あれ? こんなはずじゃなかったのに、何(なん)で?

 私はめいれて、大型おおがた電気店でんきてんへとはいった。十階じゅっかいくらいの建物たてものでレストランもある。そこでおひるべてから、私はノートパソコンっていた。


「ほら、めいちゃん。大学だいがくではマックブックを使つかってるんでしょう? 私はウィンドウズなんだけど、マックにも興味きょうみはあるのよ。エアも重量じゅうりょうかるくていいけど、やっぱり高性能こうせいのうのプロのほうわかには、いいんじゃないかしら。いまAIエーアイすごいものねぇ、いまから活用かつようしていかなきゃ! 叔母おばさん、四十よんじゅうまんえんくらいならせるから、ここで大学だいがくようのものをってかない?」


 ずかしながら、私は自分じぶん趣味しゅみであるノートパソコンのショッピングに夢中むちゅうだった。もう私は執筆しっぴつようのパソコンをふくすうだいっているので、めいあたらしいマックブックをってあげたい。クレジットカードでえるがくだし、いま時期じきならはる学生がくせいけセールで、価格かかくやすくなるはずだ。


「あの、大丈夫だいじょうぶです、本当ほんとうに。そんなにたかいのをわれたら、私がははおこられますから」


 めい必死ひっしに私をめて、いいだなぁと私はおもった。めいにはプレゼントではなく、おかねしょうひんけんおくることが私はおおい。私のファッションセンスでふくおくっても、られるとはおもえないので。なにしろめいはドレスに固執こしつしているようなだ。


「そう? まあマックブックも、またあたらしいバージョンがるとかわれてるしねぇ。もー、めいちゃんったら真面目まじめよね。いえったじゃない、『叔母おばさんと、羽目はめはずしてごしましょうよ』って。もっと堕落だらくしてもいいのよ?」


 私がめいにおかねおくるたび、あねからは『むすめ教育きょういくくないからめて』とおこられてばかりだ。私かられば、いつも姉はただしい。私は遺産いさんいつぶすばかりで、とっても電化でんか製品せいひんくらいにしか大金たいきん使つかわないので、めいには可能かのうかぎなにかをおくってあげたかった。


「……そんなに真面目まじめじゃないですよ、私」


 ずかしそうに、そうってめいは、ふっと私かららした。うーん、私には彼女かのじょなにかんがえているのかからない。あと電話でんわで、あねからめいちゃんの思考しこう様式ようしきくべきだろう。


「ずっと電化でんか製品せいひんばかりてても仕方しかたないわね。貴女あなたうえから羽織はおふくいましょうか」




 パソコンからはなれて、私たちは大型おおがた店舗てんぽなかにある洋服店ようふくてん移動いどうした。まだ春先はるさきなので、夕方ゆうがた気温きおんがるかもしれない。半袖はんそでドレスのめい風邪かぜをひかせては、いけないではないか。


 本当ほんとうは、もっとオシャレなみせうべきなんだろうけど、どうせわかのファッションなど私にはからないのだ。やや、地味じみめのジャケットをえらぶ。これをうえかられば、めい普通ふつうっぽくえるだろう。私は私で、なんだか彼女のドレス姿すがたいとおしくかんはじめていた。彼女は希少きしょうな、おひめさまで、そのうつくしさは私だけがっていればいのである。


たかふくったら、貴女あなたのおかあさんにおこられちゃうみたいだから。こんな安物やすものしかプレゼントできないのよ、ごめんなさいね」


「とんでもない! 叔母おばさんにえらんでもらえて、すごうれしいです。一生いっしょう大切たいせつにしますね」


 冗談じょうだんだとおもいたかったが、めいいたって真剣しんけん様子ようすだ。なるほど、姉がっていた、めいの『せいしんてきあんてい』な状態じょうたいというのは中々なかなか重症じゅうしょうなのだろう。そろそろかえって、彼女をいえかしつけるべきかもしれない。


 夕方ゆうがたきと同様どうように、アプリでタクシーをんで電気街でんきがいる。ドレスをは、電車でんしゃなかわるちをしてしまうので。車内しゃないむと後部こうぶ座席ざせきで、私のかためいあたまが、もたれかかってきた。何処どこりつめた雰囲気ふんいきがあった彼女は、つかれたのか身体からだちからけている。


「ジャケット、似合にあってるわね。わかは、ちょっと地味じみなくらいのふくでいいのよ。存在そんざいそのものがはなやかだからね。つかれたならねむってていいわよ」


「そういうわけじゃないですぅ……」


 小柄こがらな彼女が、ねたような声で、私のそでつかんでくる。ねこあまえているようで、やわらかい全身ぜんしんから、わかねつが私につたわってくる。そのねつが私のおくうずかせて、冷静れいせいになるようつとめるのに苦労くろうした。勘違かんちがいしてはいけない、勘違かんちがいしてはいけない。


 そのうちめい可愛かわいらしい寝息ねいきはじめた。私は携帯けいたいで姉にけてみる。すぐにつながって、『どう、むすめとは上手うまってる?』とこえがした。


仲良なかよくは、できているけど。めいちゃん、ドレスで着飾きかざって、いまは私のとなりねむってるわ。なんなの? めいちゃんはドレスがだんなの? わかかんがえはからないわ」


『私だってむすめのことなんかからないけどね。それでもそだてって、できるものよ。とにかく仲良なかよくできてるならなによりだわ。大人おとななんだもの、むすめのことはきにあつかってくれていいから。じゃあ、まだ私は仕事しごとがあるからるわね』


 られてしまった。ドライすぎてすごい。私がめい、とわれているかのようだ。意識いしきしてなかったけど、さっきの通話つうわは私とめいの、情事じょうじあとみたいな状況じょうきょう説明せつめいだったのに。


 もちろん、そんなわけにはかない。きっとめいは、姉と同様どうよう男性だんせい結婚けっこんしてしあわせになるのだ。いま状態じょうたいだけど、たぶん花粉症かふんしょうのようなもので、さくらはなころにはめい正常せいじょうになるのだろう。私にはサクラチルという、受験じゅけんちたこうこうせいけのメッセージみたいなしかのこらない。私のさくらは、永遠えいえんかないのだ。私は恋愛れんあい成就じょうじゅすることなくみじめにせいえる。めなく、そんなことをかんがえた。




 そしてタクシーで、めいいえへと帰宅きたくして。私が発熱はつねつでダウンしたのは、そのあとだった。

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