第28話 早朝鍛錬

 結局、俺たちはそのままリゾムの町の宿屋で一夜を過ごした。

 朝食を済ませた後、まだ朝霧が残る早朝――ダンジョンの近くで準備運動も兼ねた鍛錬を行う。


「はあっ!」

「ふん!」


 まずはミレインとの剣術修行。

 昨日のトーラとの戦いに触発されたのか、いつも以上に気合が入っている。自慢のスピードに加えてパワーも増している。

 どうやらトーラの加入は彼女にも相乗効果をもたらしているようだ。


 相乗効果といえば、メルファにも表れている。

 あの子は直接トーラと戦ったわけではないのだが、ミレインに比べると年が近く、意識をしている様子。


 俺が彼女の魔法鍛錬に付き合っている間、ミレインとトーラのふたりは互いに実戦形式の鍛錬を――というか、まあ、昨日の続きをしているのだが、メルファはそれが気になっているようだ。


「どうした? 意識が乱れているぞ?」

「っ! ご、ごめんなさい……」


 もしかして、無意識なのか?

 

 だが、あの表情は……どちらかというと「大好きなお姉ちゃんがもうひとりの妹とばっかり遊んでいてずるい」という顔つきに見えるな。


 こればっかりはタイプが違うからなぁ。

 魔法使いであるメルファと接近戦メインのあのふたりでは根本的に鍛える部分が違う。あっちふたりは共通点も多いので一緒に鍛錬する機会も増えるだろうが……これはちょっと考えておかないといけないな。


 メルファはあまり感情を表に出す子じゃないから無理をしていても分かりづらい。

 それでも、やはり弟子にはしっかり力を出し切れる環境で鍛錬に臨んでほしいからな。


 ただ、これにはミレインの協力も必要になってくる。

 あとでこっそり話をしておくか。


「よし。とりあえず今日はここまでだ」

「えっ? 早くない?」


 まだまだやりたいと不満そうなトーラだが、今日のメインは鍛錬ではない。

 それをすっかり忘れているようだな。


「あくまでもダンジョンに入る前の鍛錬だと言っただろう? ダンジョンに入る前から満身創痍になっても困るからな」

「あっ! そうだった!」


 本気で忘れていたらしい。

 やれやれ……困った弟子だよ。


 とはいえ、グリーン・バレーには一度探索に入ったことがある。

 不死花アンデッドフラワーの乱入によってしっかりとした鍛錬はできなかったため、今日はそのリベンジ戦も兼ねていた。


「ようやくじっくりと拝めそうだな」


 気合も新たに、俺たちはダンジョンへと乗り込んでいった。

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