7いっしょにあるこ
運動会、ロードレース競技。
みさやちゃんは運動神経も良い。クラスの得点とってくるからね!と、明るく言って、先頭集団に入って走って行った。
「みさやちゃんがんばれー。」
既に遠くに行きそうなみさやをそう応援して、てんしちゃんは最後尾、歩いていた。
養護入学のてんしちゃんは大事をとって、徒競走などはいつも歩きだった。
わっかも、走ったらついてこられず落ちてしまうし。
その横を歩くのは、お久しぶり、あくまくんだった。
久しぶりのてんしちゃんとあくまくんの一緒。野の花を手折りながら、ゆっくり、たのしくいく。
「そこ、まじめに!」
中継に立っていた先生が説教する。
あくまくんはむっとしてから、笑顔で言った。「はーい、まじめに歩いてまーす。」
「あくまくん、君は走れるでしょう。」
「先生、最後尾の子をひとりでゴールさせる気ですかあ?僕、そんなかわいそうなことできません。同じクラスの副委員長として、見守りながらいきたいと思いまーす。」
そのあくまくんの言い訳を聞いて、中継の先生はぐっと言葉を飲んで、なにも返せず、あきらめたようにため息をついた。
「学校は狂ってるよ、こんな暑い中走れっていうの。」
無事先生をやり過ごし、もとの平和な2人のお散歩に戻ったあくまくんがあきれたようにつぶやいた。
てんしちゃんは困ったようにほほえんだ。
「ごめんね、あくまくん、私に合わせてくれて。」
「いいんだよ、僕たち今までずっと一緒だったじゃないか。」
あくまくんはてんしちゃんの髪に、手折った野の花をさしてあげる。
てんしちゃんはほほえむ。
あくまくんも八重歯を見せてほほえむ。
ちょうちょがまわりを舞っている。
平和だ。
2人だけなら。
遠く、遠く先から、おーい!という声が聞こえた。
「あ、みさやちゃん?」
あくまくんは、苦虫を噛んだように口をゆがめた。
「みさやちゃんといえばさあ、僕、この間の考査で、初めて同率首席同士だったよ。本当に、驚いたなあ。小学校の時、てんしちゃんに漢字の学習法、思いついてもらえなかったら負けていたよ。」
「ええ、わたしなんて、ふたりとも、すごーい。」
「ふーん。てんしちゃん、本当は悔しいんでしょ、漢字も僕に追い越されちゃって。」
「そんなことないよ。あくまくんがあの後どんどん頑張った結果だよ。うれしいよ。うーん、クラスに首席が2人なんてすごいなー。あくまくんもみさやちゃんも頑張ったんだね。」
てんしちゃんは無垢ににこと笑う。
あくまくんはそれを聞いて次に手折っていた花をにぎりつぶした。そしてつぶやいた。
「てんしちゃんイイコすぎてムカつく。」
「え?今なにか言った?・・・」
おーい!その時、遠く遠くだった声の主が、今ふたりのもとへ駆け込んできた。
てんしちゃんの推測は合っていた。みさやだった。
「ゴールしたからてんしちゃんのこと迎えにきちゃった!安心して、1位はとっておいたから!副委員長さん、つきそいありがとう。」
あくまくんはうすらほほえんだ。
「いえいえ、今まで、は、ずっと2人一緒でしたから。いえ、これからは、みんな一緒ですよね、委員長。いえ、みさやさん。」
「そうなんだ、副委員長さんててんしちゃんの友達だったのね!よろしく、ええと。」
「あくまくんだよ。」
てんしちゃんがにこにこ言った。
「ぜひ気軽にそう呼んで。」
あくまくんもにこにこ言った。
ちょっと、異性を名前で呼んでいいのか気後れしていたみさやだったが、それを聞いていつもの闊達さに戻った。
「よろしく!あくまくん!」
それから3人で歩いていった。
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