4いっしょにわらお

 あくまくんとてんしちゃんは3年生。

てんしちゃんは幼稚舎での優せんせいの言葉を忘れることなく、何事にも一生懸命取り組んでいた。

でも、やっぱりみんなと2、3歩遅れてしまう。

あくまくんはそれを黙って見ていた。

創作コンクールが、今度あった。

「きっとてんしちゃん、今度もだめだよ。」あくまくんが両親との夕食中わらって言った。両親がくすくす笑う。

あくまくんが話す話題はたいていてんしちゃんのことだ。

両親の間でも、あくまくんとてんしちゃんの仲は、公認のようなものになっていた。

「あくまくん、その子がだめでも、引き立て次第でどうとでもなるものだよ。」

あくまくんのお父さんが言った。

「引き立て次第?」

あくまくんは興味そうに聞いた。

「そうだな、あくまくん、次期会社役員としての初取引練習といこうか。」

あくまくんのお父さんが楽しげに手を組んでいじわるそうな笑みを浮かべた。

それを見てあくまくんのお母さんは、あらあらお取引のお話しですか、こわいですこと。と意味深にほほえんで、さっとお皿を片付けにさりげなく席を外した。

 次の日。

あくまくんは職員室に、失礼しまーす!と元気に入っていって、「寄付金の明細についてお聞きしたいことがあるのですがー!」と元気に言った。

職員室の先生全員ぽかんとした顔。

その中、教頭先生が汗拭き拭き、そういった質問は校長先生代理で私が聞きましょう。といって、静かな教材室へ連れて行かれた。

「それで、どうしたのかな?」

教頭先生がにこにことして言う。

「なるほど、いつもこうやって校長先生代理でみなさんに対応していらっしゃるんですね。寄付金のお話しを受けるときも。」

「校長先生はお忙しいからね。ある程度のお話しは私がうかがってから、校長先生にお通ししますよ。あくまくん、君のおうちからも多大なご支援を頂いて、大変感謝しています。」

教頭先生がにこにこ丁寧に丁寧に言った。

「それはいいんですよ。ただね、ぼく他のうちの子の寄付金額も調べて合計したんですが、配られた決算書の収入寄付金欄の金額と合わないんですよ。決算書の方がわずかに少ない。」

教頭先生が目を丸くした。

「支出額で減っているならまだ雑費かなにかだろうかとも思えますが、収入のほうで少ないっていうのは不自然ですよね。まさか不正があったなんてことになったら大変ですね。ぼく、心配で心配で。」

教頭先生のにこにこが消えた。

「そういえば、教頭先生新しいスーツお似合いですね。ブランドは老舗の・・・」

教頭先生は青ざめた。

「あ、あくまくん。一体何が言いたいんでしょう。」

あくまくんは八重歯をみせてにっこり笑った。

「ええ、安心してください、これ以上は言いません。ただ、ちょっとした楽しい秘密のやりとりができればと。ぼく、最近思ってることがあるんです。同じクラスのてんしちゃん、いつもみんなに後れをとってかわいそうだなって、ちょっと勇気がつくような出来事があればいいなって、例えば、創作コンクールで校内代表になるとか。そんなことがあったら、ぼく、今回の決算書のことなんてすっかり忘れると思います。」

教頭先生は冷や汗をかいてしどろもどろしてから、「あくまくんは優しいんですね。」とだけいった。

 あくる日のホームルーム。

「え、わたしが代表?」

てんしちゃんぽかん。

てんしちゃんの作品が学校代表で創作コンクールにだされます。

そう、担任の先生の発表があった。

「てんしちゃんよかったね!すごいね!」

あくまくんがてんしちゃんを1番にほめた。そうしたら、次々にクラスメイトもほめたりお祝いを言ったり、クラスが盛り上がった。

てんしちゃんは、ふんわり笑顔に今日は頬を赤くして、嬉しそうに照れ笑いした。

てんしちゃんは嬉しくて笑顔。

あくまくんも初取引がうまくいって笑顔。

違う意味だけど笑顔になるのは一緒だよね。

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