない。あいつじゃなくて、私と一緒に旅行に行こうって。誘い続けたわ。でも。ペガサスは首を縦に振ってくれなかった。私は根気強くペガサスに話しかけ続けたわ。優しくし続けたわ。でも。それでも。ペガサスはあいつがいいって言ったわ。だから。あいつが悪いのよ。ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ。あいつが悪いの。ぜんぶ」




 ペガサスが死んだのも。

 私がペガサスを殺したのも。

 ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ。

 あいつの所為。











(2024.6.14)



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