第212話 横やり
レイがキクチを仕留めようと拳銃を構えた時、壁を突き破って甲冑を着た機械型モンスターが現れた。一瞬の静寂が場を包み、すぐに各々が状況を理解する。機械型モンスターは一番近くにいた上に装備も拳銃とナイフだけと、殺しやすいレイに照準を定め、瞬時に距離を詰める。
そして視認できないほどの速さで振り上げた刀を叩きつけようとするものの、レイも敢えて機械型モンスターの懐に潜り混むと刀の射程から逃れる。機械型モンスターはレイを切り伏せるため一歩引いて刀の刃が当たる場所まで移動しようとしたが、レイも一歩詰めて懐に入り込む。そして発砲することは無く、機械型モンスターを通り抜け背後へと、キクチ達がいる階段へと移動する。
もしこのままレイが機械型モンスターとの戦闘に集中し、クルスと分断されてしまえば間違いなくキクチ達が有利な状況になる。クルスは一対二の状況を作られ、レイも機械型モンスターと戦わなければならずキクチ達にまで手が回らない。そして機械型モンスターを倒せたとしても弱ったところをキクチに狙われれば対処は困難。
そうなってしまえば敗北が決定する。
少なくとも一対一の状況でなければ勝利条件を満たすことができない。故にレイが機械型モンスターによって分断されてはならず、こうしてレイはキクチと合流した。こうすれば機械型モンスターの被害をレイだけが受けずに済む。皆平等に地獄へと落ちてもらう。
「―――ックソ」
キクチが状況を理解し、吐き捨てる。そしてレイに突撃銃を向けようとしたが僅かに遅く、すでに機械型モンスターが移動し刀を振り上げていた。あくまでもレイを狙っている。しかしここでレイが倒されたとしてもフィリアの援護には向かえず、キクチはこの機械型モンスターの相手をしなければならない。
一瞬で最善の判断をしたレイを鬱陶しく睨みながらキクチが突撃銃の引き金を引く。しかしそれは機械型モンスターが振り下ろした刀によって意味がなくなる。背後から振り下ろされた刀をレイは避けた。避けたが、刀が地面に触れた瞬間に衝撃で通路が崩れるとレイとキクチは一階層へと落下する。辛うじて階段を上っていたフィリアは落とされずに済んだが、キクチは巻き込まれた。
そして何よりも、キクチは巻き込まれたことより驚愕することがあった。
(――たかがホログラムが通路を破壊だぁ?)
ホログラムは質量を持たないただの映像。キクチ達が触れられているのは防護服が特殊な機能を持ってホログラムを『そこにあるもの』として扱っているからだ。そのため現実の物質でできた床や通路、窓をホログラムで出来たモンスターが破壊するのは不可能。
だが目の前の機械型モンスターは確かに通路を破壊した。
一瞬、本物のモンスターかと思った。しかしすぐに否だと分かる。
(いや、これは実体を持ったホログラム。いや、ホログラム……でもないのか。前にバルドラ社の研究発表で見たが、もう実用化してたのか………ってことは、性能テストも兼ねてるのか、今回は)
バルドラ社が行った研究発表。その中に実体を持つホログラムに関しての記載があった。しかしその時はまだ机上の空論という反応で、実際に実用化されていなかった。
キクチ自身もほぼ不可能だと思っていたが、実物が今目の前にある。遺跡には同程度の技術が詰められた機械や生物が多く存在しているものの、それらの解明が上手く進んでいないのが現状だ。現人類が旧時代の技術に追いつくことなど不可能だと、そう考えられていたが、現代科学はその一端を再現することができたということになる。
さらに言うのならば、キクチ達のような外部の人間にこの技術を見せたということは秘匿しなくても良いという判断がされたということであり、つまりはNAK社やバルドラ社はこれ以上の技術を持っている可能性が高い。
本当に隠したいような技術ならばキクチ達には見せない。今回見せたのは装置が動くか、出力された実体を持つモンスターに不具合は無いか、モンスターの性能のテストなど多くの理由があるのだろうが、やはり『隠すような技術』では無くなったから、というのが一番の理由だろう。
「めんどくせぇな」
ただでさえレイの相手で厳しいというのに、機械型モンスターも乱入してきた。よく言えば運が絡む勝負になったためレイとキクチが一対一となった今の状況であってもキクチに勝機がある。しかし組み立てていた作戦はすべて無に帰した。
一階へと落下した後、キクチは膝に手をついて立ち上がる。煙立ち上がる中、レイはすでに立ち上がっていた。しかしレイがキクチに拳銃を撃ちこまなかったのには両者の間に障害物があったからだ。
甲冑を着た人型の機械型モンスターは煙に紛れながら、キクチとレイの間に佇んでいた。
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