悟られてはいけない

ナカノとの面倒な時間が終わったと思ったら

今度は騒がしい親子が来た。

ナカノに言われて観察しに来ている様で、下世話な噂話が好きだ。

そして、隙あらば私を陥れるか、はたまた誘惑するのか見極めにきている。


「ねぇ有間皇子さまは心に思う方はいらっしゃらないの?」

「ふははは~っ」

「笑ってないで答えて下さいませ」

「あら、皇子様もお立場があるから言いにくいのかもしれませんわ。

どうぞ、こっそりと教えて下さいな」


「どうしましょうねぇ~あはは~私が思う方はナカノだなんて言えませんよ~」


親と娘の顔が引きつる。素敵な光景だ。


「もう皇子様はお人が悪い!我が夫のことが好きだなんてご冗談を…」


「あはは~冗談冗談。でもどこまで冗談でしょうね~。あははは~」


ナカノの妻と娘。噂好きな親子、色っぽい話題が好きな親子。

そして何より権力を持っている者にすり寄る体質、そっくり親子だ。

関わりたくもないので、適当にあしらってその場を去る。


邸に帰ると志貴が不服そうな表情で待っていた。


「コノカミ!コノカミが好きっていうナカノは私の父君、

中大兄皇子のことですよね?

それは本意ですか?本当に本意なのですか?

あの2人に言ってしまえば、明日には都中の噂になります!

コノカミはそれでいいのですか?」


志貴の言葉は私の嘘を分かって問い詰めている様に感じた。

本音を言うべきか誤魔化すべきか…


しかし、志貴の迫力に思考が停止して適切な返答が思い浮かばない。


「あぁそれはぁぁ」


「コ・ノ・カ・ミ!!」


志貴は本気だ。

私の本音を感づいているんだろうね。志貴。

でもね、言えないんだ。私の本当の本当の気持ちはね…。


「コノカミちゃんと答えて下さい!」


「あれは…嘘ではない…」


「いいえ違います!事実とお気持ちは違うはずです!」


「そう思いますか?」


「はいっ!」


「志貴がそう思うのなら、きっとそうです。」


「コノカミ、そうではなくて私がお聞きしたいのは…」


「あーーーーっ!あんなところに美しい色をした蜻蛉がいるよ!」


そう言って蜻蛉を走って追いかけた。逃げなくては…。

これ以上、志貴に私の本音を悟られてはいけない…。

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秋津は飛鳥の夢を見るのか? サクラ堂本舗いまい あり 猫部(ΦωΦ) @hinaiori

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