TS転生してまさかのサブヒロインに。
まさきたま(サンキューカッス)
第1話 てんせー!
「なあ、聞けよ親友。オレはな、異世界に転生するってのが、ずっと前からの夢だったんだ」
「知ってるよ。俺達二人で、夜通し語り合ったじゃねぇか」
人々が行きかう往来のど真ん中で、オレは何を言っているのだろうか。世間でいうところの引きこもりだったオレにとって、友人と言えるのは目の前のこの男くらいだった。コイツとは小学校以来の幼馴染で、オタク仲間で、親友だった。
お前が女の子だったらよかったのに、とは互いに冗談を言い合ったくらいにオレ達は仲が良かった。
「きっとオレはさ、凄いハーレムを作ってやるんだ。全員がオレのこと大好きでさ、一人ひとり性格は違うけどみんないい娘でさ。ちょっとくらいの浮気は大目に見てくれるけど、ちょっとやきもちは妬いてくれる」
「そんなに都合良くいくわけねぇだろ、バッカじゃねぇの?」
「いくさ。なんたって異世界のオレは、超イケメンで超強くて、お金持ちで、皆の憧れなんだぜ」
「だからソレ、都合よすぎだって言うんだよ!」
多くの人が見ている公道で、オレ達はTPOも弁えず、こんなバカ話を語り合っていた。通りがかった女子高生が、オレを見て引いていた。傷つくなぁ、まったくもう。
ピピー、と笛の音が鳴る。音の方向を見ると、青色の制服を着たおじさんたち慌てて駆け寄ってきていた。さてはもう、通報されちまったのかな?
「そんでさ、世界最強の存在になったオレは各地に現地妻作りながら世界中を旅してさ。何処に出かけても、皆がオレを歓迎してくれてさ」
「ああ、良いな。そうなったら最高だなオイ。残念だが、そんなことあり得ねぇけどな」
「あり得るさ。だからよ、親友」
───────そんなに、泣くなよ。
血塗れで倒れたオレの前にしゃがみ込み、大粒の涙を流す親友に、オレは諭すようにそう告げるのだった。
こんな、楽しい馬鹿話ももうすぐ終わり。オレの意識は、徐々に遠のいていく。
つま先の感覚がなくなった。足の感覚がなくなった。指先の感覚がなくなった。手の感覚がなくなった。
だんだん寒くなってきた。頭がぼぅとしてきた。俺が寝そべる汚ったねぇ道路は、赤黒く彩られていた。
オレの腸は、公道に散乱していた。オレの腹は、半分以上が削り取られていた。
いきなり銃を構えた馬鹿が、いかにもヤクザなオッサンを狙って発砲し、たまたま後ろを歩いていたオレに鉛弾を撃ち込んだのだ。しっかり狙えよな、まったく。
悲しいかな、オレは助からないだろう。父さん母さんに申し訳ない。
父さん母さん、ちゃんと悲しんでくれるかな。『ヒキニート、誤射により死亡』なんてネット掲示板なら間違いなく煽られる。
「おい、黙るんじゃねぇよ! バカ寝るな、寝たら二度と起きれねぇぞ!」
「……まだ、起きてるよ。なぁ、聞いてくれ親友」
なんか、既に全身の感覚がない。そして激痛の中、耐えがたいほど眠い。だが、今の親友の声ではっと意識が戻ってきた。グッジョブだ。死ぬ前に、親に最期の言葉を残すくらいは、やっとかなきゃな。
「どうした? なんだ、言ってみろよ」
「悪いがオレはさ、今からちょっくらハーレム作りに行ってくるわ。両親には、そうだな。一言、ありがとうって伝えてくれ。余計な言葉は何もつけない。ただ、息子がありがとうって言ってたって、伝えてくれ」
「おい、待てってば! ほら、見えるか? 救急車だ、救急車が来たぜ。お前だけにいい思いはさせねぇ。もうちょっとこの現実で頑張ってもらうからな!」
「ははは……。オレ、現実とかいうクソゲーから先に卒業できるみたいだわ。お前は、もう何十年かしてからこっち来いよ?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! ほら、救急……人が出てきた、今……前を病院に運……れるんだ。だから、……!」
「何だよ、何言ってるんだお前。よく聞こえねぇわ、はっきり喋れ」
「こ……・! ……・・ば……・!!」
「だから、聞こえねぇってば。……ああ、そっか。もうオレ、耳聴こえないんだな」
「……!」
「分かった分かった。聞こえねぇけど」
「……………………」
…………………………。
と、言うのがオレの前世の死に様だった。表題を付けるなら、「ヒキニート、暁に死す」。いや、そんなにかっこいい死に様ではなかったな。せいぜい「ヒキニート、無事ひき肉になる」くらいだろうか。
正直に言おう。オレはネタだと思っていた。異世界転生なんてものが実際に起こるなんて、信じていたわけではない。俺TUEEEEEEとかハーレムとか、完全に創作のネタだと思い込んでいた。
────来世。
剣と魔法が蔓延るいかにもファンタジーな世界に生を受けたオレは、二、三歳頃から変な皮疹が胸に浮かびあがっていた。なんだコレ? とか疑問に思いながらも特に気にせず居たのだが、ある日、水浴びをしてた所に司祭に皮疹を見咎められて、そのまま王宮へ拉致された。
そこで聞かされた話によると、どうやらオレは神に選ばれた勇者らしい。そこで問答無用に、同じく変な皮疹(聖痕と言うらしい)を体に宿した七人の仲間と共に、この世界で魔族を束ねる魔王とか言うのを倒す旅に出る羽目になった。
……ドラ〇エ? ファ〇ナルファンタジー?
「アルト様! 今日はどこでお食事しましょうか?」
「おいアルト! 飯なんか食いに外に出かける暇があるなら私と鍛錬しろ! 魔王軍はいつ襲ってくるかわからんのだぞ!」
「貴様はアルトを独り占めしたいだけだろう、駄剣士。アルトの手を煩わせず一人で素振りでもしてろ」
「ねぇアルト……。ウチとあそぼ?」
そして今、前世でオレが夢見ていた美少女ハーレムライフが現実のものとなっていた。前世で妄想に妄想を重ねた、俺TUEEEEとハーレム展開が、目の前に広がっているのだ。
耳に吐息がかかり、胸を背中に押し当て、甘ったるい声でお誘いをかけてくる美女たち。
一人の男を取り合う、可愛いヒロインズのアピール合戦である。まさにハーレムの王道。これが、今……
……オレの座っている、一つ隣のテーブルで実現しているのだった。
「ねぇフィオ。君はアルトのとこに行かなくて良いの?」
「……いや、あそこに割って入るのは無理だろ。ホラ、よく見たら、アルトから見えない机の下で、互いに足踏み合ってんじゃん。修羅場じゃん」
「あははは……」
「畜生。アルトだけ何故あんなにモテるんだよォ……。俺も女の子とイチャイチャしてぇよお……」
オレ達勇者パーティは、全八人で構成されているのだが……。
八人のうち五人は女性で、そして今代最強の勇者である「アルト」に惚れ込んでいるというお約束展開だ。
「アルト」という男は黙って仕事をこなすタイプの色男で、旅の中で何度も仲間の危機を救ってきた。実際に頼りになるし、オレ自身も助けてもらったこともある。まぁ本当に良い奴……ではあるのだが。
そんなかっこいいことを、女性だらけの閉塞したコミュニティでやっちゃえばモテモテになるわ。まったくもって羨ましい。いやはやまったく怪しからん。
「俺も! 可愛い娘と! イチャイチャしてぇんだよ!」
「バーディ、うるさい。そんなにゴネても、もう色街に行くのは禁止だからね」
「お前だって一緒に来たじゃねぇかルート!」
「知らなかったんだからしょうがないだろう! 君がいいところに連れて行くとしか言わなかったからだ!」
そんな「アルト様を取り巻く修羅場テーブル」の隣で、静かに食っちゃべっているのはオレとルート、バーディの三人である。
ルートと言う奴はぱっと見性別不詳だが、中身は立派に男の子だ。具体的には、男の子の部分が大層立派だった。前世のオレと比べても、僅差で勝ってるかもしれない程度にはデカかった。チ〇コ以外の紹介もしておくと、なんか精霊と話が出来るらしい。見知らぬ場所でも案内が出来て、危機を事前に察知したりできる、パーティのナビゲート担当である。
次にオレの左に座っている男はバーディ。厳つい、髭、顔に斬り傷と勇者側と言うよりは盗賊とかそっち系統の人間だと言った方が説得力の増す男である。少しばかり女好きで、色街めぐりが趣味。パーティの三枚目担当だ。槍を用いた近接戦闘はこの国屈指の腕なのだが、如何せん近接戦ならアルトの方が強い。行動はいつも派手で目立つのだが、戦力としては地味な感じだ。
「それに、ここにもフィオっていう可愛い女の子がいるだろう」
「……まぁアルトの毒牙に掛かってない貴重な存在ではあるが、俺は貧乳を女と認めん」
「……胸がちっこくて悪かったなオイ。二度と怪我治してやらねぇぞバーディ」
そして、オレは今世ではフィオと名付けられている。本名、フィオ・ミクアル。このパーティにおける回復担当、金髪ロング、童顔貧乳で白魔道服の……カワユイ女の子だ。解せぬ。
前世の親友よ、頼むからオレを助けて。このままだとハーレムを作るどころか、下手したらハーレムメンバーにされかねん。
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