第186話 予定通り、予想外

「もうすぐだぞ」


 運転席に座るアンテラが荷台にいる部隊員に伝える。今回の討伐作戦では部隊員同士での連携をみるためアンテラは参加しない。当然、危機的状況に晒されればその限りではないが、基本的にはハンドルを操作するだけだ。

 荷台ではレイやリアム、そしてマルコとクルスが準備を行っている。とはいってもすでに万全の状態であるため最終確認だけだ。装備に不具合が無いか、弾薬は十分に用意されているか。

 それさえ済めば後は戦闘へと移るだけ。探査レーダーには赤い点が映し出されている。今回の討伐対象である準懸賞首だ。装備は機関銃と大砲のみ。当然、それらの装備で直接攻撃されればレイ達とはいえど危機に晒される。しかし当然に対策は住んでいる。

 すでに準懸賞首は肉眼でも見える位置まで来ている。

 そしてレイ達が見える距離にまで近づいたということは、準懸賞首からもレイ達が確認できるだけの距離であるということだ。それまで別方向へと進んでいた準懸賞首が方向を変えてレイ達の方へと向かってくる。

 無限軌道を使って、しかし予想よりも格段に速くレイ達との距離を詰める。そしてレイ達は一歩も引かずに対処へと移る。


「…………」


 マルコが無言で合図を出す。その瞬間、リアムが構えていた狙撃銃を発砲する。

 今回の討伐作戦はマルコが隊長に着き、クルスがその補佐となる。リアムとレイは指示に従い、的確な攻撃を繰り返すだけだ。そのマルコの命令によってリアムが引き金を引く。

 撃ち出された弾丸は寸分もずれることは無く準懸賞首の肩当たりから生えた機関銃を破壊する。リアムは続けて何発も弾丸を撃ち出し、敵の武装を一つずつ破壊していく。

 それだけでは無い。ある程度まで近づくとクルスやマルコも加わり準懸賞首への攻撃を強める。途中、機関銃や大砲を撃ち出そうとするものの、レイ達はまず最初に敵の武装を破壊すること決めているため、攻撃しようにもその度に破壊される。準懸賞首が急いで機関銃を生やそうにもすぐに撃ち壊され、何十層にも積み重なった装甲を弾丸が貫く。


 巨大、だが身を包み込む装甲の質はあまり高くない。遠方から撃った突撃銃の弾丸でも十分に貫くことが可能であり、狙撃銃ともなると何層もの装甲を一度に破壊する。

 途中、レイ達では間に合わないほど一斉に機関銃や大砲による攻撃が仕掛けられたが結局のところあまり被害はない。それにはアンテラの操縦技術と、単純な機関銃と大砲の威力不足の問題があった。

 準懸賞首が持つ質量による単純な攻撃ならばレイ達は成すすべなく死ぬ。しかし無限軌道を使った移動はその重量を素早く移動させることこそ可能にしたものの、車両より早く走れはしない。

 レイ達より早く走れないのだから近づくことができず、ただ攻撃されうのみ。準懸賞首が唯一持つ遠距離攻撃手段である機関銃と大砲も今は無力化され、意味を為していない。

 結局のところレイ達が戦っているモンスターは懸賞首では無く、準懸賞首なのだ。ファージスのような遠距離攻撃手段を持たず、それでいてその質量を活かすことができない。自らが持つ理不尽を敵になすりつけることすら出来ない程度。蜘蛛型の機械型モンスターを生み出さないし、急速な進化による適応もしない。

 中継都市で痛い目をみたファージスの分体よりかはまだ生易しい性能をしている。


 しかしそれでも準懸賞首。倒すのには相応の弾薬と装備、時間が必要だ。当然に昔のレイだったのならば逃げることしかできず、マルコやクルスのような仲間がいなければ殺しきることができないだろう。そして潤沢な弾薬と高品質、高性能な装備がなければ相手にすらなってなかった。


「制圧お願いします。行きます」


 マルコが擢弾発射機を構える。全開とは違い、今回はいくらでも弾丸を使用してよく、また最善の選択だ。馬鹿でかい敵には大雑把且つ確かな威力を持った武器が効果的。

 それは分体との戦闘でレイも身をもって知っている。

 リアムとレイは引き続きモンスターの体から生えている大砲や機関銃を破壊しながら効率よく弱らせていく。そこにマルコが撃ち出した擢弾が着弾すると共に、浅い装甲がはじけ飛び、内部が露になる。だが内部とはいってもどこまでも機械部品が続いている光景だ。

 モンスターは巨大。たった一発の擢弾で破壊できるほど弱くはない。

 マルコが何十発と擢弾を撃ち出す。擢弾によって破壊された部位の回復に集中しているため機関銃や大砲が生えてくる感覚が遅くなり、その分、クルスの手が空いた。そしてクルスはすぐに擢弾発射機を構え、マルコの援護へと入る。

 命中する着弾の数は大幅に増え、モンスターが勢いよく破壊されていく。モンスターはさらに回復のためにエネルギーを回し、その代わりに機関銃や大砲といった装備の鋳造が止む。

 そして手の空いたレイが、リアムが交代で擢弾発射機を撃ちこむ。準懸賞首は一瞬にして破壊され、巨大だった身体のほとんどは機械部品となって荒野に転がっている。

 尚も攻撃の手は止まず。準懸賞首は瓦解していく。内部機構が見え、無限軌道は破壊され動くこともできずにただ撃ち壊されていく。何十発と、何百発と弾丸を撃ちこまれた後、準懸賞首は活動を止めていた。


(……なんだ)


 レイが疑問に思う。

 死んだわけではない。ならば活動を停止したわけでもない。なぜ動かない。なぜ撃たれ続けている。これはレイだけが抱えている疑問ではない。マルコやクルス、リアムも同様に思っていることだ。

 なぜ反撃を行わないのか。

 レイが思考を巡らせよとする―――が答えは勝手にやってきた。

 

(修復を止めた……)


 準懸賞首が突然に動き出し、内臓に代わる内部機構を体外へと露出させながら

全身から機関銃や大砲といった装備類を生やす。だがその代償として準懸賞首は損傷した身体部位の修復を止めていた。


(いきなりどうした)


 なぜ急に修復を止め、レイ達を殺すために全エネルギーを攻撃に回したのか。単純に、機械型モンスターが持つ合理化された頭脳が、その行動を最善だと判断したためか。それとも感情的にレイ達を殺すのが理由なのか。


(……いや。これは)


 この敵対行動は、自身に残る全エネルギーを消費してレイ達を攻撃している―――ように見せかけている。

 これは時間稼ぎ。まるでそう見せかけているだけに過ぎない。


(―――本体を逃すつもりか)


 巨大な生物型モンスターにはよくある。自らの分体、あるいは本体を逃すために最も目立つ部位であり、致命傷では無い部位を敵に与え、その隙に本体は逃げる。良くある話、生態。だが機械型モンスターも同様の行動を取るとは思っておらず、判断が遅れた。

 恐らく、あれだけあのモンスターが暴れているのは後ろで逃げいている本体から注意を逸らすため、そして攻撃に全エネルギーを使用したのは出来るだけレイ達を負傷させ、足止めをするため。

 

「――まずい」


 このままでは逃げられる。

 レイがそう思って運転席の方へと視線を向ける。すると鼻歌を歌いながら、レイを試すように笑うアンテラの姿があった。


(……アンテラこいつ、|この情報知ってたな)


 この準懸賞首を討伐することになった際、恐らくアンテラはテイカーフロントから『危機に瀕した際に殻を犠牲に本体が逃げる』ことを言われていたはず。というより、この表情、そうであるとしか言いようがない。

 レイが急いで振り返り仲間に視線を送る。マルコとクルスは突如として戦闘態勢へと移った準懸賞首に対して動揺していながらも対処している。一方でレイがリアムを見た時、目が合った。

 

 目を合わせただけで分かる。リアムもレイと同じ結論に辿り着いている。そして互いに言葉を喋らずとも意思疎通を行い、リアムはクルスとマルコへの情報共有。レイは荷台の足場にある穴を開けて、格納されていたバイクを取り出す。

 このまま車両を走らせたところで準懸賞首の巨体を迂回して通ることになり、その頃には本体も逃げ伸びている。故に方法は一つ、準懸賞首の胴体に穴を開け、そこをバイクで突っ切る。

 果たして、準懸賞首を殺すことごときに命をかける必要があるのかと問われれば否と答える。しかしレイは違う。否と答えるのが正常である正解であると分かっていながらも、命をかける選択を捨てきることができない。


「任せた」


 リアムにマルコとクルスのことを任せ、バイクを荷台の上で展開する。そしてリアム、クルス、マルコの三人にそう一言告げるとバイクに跨る。


(もう使うことになるのか)


 そして背負ったMAD4Cと、そのについて僅かに思考すると、レイは荒野へと降りて、本体の討伐に向けてバイクを走らせた。

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