第185話 準懸賞首

 交流都市から出ようとしていたレイ達は足止めを受けていた。原因は決して人為的なものでは無く、例外的な避けようのないものだ。交流都市の付近に何体かのモンスターが出現した、それだけの理由だ。

 別に移動しようと思えば移動できる。今は安全を取って移動していないだけ。まだ日程には空きがあり、特に急いでいる訳でもないので少しぐらいならば立ち止まることもできる。安全を取るのならば留まるのが正解だ。交流都市の周辺に現れたモンスターは懸賞金こそかけられないものの『放っておいたら被害が生まれる可能性がある』と準懸賞首に認定されたモンスターだ。

 懸賞首ほど強くはないものの、通常のモンスターよりかは強力。少なくとも普段、荒野を徘徊しているモンスターや遺跡の外周部にいるモンスターよりも生命力、防御力、攻撃力が秀でている。

 もしここで移動すれば出現した準懸賞首たちとの戦闘になる可能性がある。懸賞首ほど強くないとはいっても、相応の対策を取らなければならない。ここは万事を取って休憩するのが妥当。レイ達はモンスターを殺すことでは無くミミズカ都市でコンペティションを受けるのが第一目標なのだ。準懸賞首との戦いで被害が出たら本末転倒。アンテラの首が飛ぶ。


 だが。アンテラの行動はその逆。今まさに準懸賞首を倒しに行こうとしていた。理由は幾つかある。部隊の練度を確かめるため、上げるため。実績を付けるためなど色々とある。。

 コンペティションに来る際に準懸賞首を倒した。無責任、勝手な行動、そう思われても仕方がないが一応タイタンからの許可は貰っていることやテイカーフロントに話を通しているところ。そして何よりも準懸賞首を全くの被害すら出さずに殺しきれば箔が付く。

 一長一短だがアンテラは後者を選んだ。

 すでにテイカーフロントからは確認を貰い、今はタイタンと連絡を取っているところだ。今日は早朝から出発する予定ではあったものの現在は少し遅れて昼前。アンテラがタイタンと連絡を取りに行ってからすでに一時間が経過しているためそろそろ返事が返ってくるだろう。

 ただ、タイタンに断られてしまえば無理に抗議するような案件でもないため、アンテラがすぐに帰ってくれば返答はだいたい予想がついていた。しかし今回は思いのほか長く話し合いが続いている。


 レイとしてはどちらでも良い。準懸賞首を戦わずに済むのならば何事も無く切り抜けられる。もし戦うのならば死ぬ可能性が上がる。しかしレイは安定を求めてテイカーをしているわけではないので、たとえ危険を取る選択になったとしても全く構わない。

 だがリアムは少し違う。彼は安定性を求めてタイタンに来た。この準懸賞首討伐についてどう思っているかは疑問が残る。


「いいのか? もしやることになっても」

 

 レイが隣にいたリアムに問う。アンテラはタイタンと話す前にリアムやレイを含めた部隊員全員に確認を取っている。その時にリアムは準懸賞首を討伐しに行くことに関して承認した。そのためもしタイタンから許可が下りればリアムも準懸賞首に付き合わされることになる。

 安定性を求めてタイタンに入ったリアムはこの案件に関して良くは思っていないのではないかと、レイはそう思っていた。しかしリアムはさすがに、と否定する。


「このぐらい組織にいることで発生する仕事に含まれてますよ。企業傭兵時代、これよりももっと無茶なことを命令されてきました。何を今更という感じです。自己責任ですべてを負わなくても良いにしろ、組織にいる責任ぐらいは果たさないといけないですから」


 リアムが何かあったのだろう苦い過去を、遠い目で思い出しながら淡々と語る。それはどこか哀愁に満ちていた。元経済連所属の企業傭兵。言えないような任務や依頼があるのだろうことは容易に想像できる。

 深入りすれば巻き込まれるような案件ばかり、レイは関わらないために話題を変える。


「狙撃銃以外にも使うのか」

「露骨ですね。まあいいですよ。何でも、基本的にはすべて使えます。訓練を受けてますから。そういうあなたは、何でも使えていますが使えない武器などは?」

「今のところは無い」


 誇張では無い。レイが使えない装備、銃は一つ足りとも存在しない。好き嫌いで言えばあるのだが、嫌いだからといって下手というわけでもない。


「そうなんですか。どこかで訓練でも?」

「いや。一人で」


 レイは確か、自分のことをスラムで育っただとか言っていた。金も無く武器も無く人脈も無い。そんな場所であらゆる武器を使い、今の練度まで築き上げた。にわかには信じがたい。

 単に、レイには才能があるという可能性もある。というよりあるだろう。そしてある上で今の練度は訓練を受けていなければおかしなほど秀でている。しかしそのことについてリアムがレイに問いかけることは出来ない

 リアムが過去のことについて話さないようにレイにも秘密があって、または話したくないことがあるのだろう。お互いさま。リアムはレイに訊かないし、レイはリアムに訊かない。


 二人がそうして軽く会話を交わしているとアンテラが扉を開けて帰って来た。その後ろにはマルコとクルスの姿がある。


「すまないな時間をかけた」


 アンテラは部屋の中に入って来ると同時にそう前置きしてすぐに話し始める。


「タイタンからは許可を貰った。ただこの後のことも考えて慎重に、損害だけは出すなと忠告されたよ。まあでも許可をしてくれたってことは、そういうことだ。コンペティション前の訓練だと考えてもらっていい。討伐する予定の準懸賞首はミミズカ都市と交流都市の間にいる機械型モンスターだ。つまりは準懸賞首を倒した後、そのままミミズカ都市に向かう。そしてミミズカ都市のテイカーフロントに報告だ。何か疑問点はあるか」


 疑問点は無い。すでに分かり切っていたこと。あとは許可が出るか出ないかが重要だった。許可が出た今、レイ達はただ機械型モンスターに照準を合わせ、討伐に向けて動き出すだけだ。

 もともとレイ達が乗っている車両には多くの弾丸、装備、武器が詰め込まれている。加えて今回、もし許可が下りた時の為に多めの弾倉と特殊弾倉、爆薬なども買いそろえている。

 もし許可が下りなかったのならば無駄にならずともの、コンペティション終了まで荷台で幅を取っていた。しかし事前にレイとリアムで買いに行って正解だったようだ。

 買い物で無駄に時間を浪費しなくて済む。

 そしてアンテラが通信端末をテーブルの上に置いてホログラムを映し出す。ホログラムにはいつものように目標の写真、情報が映し出されていた。


「まだ発見さればかりで情報は少ないが、取り合えず分かっているだけでこれだ」


 無造作に、適当に、子供が作ったかのように不格好な、ケーブルや部品、器具が積み重なり繋ぎ合わされて作られたようなモンスターだ。足では無く戦車と同じく無限軌道によって移動する。

 ただひたすらにでかい。大きさだけで言うのならばファージスの分体より少し小さい程度。大きさ、質量というのはそのまま力へと繋がる。最も原始的且つ分かりやすい数値だ。

 ただ巨大というだけで殺しにくく、急所に負傷を与えにくい。それでいて移動するだけで甚大な被害が発生し、踏みつぶされればたとえ強化服を着ていようと無事では済まない。


「だがただでかいだけだ」


 しかし、とアンテラが言う。


「武装は機関銃と砲台だけ。威力はそこまで高くなく、対処可能」


 もしこのモンスターが強力な武装を有していたら懸賞首として認定されていただろう。しかし一般的な武装しか持っておらず、特別なものもたない。故に懸賞首として認定されず準懸賞首として設定された。


「作戦は車の中で伝える。行くぞ」


 そうして、アンテラ達は準懸賞首討伐へと向かった。

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