第2話 夜遊びっ!
「……そろそろ。周囲を探索すべきじゃないか」
オレ達がこの町に滞在して、一月が過ぎた。
魔王の侵攻からこの地を護るため派遣されたものの、未だこの辺りを根城にする魔王軍の尻尾を掴めていなかった。
オレ達が到着した瞬間から、パタリと襲撃が無くなったのだ。
王都で偉いヒトから受け取った軍資金は既に半分だ。何かしら成果を上げないと面目がつかない。
真面目なアルト様はそう考え、全員で周囲を索敵しようと提案した。
「でも、その隙を突かれたら?」
「だが、いつまでもこうしているのは」
オレやバーディは、その考えに反対だった。
魔王軍はオレ達がここにいるからこそ、警戒して手を出してきていない可能性が高い。
オレ達が探索に出てしまったら、その一瞬のスキをついて攻めてくるかもしれない。
重要なのはメンツではなく、市民を護ることだ。そう言うとアルトも納得し、防衛と索敵の二班に分かれるという落とし所になった。
「ならば、アルトと一緒に索敵するのは私だ。近接戦闘能力がないので、一番強いアルトに守って貰うのが当然だろう。探査魔法も使えるから、敵を見つける可能性が高い。アルトと一緒以外に考えられない」
「いや、お前は近接戦闘出来るだろ。前にガンガン
「アルト様! わ、わた、私はアルト様と一緒が良いです!」
「……アルトに抱き付くな、女狐。アルトは、……ウチのだ」
そしたらまぁ、大騒ぎになった。
全員で八人だし四人ずつに分かれよう、なんて
アルトと同じ班になれるのは三人まで。つまり、四人娘から一人あぶれるのだ。
「マーミャは剣士だしアルトと役割かぶってるよな」
「うるさい黙れ! 近接戦闘要員はいくらいてもいい、むしろ要らないのはお前だろ!」
「……そもそも索敵に、聖職者とか魔術師とかいる?」
「け、ケガ人とかいるかもしれませんし、私はついて行くべきです!」
と言うか
こっちにアルトが来てくれれば、すべて丸く収まる気がする。四人娘のうち、誰も抜け駆けしたことにはならないし。
「と、思うんだが一応オレも女だ。今のをオレの口から言えば修羅場になること請け合いだろう。……お前ら、それとなく提案してこい」
「……そうだね、確かにそれが無難かな。僕、アルトに言って来るよ」
「頼んだぜ、ルート。はぁー、何でオレ達がいちいち気を遣わなきゃならねぇんだ」
「そりゃバーディ、お前がモテねぇからだろ」
「ぶっ殺すぞ」
ルートはため息を吐くと、ピョコピョコ頭を揺らし修羅場に割って入っていった。
スゲぇよな、ルートは。あんなキッツい視線の中を突き進む度胸なんて、オレにはないよ。
ほら、全員の目が釣り上がってきたじゃん。絶対ブチ切れる五秒前じゃん。
「……と、言う訳でどうかな? アルト、たまには僕らと一緒に行動するのは」
「別に、構わない。よし、ルート。よろし────」
「「「良くない(わ)(よ)(です)!!」」」
まぁ、やっぱりゴネるよな。
「油断してたわ……女の子みたいな顔付きしてる時点で、警戒しておくべきだった」
「ルートさん、まさか貴方までライバルだったなんて……負けられません!」
「……このガチホモ。ウチの恋路を邪魔するな」
「しゅ、衆道とは、なんと非生産的な! けしからん! 実にけしからん!」
「君達は一体何を言ってるんだ」
バーディに逝かせるべきだったかな。ルックスが中性的なルートが行ったせいで、面白い誤解が広まっている。実に尊い犠牲と言えるだろう。
「おい、早く逃げるぞ。こっちにも飛び火しそうだ」
「了解。逝くのは一人だけで良いもんな」
即断即決。勇者には、時として冷徹な判断を求められることがある。
オレ達を薄情だと思うな、ルート。熱くなった四人娘に関わるのは、ぶっちゃけ面倒臭いのだ。
「さらば、ルート」
音を立てぬよう、オレ達はソーッと部屋の外へ脱出した。
よし、これでもうオレ達は自由だ。
「……折角だし、行っとくか?」
意味ありげに、バーディがクイッと小指を立てる。
「よし、行こうぜ」
その問いにニヤリと笑って答える。男二人、……では無かった。男女が二人、夜の街に消える。その足の向かう先は……色街。
誤解しないで欲しいが、オレとバーディはそういう関係ではない。オレは、前世の名残もあってか、女として生を受け十と余年、未だに女の子の方が好きなのだ。本番は出来ずとも、楽しくチヤホヤして貰う分には女の子が良い。
手持ちの財布の額を確かめながら、いやらしい二人は夜の闇に消えたのだった。
「ちょっと! 僕はホモなんかじゃ……フィオ! バーディ! 助け、って居ないし!?」
「……アルトを衆道へ引き込む異端分子……。慈悲はない」
「あ、アイツら逃げたな!? 違う、誤解だ、僕はちゃんと女性が好きで……、やめろ! 君は女性だと言うのに、なんて場所を狙っているんだ!」
「もぐだけで済ませてやるから安心しろ」
「も……もがれてたまるかぁ!」
この街の色街は、少しばかり特殊な文化がある。
「今日は私なんて如何かしらー?」
「おっ! そこのおにーさん! 私と楽しくお喋りしよーよ!」
街に入ると、すぐさま道端で女の子が寄ってくる。
この街では、店と嬢が完全に別々なのだ。店に所属する嬢なんてモノは居らず、路傍や紹介所で先に好みの娘を探し、フラフラと連れて街を彷徨い、そこで気に入った店に入る。
いわば街ぐるみで提携した一つの巨大なお店なのだ。この街の全てが、既にキャバクラであり、風俗なのだ。
「バーディ、今度は紹介所まで我慢するんだぞ? 路傍で売りこむ奴に当たりは殆どいない。オレ達は、学習する生き物なんだ」
「馬鹿言え。オレ達は今、資金の使い込みがバレて殆ど金持ってねぇじゃねぇか。バイト代だけで良いもの食うなら、嬢は路傍で当たりを探すしかねぇだろ」
「嬢と遊ぶのに、肝心の嬢に金をかけないでどうするんだよ! ブサイクと飲んでも飯が不味くなるだろ!」
「せっかく良い嬢を指名できても、飲み食い出来なきゃすぐ帰られちまうだろーが! 飲食代にこそ金をかけるべきだよ、路傍嬢だって当たりはいるはずだろ!?」
この街にいる嬢は、人気が出て来ると紹介所にスカウトされ、ここに所属すれば定期的に給料も貰えて仕事の斡旋もされるというシステムになっている。人気のある嬢なだけはあって、紹介所に居るのは美人や気立ての良い話しやすい娘が多い。
一方、新人や人気のない嬢は、街の所々でセクシーな衣装を着て立ち、自分を売り込む。比較的安めの値段で同伴してくれるから、敢えてこちらを選ぶ人も多い。当たるかどうかは、運次第。金だけ欲しいブサイクから、未来のNo.1クラスの美女まで様々な出会いがある。
「いーや、ここは全財産はたいてでも良い娘を探すべきだ。前みたいに、見た目はソコソコでも性格最悪だと話にならん。特にウチの女性陣は美形揃いなんだ。ソコソコの美女程度だと霞んじまう」
「そうだよ、性格最悪なのを選んだのが前回の失敗だった。今回は性格重視で行く、絶対に失敗しない。俺に任せろ」
「……性格良くても、ゴリラは嫌だぞ」
「まぁ見とけ。……お、良いのが居るな。行ってくる」
そう言ってバーディはいやらしい笑みを浮かべながら道端でセクシーなポーズを取る無数達の中に入っていった。果たして鬼が出るか蛇が出るか。
道端に設置されたベンチに腰掛け、オレはバーディの帰りをそわそわと待った。
「は、初めまして! 私はパ、パルメと言います!」
やがてバーディが連れてきたのは、少し癖毛でそばかすの可愛らしい、色街の嬢にしては少し地味な服の女の子だった。やや緊張していて、あたふたとしている。
……こ、これは!
「もしかして、新人さんかな?」
「は、はい! 今週から働き始めました、よろしくお願いいたします!」
バーディの奴、とんでもない賭けに出やがった。
ド新人なら確かにフレッシュで、性格も捻ていないことが多い。けれど口下手だったり、こっちが気を遣わなければならないと言うリスクもある。
話が合い、会話が上手く弾めば良いが、逆にひたすら無言が続くハメになる事も多い。
しかしバーディの顔を見ると勝ちを確信しているようだった。何か狙いがあるのだろうか?
「……今日は、よ、よろしくお願いいたします! その、今から本番と伺っていますが、私はまだ慣れていないので色々とご迷惑をおかけするかと……」
「……待て、いきなり本番だと!?」
バーディ、お前まさか! 酒も入れずいきなり本番申し込んだのか!? 新人に?
酒というのは本番の前の潤滑油だ。水仕事に慣れている嬢でも、やはり酒があるかないかで行為の感度は変わってくる。
コレは、かなり悪手だぞ? 新人さんに、痛い思いをさせるだけになってしまうかもしれない。
「落ち着けフィオ。お前の考えていることもよく分かる。だが、オレを信用してほしい」
「……お前には、何かしら考えがあるんだな?」
「ああ。じゃあパルメちゃん、一緒に行こうか」
「はい! お供致します!」
そう言ってにへらと笑う嬢。まだ多少に緊張は見て取れるが、ハキハキと話すし口下手では無さそうだ。美人……と言えるかの境界くらいのルックスではあるが、こういう娘こそが話していて楽しい娘なのかもしれない。
では、バーディ。お前の「考え」とやら、見せて貰おうか。
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