第27話「意外と…?」


























 ほぼ告白同然なことを言ったっていうのに、椿さんはあたしを抱きしめたまま寝かしつけてくれた。

 その警戒心のなさは、あたし相手には振り向かないと分かってるからこその余裕なのか、手を出してこないと思っての油断なのか、はたまた単純に距離感とち狂ってるだけのアホなのか。

 分からないけど、ありがたいことこの上ないから抱きついたまま、あたしも暗闇の中へと意識を落とした。


 そして翌朝。


「おはよ、椿さん」

「…おはよう、紗倉ちゃん」


 夢なんて見ないくらいの深い眠りから覚めたら、ちょうど向こうも目が覚めたみたいで、お互い目を合わせてにっこりと笑い合う。

 朝から椿さんの美人な寝起き顔見れるとか最高すぎ…目に焼き付けとこ。

 今日も今日とて寝不足が解消されてるおかげか脳内はクリアで、長年嫌でも連れ添ってきたモヤがかかったような、重たい感覚がない。それもまた気分を良くしてくれる要因のひとつだった。


「はぁ〜……まじ幸せ」

「んっ…」

「ん?」


 幸せを噛み締めようと胸元に顔を埋めてスリスリしたら、椿さんの体がピクンと動く。

 なんで…?と疑問に思って顔を上げた。


「お、おっぱいは、やめて…?」


 すぐに視界に入ってきたえろすぎる女の顔に、ウズウズと好奇心と欲情が疼きまくる。

 もしかして椿さんって……相当、感度良いんじゃ…?

 ちょっと谷間スリスリされたくらいで、それも服の上からの刺激なのにその反応…えろの才能を感じて、朝からムラムラしてきた。くすぐったかっただけの可能性もあるけど。

 でもなー……付き合ってもないのに手出しちゃうとか最悪だよね。昨日、“お友達から”って言われたばっかだし……うん、今はやめとこ。我慢、我慢。


「椿さん、まじであったかい……もう一回寝れそう…」

「ふふ。私もこのまま寝ちゃおうかしら」


 今さっき感じた気配を見せたばっかだっていうのに、無警戒に呟いてあたしの頭を腕で包み込んだ椿さんに苦笑する。まじで距離感どうなってんの。

 …この感じ、相手にはされてないっぽいな。

 襲われるだなんて思いもしてないんだろう彼女の油断をそのまま維持させるためにも、改めて今はやめとこう…と密かに決意して、おとなしく下心は抑え込んでおく。


「そういえば紅葉ちゃん……いつ帰ってくるんですか?」

「泊まって、そのまま遊びに行くって言ってたから……夕方頃かしら」

「その間、何します?」

「そうねぇ……紗倉ちゃん何かしたいことある?」


 セックス。

 とは、言えないから…どうしようかな。


「イチャイチャしたい」


 言い回しさえ変えればイケるかな?と小さな期待を込めて言ってみたら、


「だ…だめ」


 まんまと断られてしまった。まぁそうだよね。


「つ、付き合ってもないのに……そういうのは、ちょっと…」

「うん、ですよね。ごめんなさい」


 今してるハグはイチャイチャには含まれないんだ…と意外に思いつつ、そこはありがたく体温を堪能させてもらうとして……この後どうなるのかはもう運に任せた。

 とりあえずあたしからアクションを起こすのは一旦やめて、相手の出方を待とう。

 待つ間にしっかり抱きついて胸の柔らかさを顔で楽しんでおく。


「あ、の…紗倉ちゃん」

「ん…なに?」


 来た。

 思ってたより早くに声をかけられて、何を言われるかドキドキしながら相手の顔を見上げた。


「こんなおばさんの……どこが、好きなの…?」


 不安そうに、黒い瞳が揺れる。

 もうその目が好き。クールそうなのに、全然クールじゃない感じ。たまらなく綺麗で、思いきり鷲掴みされるような心臓の締め付けに襲われる。


「顔が好き」

「か、顔…?」

「うん。あと性格も、体も」


 言いながら胸の脂肪を下から支えるように持ったら、咄嗟な仕草で手首を掴まれた。


「っさ、触るのはだめ」

「ごめんごめん、つい…」


 おとなしく引き下がって、手を離す。


「……ぶっちゃけ、一目惚れです」


 体を後ろへ引いて僅かに距離を取って、本当のことを伝えた。


「電車で会ったあの日、運命かな?って思っちゃったから…だから連絡先聞きました」

「え……そ、そうだったの?」

「うん。そのくらい、だいすき」


 このあたしが、本心からこんな事を言うなんて。

 本物の恋は恐ろしい。

 ついでに相手の反応を待つのも怖くなったから、何か言われる前に起き上がって布団を出た。


「トイレ行ってきます」

「あ……う、うん」


 戸惑う椿さんを置いて、言葉通りトイレへ向かう。


「はぁ………なにやってんの、あたし…」


 考えなしにいこうと思った途端、これだ。

 これじゃ、グイグイ行きすぎて警戒しかさせない。きっと今まで椿さんを口説いてきた男達となんら変わらなくなっちゃうっていうのに。

 歯止めが効かない。

 ここまで来たら、本当に後は運だ。戻ってからどんな事を言われても、腹を括って受け入れるしかない。

 本当に用を足して済ませて、ちょっとでも返事を聞くのを先延ばしにするために歯を磨きに行って顔を洗って、フラレることも考慮に入れて覚悟を決めてからまたリビングへと戻った。


「すみません、話の途中で」

「き、気にしないで?ごめんなさい、私も変なこと聞いて…」

「いーえ。それで、今日は何して過ごします?」


 予想外にそれ以上は何も言われなくてホッとしつつ、話題を逸らして、未だ布団にいて体だけは起こした椿さんのそばに腰を下ろす。


「紗倉ちゃん」


 座ってすぐ、震えた指先があたしの服の袖をつまんだ。


「一緒に…お出かけとか、してみない……?」

「え…」


 まさかの、相手からのデートのお誘いに息を止めた。

 ただ友達同士で出かけたいって意味では…ないよね?今の言い方的に。

 だとしたら……意外と、好感触…?

 椿さんが何を考えてるか分からない。いや…あたしなら少し思考を働かせれば憶測なんて余裕だけど、それはしたくないから分からないままにしておくとして……それにしても、この反応は悪くないんじゃ…?

 完全な脈ナシではなさそうなことに安堵しつつ、せっかくのお誘いを断るわけもなく。


「もちろん!どこ行きます?」


 ウキウキな気分をそのまま顔に出して、頷いた。




























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