重力
「おまえ。案外いいやつなんだな」
「暗殺者に似つかわしくない褒め言葉だな」
地下から一階に上がり、『
そうして足を止めたのが、人間が創り出したものが何もない草原のみが見渡せる場所であった。
立ち止まった
「ああそうだな。おまえへの称賛はやっぱり撤回する。人をここまで歩かせやがってこのやろう。足が棒になっちまったじゃねえかばかやろう」
「わざわざ素直に歩いてオレの後についてこずとも、オレが立ち止まった場所まで、箒で飛ぶか、瞬間移動するか、サイドカーに乗って来ればよかっただろう」
「………ふん。口数の多い男だ。さぞかしおモテになるのでしょうな」
「オマエこそ、口数の多い男だ。しかし今は、口よりも、手を動かせ」
「いや。まだ口を動かさせてもらう」
「何だ?」
「
「ああ。爆発させたのは確かにオレだが、すり替えた花束を用意したのは、オレじゃない。依頼主だ。ゆえに、オマエの記憶喪失の原因は、依頼主に聞かねばわからぬだろうな。ただし、オレが依頼主が誰かを明かす事はない。オレがオマエに負けたとしてもな」
「いや。別に構わないさ。俺って、すんごい魔法使いだったみたいだからさ。ちょちょいのちょいでおまえを倒して、ちょちょいのちょいでおまえの頭の中を覗いて、終わらせるからさ」
「そうだな。おまえはすごい魔法使いだ。その言を実行できるほどにな」
「えっへん」
「いや。違うな。すごい魔法使いだった。な。なんせ。部下の花束が爆発物とすり替えられている事に気付く事もなく、部下を爆発から守る事もできず、部下の蘇生を完ぺきにこなせなかった。オレが動く前に、すでに呪われていたのか。もしくは、デキソコナイに成り果てたか」
侮蔑を多分に孕んだ物言いだった。
けれどそれは、
色もなく、形もなく、温度もなく。
ただ、相対する者からそれらを奪い取るような、果てない重力だけが、そこにはあった。
(2024.6.13)
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