第196話 耐久戦
開始から2分が経過した。依然としてモンスターの数は増え続け、対処は困難になってきている。いくら五人いるとはいっても対処能力に限界がある。モンスターの数と質が増え続けるこの状況においては厳しい場面を強いられることも多く、実際に、些細だが危ない場面が幾つかあった。
だがそれでも持ちこたえ、レイ達は迫りくるモンスターを相手に互角以上の勝負を演じることができていた。測定結果だけを見ればこの辺りの時間帯で他の部隊が少しずつ脱落していくか追い詰められていく。その点、レイ達は危険な場面こそあるものの少しの余裕を残している。
レイが弾倉を入れ替えるのと同時に、横にいたマルコがレイの代わりにモンスターの処理を行う。弾倉の交換、意識の切り替え、装備の変更、それらを行う中で生じる僅かな隙。一人ならばどうにか無理をして隙を縮めたり、生き延びなければならないが、部隊ならば、仲間がいるのならば助け合うことで効率よく対処することができる。
レイとマルコは言葉を交わすことはせず、行動だけで意思疎通を行い互いの隙を補い合う。そしてそれはアンテラやクルス、リアムも同様。五人が部隊として、一つの生物のように補い合い動く。
モンスターは全方位から絶え間なくやって来ている。それでも対処できているのは一重にレイ達の実力という理由と、歴は浅いながらも強固且つ円滑な連携によることが大きかった。
「……っ」
隣にいたマルコが僅かに表情を歪める。負傷したわけではない。本来ならば一発で殺しきらなければならないところで、急所を外したことで二発目の弾丸で殺さなければならなくなったためだ。
今のミスで生じた隙はほぼ無い。
だが殺しきれたからと言え、隙へと繋がらなかったと言え、マルコのミスは後に響く。というのも時間経過と共に出現するモンスターの質、量ともに増えるが、レイ達が使っている銃、強化服の性能は向上しない。最初からずっと一定の性能のまま。つまりは変わらない装備で強くなっていくモンスターと戦うことになる。
敵が強くなり、突撃銃の火力が足りなくなれば急所を狙わなくてはいけなくなる。どれかで小さい場所であろうと目や首などの急所、または動力部、カメラ。それらを瞬時に判断し撃ち抜かなければならない。もしミスってモンスターの処理に手間取れば一気に遅れが生じ、また近づかれればモンスターの処理に対しての焦りがでて冷静な対処が困難になる。
今はこれでも良いが、こういった些細なミスが続けばいずれ物量で押される。今の内からたった一つのミスも無く、完璧な対処をしなければならない。また機械型、生物型、それらに対して有効的は手を打たなければいけなず、常に最善の手を模索し、完璧な手を打つことが求められる。
時間が経てば経つほどモンスターが多く強くなるため求められる基準は高くなり、次第に実力と理想との乖離が起き始める。そうなればゲームオーバーだ。そうならないよう、ミスをしてはならない。また、弾倉も限られた個数しか持っていないため弾薬を使い過ぎれば肉弾戦を強いられることになり、それはほぼ負けに等しい
マルコもそれらが分かっていて、だからこそ今した些細なミスに顔を歪ませたのだ。
だが少しの後悔する時間はないので、すぐに調子を元に戻してモンスターの処理に意識を割く。通常通り、寸分の狂い無く撃ち出された弾丸はモンスターの急所を撃ち抜く。
一発で殺せないのならば眼球、又はカメラを破壊し、敵モンスターが眼球やカメラ以外の感覚器官や感知センサーの類を使用しているのならば。時にレイと協力し率先した片付ける。
目の前の敵から目を離し、マルコの助けに入れば当然、隙ができる。だがレイはその程度のことで遅れが生じることは無い。相手がどれだけ強くなろうと、数が増えようと、レイは今までに対処してきた。自身の力、装備を遥かに上回るモンスター、あるいは人に対して策を練り、奇襲を狙い、油断を誘い、急所を撃ち抜いた。
敵が強くなり続け、レイ達の装備は変わらず元のまま。段々と装備とモンスターとの間に出来た乖離が広がる。だがレイはそれらを気にしていないかのように、逆に討伐速度を上げていく。
同時に、今ここにいるのはレイだけではない。
段々と緊張感が増し、危機的状況に晒されるにつれてクルスやマルコの射撃精度が上がっていく。撃ち漏らしは無く、一瞬の隙すら生まない。そしてそこにアンテラやマルコが加わり穴は無い。
それでいてミミズカ都市に来る途中に何度も車上の上から行った部隊内での連携。そして今回の測定の際にアンテラの部隊は急速に連携が取れるようになっていた。3分が経過、4分が経過、すでに正確な時間など測れていないが少なくともかなりの時間が経っている。
時間経過と共に増え続けるモンスター。量、質ともに最高レベル。だがそれでも薄氷の上でレイ達は戦えていた。
だがその時、遠方から放たれた弾丸がクルスの腕に命中した。右腕が弾き飛ばされ、同時に強化服の同機も右腕だけが切れる。
「――――っ」
クルスが遠方の建物、その屋根に登って狙撃銃を構える機械型モンスターを睨みつけた。そしてアンテラとマルコが一時的に動けなくなったクルスの援護に入ると同時に、レイが事前に支給されている一艇の狙撃銃をリアムに投げて渡す。
リアムは突撃銃から手を離し、狙撃銃をつかみ取った。リアムが狙撃銃を使い遠方のモンスターを殺すまでの僅かな間、レイがリアムの援護へと回る。時間としては10秒にも満たない僅かな時間だが、その間だけはリアムの代わりに、二人分の仕事をすることが求められる。
この10秒だけ、残りの弾倉を気にせずに弾丸を撃ち出す。だが無駄に乱射している訳では無く、当然にすべての弾丸が狙った急所に、あるいは最も効果的な成果を得ることができる場所へと命中している。
そしてリアムは6秒ほどで狙撃銃を構えた。そして1秒ほどで体勢を整え、照準を再度確かめる。すべての準備を8秒ほどで終わらせたリアムは、息すら忘れるほどの集中の仲、引き金を引いた。撃ち出された弾丸は真っすぐに宙を駆け、屋上から続けて二発目を撃ち出そうとしていたモンスターを破壊する。
そしてリアムは敵の破壊を確認次第、すぐに突撃銃を持ち、戦闘に戻る。その間、僅か10秒。そしてレイはその時間だけだが完璧に二人分の仕事をして、リアムの代わりを務めていた。
同時に、クルスが片腕だけだが戦線に復帰し、元の体勢に戻る。しかし片腕しか使うことができないためクルスの処理能力が下がった。それにより今までのように戦うことが厳しくなった。それに加えてモンスターは増え続ける。
もともと時間経過と共に追い詰められる設定だが、今回のせいで追い詰められるスピードが遥かに速くなった。対処が間に合わなくなり、次第に追い詰められていく。隙が大きくなり、焦りはさらなるミスを生む。加えて遠方からレイ達を狙うモンスターも増え続けている。
ただ目の前から、横から、背後から襲い掛かって来るモンスターに対処すればいいだけではない。遠方からのモンスターにも対処しなければならず、今のレイ達では困難な状況だ。
最初に落とされたのは片腕を失い、強化服の出力が下がってしまったクルスだ。遠方から撃ち出された数発の弾丸を全身に食らい、強化服の耐久力限界を越え脱落した。
これは不運でも、偶々でもない、なるべくしてなった結果だ。
なし崩し的に、そこからはただ蹂躙されるのみ。アンテラ、マルコ、リアム、レイの四人でそこそこは耐えたものの、増え続けるモンスター、減り続ける戦力。その差からリアムが近づいてきたモンスターへの対処が遅れ、食われた。
だが最後にリアムは食われた後にモンスターの内部から内臓を破壊し、同時にそこで力尽きた。残るは三人。マルコは弾倉が残り少なく、アンテラは弾倉に少しばかりの余裕こそあるものの、モンスターの対処だけで精一杯。それも完璧に対処できているというわけでは無く、徐々に追い詰められている。
それでもできるだけ時間を稼ごうと残りの弾倉を考えず撃ち続ける。だが弾倉を交換する僅かな時間が積み重なり――。
「――――限界だ」
次の脱落したのはアンテラだ。遠方から放たれた弾丸で強化服の出力が下がると共に体勢が崩れ、そしてその隙で詰めて来た機械型モンスターに至近距離からロケット弾を胴体にぶち当てられ、一瞬で脱落。
そしてせめてでもアンテラが脱落するまでは生き残ろうと気張っていたマルコが後を追うように糸が切れたのか頭部に弾丸を受け、脱落した。残ったのはレイ一人だけ。全方向から来るモンスターを相手にたった一人、銃も武装も物足りない状態で戦わなければならならない。
すでに脱落したアンテラ達は強化服の同機が打ち切られているのでどう動いたところでホログラムと接触することが無いし、まだレイが残っているので邪魔にならないように部屋の隅に行く。
部屋の隅には先に脱落したクルスとリアムがおり、そこにアンテラとマルコが合流する形になる。ただ、今合流したところでレイがそう長く生き残れるはずが無く、もって数十秒が良いところ。
だが脱落してすぐに、一人で戦うレイを見たアンテラは別の感想を覚えた。
(いや、あともう20秒はいけるか)
全方位から迫りくるモンスターを相手にレイは追い詰められながらも戦えている。武器や装備をすべて使い、貯金を切り崩していくようにある物をすべて使って対処していた。貯金が無くなればすぐに終わってしまうだろうが、それでも一人でこの量のモンスターに対処できているのは単純に異常だ。
突撃銃での対処は勿論のこと、リアムが残りた狙撃銃を至近距離からモンスターにぶっ放し撃ち殺して、すぐに今度は殴る蹴るといった肉弾戦でモンスターを処理していく。
単純に馬鹿げた身体能力をしている。まるで曲芸師、サーカスでも見ているかのような光景だ。
本来ならば今相手しているモンスターは装着している強化服だけでは殺しきれない相手。全力で殴れば装甲が凹みことするだろうが、破壊するこは不可能。だがレイは破壊している。
部屋に設置された演算機の故障か、あるいは強化服と演算機械が倒せる、と判断してしまうほどに身体が強靭なのか、そのどちらともか。分からないが、少なくともレイは部隊が全滅してから今の今まで耐え続けている。
レイはアンテラ達の部隊の中でも問題なく連携を取ってモンスターを処理できていた。だがそれでもレイはソロのテイカー。いつも一人で自分勝手に動き回りモンスターを倒して来た男だ。
アンテラ達がいなくなった今、いつものようにソロのテイカーとしてモンスターを処理している。やはり慣れているのだろう。射撃技術、判断ともに部隊で行動している時と変わり無いが、その分、動きに幅がある。
対応の策は増え、逆に後が無くなったことで、仲間が消えたことで無駄な責任が生まれず大胆な行動が取れる。それでも運といったものに助けられながら、レイは耐え続け、最終的に42秒をたった一人で持ちこたえた。
最後に残ったレイがモンスターに囲まれて揉みくちゃにされて終了。
終わりと共にホログラムが消え、部屋の明かりが全開になる。そして管理室の方から結果報告が届く。
『4分21秒43。お疲れさまでした』
4分21秒43、今のところ測定された数値の中では一番良い数字だ。
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