風船




 数日前。

 日埜恵ひのえ呂々爺ろろやが熱い握手を交わし合った後の話である。

 注文した野草ジュースで乾杯をしてのち、呂々爺ろろやが口火を切った。


『おまえ。すんごい守護霊がついておるの』

『え?そうなの?』

『存在に気付いていなかったのか?』

『うん。あっ。もしかして、ゴーレムを倒したのって、守護霊かも。光が俺から発生したかと思ったら、ゴーレムが倒れてたから』

『うむ。そうに違いない。じゃが。おまえに存在を認知されておらんで、拗ねとる、いや、怒っているようじゃぞ』

『え~。ごめんね~。記憶喪失だからゆるして~』

『そんな謝り方があるか。もっと誠心誠意を込めんかい』

『え~。ちょう込めてるんだけど~』

『おまえ。守護霊にそっぽ向かれるぞ。下手をすればおまえから離れるぞ』

『大丈夫。こんな俺を気に入っているはずだから』

『どこから来るんじゃその自信は』

『己の身の内から』

『ほおう。では、攻撃用の呪文も、回避用の呪文も、脱出用の呪文も、回復用の呪文も。己の内から容易く呼び寄せられるのかのう?』

『無理』

『即答か』

『即答』

『ううむ。わしが四六時中張り付いて、おまえたちの守護と犯人の逮捕を成すつもりじゃが、自衛できるに越した事はない。どれ。わしの風船開発物の一つを授けよう』

『一つと言わずいっぱいください』

『無理』

『即答か』

『即答じゃ』


 呂々爺ろろやは言葉通り、一つだけ、風船開発物を日埜恵ひのえに手渡した。

 見た目は普通のゴム風船ですが、使用者が膨らませれば、魔法使いだろうが魔法使いでなかろうが、使用者の姿形に変形するばかりか、使用者そっくりの自立行動が可能なのである。

 さらに、使用者の姿形に変形した風船開発物に魔法使いに魔法力を込めてもらえば、一度だけだが、その魔法使いの最大の魔法呪文を使用する事が可能なのである。











(2024.6.13)



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