第2話 比翼連理とはボクらのコトさ。
何だか表現し難い言語の壁を翻訳チートとやらで抜け、不確定名Elf?から《
成程、確かにエルフの集落。
そう納得せざるを得ない、見事なまでにツリーハウスが点在しているではないか。
森の中に在り、森と共に生きるという地球のイメージ通りである。
尤も、想像していたそれらよりずっと明るい環境下であり、彼らの住まうツリーハウスも陸の思っていたものとして些か趣が違ってはいたが。
大体の者は、ツリーハウスとはどんなものだ? と問われれば、普通は掘っ立て小屋。
或いは住めそうではある住居部を大きな幹を大黒柱にして何とかこぎ着けたものを想像するだろう。
例えばファンタジー作品の中には偶に巨木をくり抜いて家としているものも見られるし、世界樹等と称されるような超巨木に家を張り付けたり。
本当に生活できるのかと不安になる、住居が釣り鐘宜しく太い蔓に下げられてるのもあったりする。
が、先に述べた様にこの集落のそれらは趣が違う。
本当にきちんとした建物の家が木に、でんっと乗っかっているのだ。
無論、そんなものを乗せている木の幹も途方もなく大きく太い。地球の例えで言うなら縄文杉レベルである。
直径が10mは優に超えるだろう大木の根元から2mくらいの高さでぶった切ってそこに家一軒乗せている、と言えば想像できるだろうか?
そんな感じに一本の木に付き一軒の家を乗せているというエラい建築物を見せられているのだ。
巨木は狭さを感じない程度の間隔を空けて何本も生えており、とんでもない軒の連ね方をしていたものだから、流石に陸も目を剥いたし口もあんぐりと開いた。
更に木の方も生命力が高いのか、その家を包み込むようにまだ上に伸びているときたものだ。
こんな建築方法でええのか? と訴えたくなる。
しかし見たところ再成長した幹が家の壁にめり込んでいる様子もなく、優しく包み込むように上に向かって枝が生えているのだから上手く共存できているっぽい。
そしてそんな家々がぱっと見ただけでも十数件はあるのだ。
如何なるマジカルな仕掛けがあるのか、これがこの世界の環境なのかは未だサッパリ不明であるが、少なくとも生活し辛い事だけはないらしい。
というか、現時点でも情報量が多過ぎて一杯一杯だったりする。
流石はファンタジー世界だぜ、と開き直るのが手っ取り早かった。
無論、情報の先送りに過ぎないのだが。
中に入って再認識できたが確かに集落だった。はっきり言って村程度の規模ではない。
建物の数があるからそりゃ住む者も多かろうとは思っていたが、何時の間にか姿を現していたエルフ達だけでも数十人はいる。
いや多いぞ? と陸が驚きを隠せなかったほどに。
住民が集まれば集まるほど、否応なしに陸の緊張が増してゆく。
何しろディウムは兎も角、自分は完全なる異物なのだ。
果たして自分の様な異種族はどのような行動をとらねばならぬのか。
お世辞にもコミニケーション能力に長けているとは言い難い陸は、ここからの身の置き方を考えさせられるのだった。
「デュウム様、デュウム様、その方達だぁれ?」
「外から来たの?」
「お姉ちゃんだぁれ?」
「おぅ、外からおいでなさったか。」
「疲れてねぇだか?」
「おほっ、来客とな? こりゃ美味いもん作らなきゃな!」
「酒樽開けっか。」
「ええのぅ。」
「急いで煮物作んなきゃねっ。」
ピスピス。
キューキュー。
「あの、何か毛玉と、ゼリー玉みたいなのがスリスリしてくるんスけど。」
「……すまない。
害意や敵意が無いと分かると寄って来るんだ。」
…………何かスゴイ歓迎されてた。
陸は内心、アッレぇおっかしぃ~なぁ? と首を捻りまくっている。
いや、大体のエルフは良くて保守。悪くて閉鎖的だと思い込んでいたのだが、何かこの世界のエルフは違うっぽい。
ちょいと田舎に来たらスゴイもてなしてくれてる、とかそんな気軽さだ。
それに遊んでいたであろう子供や、畑仕事等をしていたであろう大人達は多少泥汚れはあるが、集落のエルフ達は比較的……いや、はっきり言って清潔だった。
何しろ地球の環境と比べても、比較的街に近い農村レベルで清潔感があるのだ。
いや、まだこの世界の匂いに慣れていない可能性も残っているが、少なくとも不快な異臭などは感じられない。
強いて挙げるのなら、素朴でどこか懐かしい枯草の香りが感じられるくらいか。
立て続けに色々予想外な事が起こり続けて、陸の頭はこんがらがってきていた。
自分と腕を組んで歩いている少女の明るさが羨ましい。
終止ニッコニコしてるんだもの。
デュウムらが奥に進むにつれてエルフ達も後をについてくる。
特に子供らは遠慮なくきゃあきゃあと寄ってきていた。
その中の一人が、じ~っと見上げていたので陸はやや引き攣りながらも愛想笑いを見せる。するとその子は嬉しそうに満面の笑みを返してくるではないか。
その無邪気な笑顔は、陸にとってとてもウッ眩しっと目が眩みそうになるものだ。
ああ、無垢の笑顔なんて何年ぶりに見ただろうと泣けてきた。
大人達の方は流石に遠慮が見えるが、やはり同様に興味津々らしい。
何しろ進むにつれてどんどん頭数を増してゆくし。
数が集まり過ぎて何時の間にやら行列の態を成していた。
「……本当に騒がしくてすまないね。」
と、デュウムはやや面目なさそうに謝罪してくれたが、この十二分といえる歓迎の空気は陸にとって苦にならないものだ。
物珍しさが勝っているのだろうが、それでもありがたかった。
何しろ彼は、冷えた空気の只中で生活を強いられ続けていたのだ。
一度信頼できる大人と出会えはしたが、その人物を知ってからは更に強くその冷たさを思い知らされるようになった。
だから内心こういった暖かな空気と心遣いに憧れすらあり、今も涙が出そうだったりする。
「元気ないね。大丈夫?おっぱ「言わせねーよ!」。
残念。」
こんな時に絶妙な下ネタをかまそうとする少女の口を塞ぐ余裕くらいはあった。
しかしホントにこの少女は何者なのであろうか?
何というか、陸を本人以上に知り過ぎている感すらあるのだ。
地球にいた周囲に悟られていなかったが、陸は本来踏み込まれる事を好まない性格であった。
それもパーソナルスペースに入られると不快極まるという厄介なタイプである。
だからこうも距離感をバグらせられると息苦しいどころの騒ぎではない筈なのだが……。
しかし、不思議な事に彼女の触れられているにも関わらず、不快な気持ちは湧いてこない。
照れはするが、今のようなやりとりすら全く苦にならないし、思いっきりパーソナルスペースの中に踏み込まれているのにどころか奇妙な安心感すら感じられる。
おまけに
一体彼女は何者なのだろう。
話し合いとやらで少しは理解できるといいんだけど――
そう願わずにはいられない陸であった。
様々なカルチャーギャップに頭を茹らせつつ、デュウムに従って歩いて行った先。
集落の奥にあるこれまたぶっとい木の幹――少なくとも直径20m以上はある――の上に鎮座するでっかい建物が見えてきた。
その造りも独特で、他の家屋が縄梯子か簡素な階段で上り下りするのが大半の中、ここだけしっかりとした階段が拵えられている。
その建物の三角屋根の上には変わった紋章があった。
×字の上に十字が組み合わさったもので、恐らく聖印なのだろう。
「聖十字とアンデレ十字が組み合わさったように見えるね。」
なんで
自分も知識として知っているが、結構マイナーなはずなのにそういう知識までもっているというのか? あるいはこれもチートとやらのお陰だというのか。余計に彼女の正体が気になってきた。
因みに、アンデレ十字とは聖アンデレという有名な十二使徒の一人を表す十字架で、X型の十字架で殉教したとされている。
無論、ここは異世界であり、地球の聖者らは無関係だろうが。
ディウムが言うに、この紋章は『大地に根差すもの』という神の聖印であるらしい。
今度は固有名詞ではないのか妙なノイズは入らなかった。
「固有のお名前は無いんですか?」
「あるにはあるらしいのだが、何というか私達の喉では発音できないんだ。
どう頑張っても精霊達の囀りの合唱にしか聞こえなくてね。
だから便宜上『大地に根差すもの』として祭り伝えているんだ。」
「へぇ…。」
そんなやりとりを交えつつ、二人が案内された建物は正面から見ただけなら教会っぽかったのだが、中に入ってみればそれはどちらかと言うと
地球人の、それも日本人からすれば正しく神社のそれが感覚的に近い。
神社の造りとの違いは、拝殿(参拝用の建物)が無く、いきなり本殿という事だろう。
何しろ建物に入ってすぐに目の前に御神体と思われるものが目に入ったのだから。
それは翡翠、或いはエメラルド。
少なくともそれを思わせる驚く程にまで美しい透き通った緑の球体。
一抱えはあるだろうそんな宝珠を、拝殿した者はまず目の当たりにする事となる。
社には天窓が設けられており、そこから差し込む陽の光によって宝玉は優しい輝きを見せてくれていた。
陸は自然と、その美しさに引き寄せられている。
価値云々以前に、何とも言えない尊さをその宝珠に感じられたのだから。
やや台座が宝玉の大きさに対して小さめではあるが、固定でもされているのか不思議と不安定さは感じられない。
ただ、その台座がぱっと見でも分かるほど三方に似ているものだから余計に神社感が増している。
そしてその宝珠を護るが如く、両脇には捻じれた角の様な刃物が立てかけられていた。
日本の七支刀に少し似ていた事に少し驚いた。いや、フランベルジュが近いだろうか。
そして珠の前には徳利の様な器と杯らしきもの祀られていたりするものだから、ますます神社感を醸し出している。
「え、と……。
この珠? 御神体? の前で御挨拶した方が良いでしょうか?」
その言葉と彼の愁傷な態度にデュウムは優しく微笑み、軽く両の掌をお見せする程度でいいよと言ってくれた。
どうも話によると、ここの作法ではただ指を組むのは、他者に言えない事情を持っていると取られるらしい。
成程、と納得した陸は厳かに掌を見せ、当然のように少女も続く。
二人のそんなやりとりを何とも優し気な眼差しで見守り、ディウムは彼らを中に入れて腰を下ろすよう促した。
因みに、入り口でサンダルを脱ぐよう言われ、予想していたが掃除が行き届いている板間に無地の敷き布…いや丸い座布団と言う方が正しかろう…を出してくれて、どうぞと勧めてくれる。
何とも地球に似た生活感であろうか。
勿論、直ぐに敷物の上に腰を下ろした。二人とも正座で。
「足を楽にしてくれてもいいんだよ?」
と、言ってくれるが、陸にとっては正座の方が楽だったりする。
そしてやはり当然の様に少女も正座した。
「いや、その、お世話になった人と過ごす内にこの座り方が慣れちゃってて……。」
「ボク達のいた国で、真面目に話を聞く際にはこう座らされたものですよ。」
「ほぅ…。面白い民族だね。興味深い。」
感覚的には、お寺の本堂の中とか、神社の社の中いる気分である。
何しろ建物の造りからしてそれっぽいのだ。
無論、地球のそれに比べるれば、質素どころではないくらい飾り気はないが。
その代わり、御神体…といって良いのか分からないが、石から発せられる清浄な波動が半端ではない。
修学旅行などで見学した神社仏閣など、この石が纏う清らかで強い波動を知った今ではスパッと脳裏から記憶が消え去ってしまう程に。
「まぁ、その話は何時でも出来る。
……リク君、で良かったね?
まずは私と君の分け身である彼女と情報をすり合わせつつ説明しよう。」
「……はい。
……………………………………………………………………………………はい??」
いきなり何かトンチキなワードが混ざっていたような……。
あんだって? と、素っ頓狂な声が出た。
「あの、えと……?」
とアホ面曝していた陸をディウムは気の毒そうに見やり、
「……君が説明した方が良いだろうね。
私では上手く伝えられないと思うんだ。」
溜息を零しつつ少女にそう話を振った。
言語チートとやらでご丁寧にも《分け身》という意味が伝わってしまっている。その意味からすると、ほぼ間違いなく分身とかそういう事なのだろうと思われる。
……のだが、生憎と
色々煮詰まってきたところにプラスされた情報。
もう陸は一杯一杯を通り越して噴火しそうだ。
どゆこと?! と縋るような想いで視線を少女に向けると……彼女はやっぱりにこやかだった。
「初めまして、と言っておけばよかったかな?
ボクは言うなればキミに寄り添っていた精霊さ。」
元、と付くけどね。と凄い笑顔でそんな事を言われてしまう。
「ファッ?!」
と奇声が出てしまった彼を責めてはいけない。
「この世界にキミが引きずり込ま……もとい、
招かれた時にキミに与えられた加護でボクはこうやって実体化できたんだ。」
「え? いや、えぇ……?」
そりゃあ、陸とて首を捻くるほど傾げるだろう。
唐突にそんなこと言われて、そんな都合の良い事を言われてハイそうですかと納得できる訳がない。
改めて少女の上から下まで見る。
相変わらずの笑顔だが、こんな理由不明な笑顔だというのに不快にならない。
髪型も変に飾ったものは無く、赤いメッシュも地毛っぽいからこれも良し。
声も良い。突き刺すようなキンキン声ではなく、かといって低くもないが落ち着きのある耳に優しいものだ。
そして会話のテンポも自分と同じくらい。
ややテンションが高めだが、どうも浮かれている様なのでまぁ許容範囲。
仕草も、少々積極的すぎるが不思議と気にならない。
体型に至っては言わずもがな。
昨今、世に出回っている極端に大きい駄肉ではなく控えめな胸。
そして座っているから分かる腰からヒップへのしなやかなライン。
太すぎる事もない、ほど良い肉付きな腿。
「ふふん?
気が付いた? ボクの容姿。」
「う……っ。」
ズバリ言われて言葉が詰まる。
見惚れる、にまではいかないが、それでも十二分に魅力的であるし、何より良い意味で屈託がない。
そこに至り、ふとある仮説が浮かんできた。
いや、そったらコトなかんべ? 等と混乱しながら否定するが、珍回答となるそれを拭い切れない。
確かにここは異世界で魔法やらの不可思議パワーもあるっぽい。そうなると幻想を否定する方が非現実的という状況ではある。
しかし、だからといって、そんな事までありえるのか?
ん゛、ん゛ん゛? と本気で悩む陸。
頭が固いのかイマジネーションが足りないのか、一度浮かんだ珍説以外が思いつかず、脳を捻じ切るが如く悩むに悩むが、最初の説が頭の芯の位置でぴたりと留まっていて動いてくれない。
少女はそんな彼をニヤニヤしながら温かく見守り、反応を楽しんでいる。
そしてディウムは、何故かそんな陸を生温かい眼差しで見守っていた。
幾らなんでもそれは無いだろうと、
確かにここの異世界らしいし、不思議がいっぱいファンタジーワールドであるのだろう。
だけどそんな事まであり得て堪るかと、
――そう、
「勘の良いキミだ。気付いてるんだろう?
ボクの容姿の事。
そして姿形の元になったものが何なのか。」
「うぐっ!」
そこに詰めを置かれた。
王手である。逃げ場はない。
それに今やファンタジーが現実なのだ。
どれだけ認めたくなくとも、この
何しろ彼女は、陸の好みの詰め合わせにもほどがあるのだ。
「言葉に出してほしい。
仮に間違ってても良いじゃないか。
例えそれがどんなに荒唐無稽だったとしても、だ。」
グサリ、と心に楔が撃ち込まれた気分だ。
言い当てられた。
折角必死こいて否定材料を探していたというのに、他の理由が思いつかず頭が沸点に達した丁度いいタイミングで。
不動の位置にあった珍説に、その言葉が深く突き刺さってしまった。
いや確かにそれならばと説得力はある。
距離感が
その上、これだけ自分を知り、阿吽の間で合わせられるのなら。
だが、しかし……、
そんな陸の葛藤を知ってか知らずか、当の彼女はお気楽にHey! Come on! と、親指をクイックイッとさせて返答を催促してやがる。
彼女のお気楽極楽さ加減にイラッとさせられつつも、ほんの数秒の間であるが、陸は苦悩に苦悩を重ねて一割程度の確率で間違って居たらなぁ、等と往生際の悪い期待を持って口を開いた。
「まさか…………………………………………………僕の、アニマがモデル、とか?」
ぼそりと小さく。風に混じって散る程のか細い声でそう答える。
実際、柔らかな風が社に通り抜けていた。
今の季節が何なのかは知らないが、一人だけ脂汗を搔いている陸の頭を冷ましてくれるが如く一撫でしてまた外に吹き抜けていった
そんなそよ風では焼け石に水にもならないのだけど。
ずっしりと現実が伸し掛かっている陸は、少女から目を反らせて外で風が薙ぐ草葉の緑の景色の方に意識を向けてみたりする。単に現実逃避なのであるが。
兎も角彼は願った。藁をも掴むつもりで。
この何ともしがたい空気を払拭してくれるようなドカンと一発違う答えを披露してもらい、「馬鹿だなぁ。」と言われるのが一番だ。
ならばテヘペロすれば良いのだから。
或いは何かしら慰めてくれるような答えを陸は待っているのかもしれない。
因みにアニマとは普通、男性の無意識化の女性的側面であり、男性の女性的な心理的性質を指す。
何しろ生まれはサブカルチャー情報に満ち溢れる日本である。
その中でも懐に優しいヲタク趣味としてWeb小説などが挙げ割れるが、当然の様に陸もそれらを嗜んでいた為、これくらいの知識は持ち合わせていた。
それでも半信半疑、というより九分九厘間違っててほしいという可能性にかけて答えた陸のその言葉を、
元凶は、満面の笑顔で持って受け止められていた。
「当たりだっ。
実に素晴らしい妄想力だよ。
流石だね。」
「ヒギィっ!!」
思わず変な声が出た。
何をそんなに苦しんでいるのかと聞いてはいけない。
知りたくなかったそんな事実。
そりゃ確かに好み全部ぶっ刺さっただろう。何しろ理想なんだから。
異性対象として求めている材料がズバッと集結しているのだ。
それは有難いし、何よりの情報と言えなくもない。
が、しかし。
だがしかし、一つだけ難点があった。
「そう、ボクは、存在そのものが、キミの、好みの、ド真ん中という訳さ!」
「ああっ、言わないで!!」
スタッカートで強調して言われると余計にキツい。
そうなのだ。
つまり彼女がただそこにいるだけで、陸の好みやら趣味やらを見せびらかしているようなもの。
俺はこーゆーのが良いんだ!! と声高らかに語っているに等しいのである。
ならば、ずっと黙って見守っていたディウムの眼差しも意味深に感じてしまうというもの。
そんな気は無かろうが、『ふむ。そうか君はこういう娘が好みなんだね。』と生温かく見られていた気がしてきた。
「あぁっ、こんな僕を見ないでっ!!」
陸はその羞恥に身悶えする。
少女はカラカラ笑っているが、それどころじゃない。
何しろその言葉通り彼女は彼の好みの塊。
そんな異性が出現してくれれば普通は有頂天になるかもしれない。
いや、誰だって浮かれまくるだろうと思われる。
が、ディウムは元より集落の住人らの衆目を集めている中で明かされると、歓ぶ以前に只々精神にくる羞恥ダメージが半端なかった。
何しろ自分の内に秘めていた属性の塊が顕現化し、個人の意思を持って会話できる存在として横にいるもんだから堪らない。
悲しいかな陸は一般人メンタルなのだ。
集団を前にし、自分のフェチはこうなのだと胸を張って声高らかに言えるような図太い神経は持ち合わせていないのである。
状況的には、ある意味羞恥プレイと言えよう。
「なーに、気にしない気にしない。
出自はタルパに近いが、きちんとキミの心身から乖離した存在だよ。」
「だから待って!」
「今風にイマージナリーフレンドと言った方が良いかい?」
「ヤメテっ!」
彼女は明らかに彼を揶揄っていた。
それは確かに意思を持った存在のそれであり、知性体のじゃれ合いだ。
少女はこの世界基準の《格》で例えるのなら、高等精霊体にも勝っている。
そしてそそれは、こんな出鱈目なものがこちらに生み出される事すら神は黙認しているという事。
間違いない。神は、怒っている。
確かにその事は、大いなる神霊よりデュウムには伝えられていた。
だからこそこの地で、神の指示の元で儀式を行い、選ばれた者をこの地へと導いたのだ。
本来であれば向こうが得られたであろう、《
「……神に無断で異界から勇者を召喚する。
彼奴等は本当に許されるとでも思っていたのか?
或いは……。」
既に神を、信じていないのか――
天の采配により導かれた一人と、世に出る事を黙認された一体。
その存在が許される意味は、誰も想像すら出来ぬ程に重く大きい。
場違いなほど仲睦まじいじゃれ合いを続ける若い男女を見守りつつ、デュウムは後の世に訪れるであろう、外の世界の艱難辛苦を憂いだ。
神は、遂に無法者ども達との繋がりを断ってしまったのだから。
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