6みんないっしょ?
あくまくんとてんしちゃんは中等部1年生、に、無事上がれた。
幼稚舎から一緒のみんなももれなく一緒に上がってきた。真新しい上品な制服に身を包み、よかった、よかったねー、と笑いあう。
そんな喜ばしいことの一方で、みんなにひそかな闇がうまれていた。
中等部からの編入生、それを中途生と呼んでおだやかにさげすみ、幼稚舎同期である既存生のことを先友生と言って、しずやかに結束していた。
線引きの闇。
休み時間は、先友生は中途生が話しかける間もなくぱあっと固まってしまって、楽しそうに話す。全部が初めての中途生は取り残されてきょろきょろどうしていいやら、同じ境遇そうな子たちとなんとか寄り合っていた。そんな状況を、ひとりの中途生が見定めていた。
ある日、ある中途生が先友生のひとりに、勇気を出して肩をたたいて声をかけたということがあった。その時声をかけられた先友生はぽろっと、「中途生のくせに。」と、肩をはらって本心を言ってしまった。
中途生がざわついた。
中途生たちはその先友生の言葉と態度で、自分たちが見下げられた立場に置かれ、差別されていることに気がついた。
教室内は、前黒板側中途生、後ろ黒板側先友生、まっぷたつに割れた。
中途生側からは怒りのこもった空気が流れ、何が中途生?よちよち赤ちゃん組の幼稚生!と怒声が上がった。
先友生側からはさげすみをあらわにした空気が流れ、ああ野蛮。品格のある制服がもったいない。とためいきがもれた。
てんしちゃんは先友生の友達たちに先友生側に引っ張られていき、かっちり後ろに囲われて、守られているかたちとなった。あくまくんは、たまたま1番後ろの席だったので、先友生側に位置していたが、席に座ったまま、事の成り行きを見世物でも見るかのようにおもしろそうにながめていた。
―さて、ここで一触即発かな。完全分離かな。そうなったら先生も困るだろうな・・・。
「やめ、やめ!」
一閃。このみどろしい険悪な空気をぴしゃりと打ち払うような、すがすがしい女子の声が、教室内に響いた。
生徒同士まっぷたつにわれて空いた真ん中の空間に、さらりと黒髪のロングヘアを揺らして、中途生側からひとりの女子が出で立った。そして、その女子は華やかに笑って言う。
「中途生、先友生呼びがあるのは確かだったわけね、でもみんな?この学び舎、この制服は、みーんな初めてじゃない?新しいこと、新しい関係、みんなで始めましょうよ!」
突然の光に目を細めてしまうように、みんな、とまどう。
「はい。はい。」
その閃光についていけたのは、くったくのないてんしちゃんだけだった。挙手しながら先友生のガードの波をよいしょと抜け出してきて、その、真ん中に立つ女子の前に立った。
「はい、そうだよね。わたし、この校舎、化学室に行くのにね、ひとつ階段間違えちゃったの。」
てんしちゃんはえへへとはにかむ。
「あー、あそこね!化学室が下で生物室が上なのよね、ややこしい。私も迷ったよ。」
と、その女子もほほえむ。
「迷うのもはじめても、お互い様!線引きなんてしよーもないよ。これから学友、よろしくしましょう!私はみさや。花薫 美清。(はなかおる みさや)」
みさやは、ぱっと明るく両手をみんなに広げる。
「わたし、てんし。よろしくね、みさやちゃん。」
てんしちゃんが1番にふわふわとあいさつに答えた。
その中途生と先友生のふたりのほほえましい会話が、教室の空気を中和した。
「確かに。あの子の言う通りだ。」とうなずきあう中途生側、「確かに新校舎と新制服はみんな同じだけど、てんしちゃんたら、ふふ。」とてんしちゃんの天真爛漫さに思わず笑う先友生側。
そのすべての様子をじとっとおもしろくなさそうに見ていたあくまくん、しかしぱっと瞬間姿勢を切り替えて、中途生側に、これからよろしく!と明るくあいさつする。
それを皮切りに、なだれるように中途生、先友生、近づきあってあいさつしあった。
その後はもう、何に関してもみさやという子が、闊達に、明るい雰囲気へみんなを巻き込んでいく。
「はい!私やります!」
学級委員長にだって臆することなく立候補する。
中途生はもう、いいんじゃないかな、明るいし、みさやちゃんだよね、と安心しきっていたし、先友生は、まだ、中途生が?という心があったけど、あの対立事件の後に、みさやが明るく闊達、リーダーシップがあり、成績も優秀で、親はIT企業の重役についているということを知り、‘みさや’という新しい華に、驚き、怖ず怖ずながらも受け入れようとしていた。
一般誰しも肩書きや優れたものに弱い。
「はい。」
す。手を上げて、副学級委員長にあくまくんが立候補した。
これが決定打になって先友生たちも完全に受け入れた。
副委員長が、先友生で、頭の良いあくまくんなら、と。
それに、
「やったね、みさやちゃんがんばれー。」
てんしちゃんがふんわりエールした。
対立事件後以来、先友生であるてんしちゃんと中途生であるみさやは仲良しだ。移動教室も一緒、お昼ご飯も、休み時間も一緒。先友生と中途生の融和の象徴のようなものになっていた。
だからみんな、それでいいんだと、自然にお手本のようにして打ち解けていった。
ただひとり、笑顔でそんなふりをしながら、‘てんしちゃんと一緒’を奪われたあくまくんが、報復を淡々考えている以外は。
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