第184話 組織内人事
何事も無く車両での移動が終わり、空が暗くなってきた頃、レイ達は交流都市についた。前日に泊った中継都市とは違い、物資の休憩地点として機能している交流都市はあまり栄えてはいない。
店も少なく、企業のオフィスなどもあまりない。ただこれは交流都市の機能を考えれば当然のことで、主に泊るためだけに使われる場所だから仕方がないのだろう。交流都市に着くとレイたちは中継都市の際と同様に事前に予約を取っていた宿泊場所へと移動して荷物を置いた。
その後はいつものように反省点や改善点などを作戦会議の中で指摘し合い、夕食となる。交流都市は栄えてはいないものの人の往来は多いためそれなりに店が多くある。
レイは当然、交流都市に来たことがないためアンテラに連れられながら周りを見て歩いた。歩いているとアンテラが大衆食堂のような店の前で立ち止まって「ここにしようか」と言って中に入って行く。
値段は一般的な飲食店に比べると少し高め。しかし食費は経費で落ちる。アンテラは特に気にせず、目に付いた料理を頼んでいく。ちょうど夕食時ということもあって店内はかなり混んでいたが、案外早くに料理が運ばれてきた。
一日中、運転していたり座っていたり、モンスターと戦いはしたもののいつもよりかは動いていない。通常ならば腹は空かないが、レイやアンテラのようなテイカーは食べれる時に食べる習慣がついているため特に気にせず、いつもの量を注文し、食べる。
クルス、リアムは通常通り、マルコは大皿で運ばれてきた料理を取り分けていた。綺麗に五等分に分ける。しかし完全な五等分というわけでは無く、アンテラやレイの分は多めにとりわけ、クルス、リアム、マルコが同じ分量で分けられている。
各自の食事量にあった量を完璧に分かっている。モンスターとの戦闘からも分かっていたことだがマルコは案外、周りが見えている。そして先回りしてクルスやレイが動きやすいよう準備している。
タイタンのような組織で動くのならばそういった気配りはあって当然の能力だが、どこか弱気でもじもじとしているマルコとは想像が合わず違和感を覚える。レイがそうしてマルコを見ていると隣に座っていたクルスが耳元で囁く。
「マルコは気配りができますよ。ただ気が付いても自分がしてもいいのか、間違ってないのかって不安に思っちゃって中々行動に移せないだけです」
「そういものなのか?」
「そういうものです。腕は確かなんですけど、何かをするときに『もしも』が浮かんで行動に移せないって。自分の行動に自信が持てない……らしいです。前に自分でそう言ってました」
「訓練とか実戦とかに支障が出ないのか?」
モンスターと戦う、人と戦う。勝負は一瞬で決まり悩む暇は無い。逆に悩んで行動が止まってしまったら簡単に死ねる。マルコがそうであるのだとしたら、今までやってこれたのが不思議なほど。
「大丈夫です。あくまでも日常生活だけですから。戦闘時は悩む暇すらないって言ってました。忙しすぎるから必要なことだけしか考えられない……みたいな?」
クルスは僅かに首を傾けて答える。そして一度、はにかんだような表情を浮かべるとアンテラとマルコの話に加わった。
「そういえば。他の二部隊は到着してるんですか?」
クルスの言う二部隊とは、アンテラ達の他にコンペティションのために派遣された部隊のことだろう。
アンテラは一度食器を置いてから答える。
「いや。私達が一番乗りだな。上の部隊は別の依頼が終わってからぎりぎりで合流するらしい」
「へぇー。大変ですね」
他人事であるため気にしていないのか共感なんてみせずにクルスが答え、アンテラが苦笑する。
「実質的にタイタンを引っ張ってるのは上の部隊だ。訓練生や私達のような出来たばかりの部隊は彼らにおんぶにだっこ。いずれ
「えぇー」
アンテラの部隊がずっとこのままである確証は無い。上の部隊へと引き抜かれる可能性があり、それがマルコやクルス、リアムでない確証は無い。そしてアンテラは基本的に部隊を率いる立場であるため上の部隊へと隊員として行かされることは無いが、特別な依頼がある際に人手が必要になったのあらばアンテラも呼ばれる可能性がある。
いつまでもこの部隊で行動することは絶対に無く、どこかで解散する。
「面倒ですね」
それに悲しいですね。とクルスは付け加えた。
また一方で、タイタンに所属していないレイは話を聞きながらも意識は食事に向いていた。そしてリアムも同様に、特に関心が無いのかゆっくりと料理を口に運んでいる。
だが突中で手を止めてレイの方へと皿をずらす。
「レイさん。これ食べますか。苦手です」
企業傭兵であり万能に何であろうと完璧にこなすリアムに好き嫌いがある。思っていたイメージと少し違うが、レイは気にせずに答える。
「これか?」
「はい」
食べられないであろう食材をリアムの皿からレイの皿へと移し替える。
「ありがとうございます」
「このぐらいは別に気にしなくていい」
二人はそう短く会話を交わして食事を食べ進める。結局、二日目の食事も何事も無く終わった。
◆
「レイ。ちょっと手伝ってくれ」
食事が終わった後、アンテラにそう言われレイはある場所へと向かっていた。
「すまないな」
アンテラが隣を歩くレイの肩を叩く。
「……大丈夫だ。それでどこに行く予定なんだ?」
「武器屋だよ。今日は予想よりも弾を使った。何も問題が無ければ明日まで持つが、何かあれば分からない。どうせタイタンが費用を持つ。ソロの時とは違って弾代の心配はいらないからな」
弾代に関してはタイタンが費用を持つため気にしなくてもいい。ソロでテイカーをしていた時は残り弾数が不安でも金銭面を理由に買い足すことができないことがある。
その点、タイタンに所属していれば不安を取り除き、脅威に対処できるだけの弾薬を買うことができる。備えることができる。
「確かにな」
組織に所属することでのメリットとデメリット。こうして部隊で共に行動したことで色々と見えて来た。
「それにここは提携してる武器屋があるからな。代金はこっちが支払わなくてもタイタンが後で支払ってくる。それに割り引きつきだ」
タイタンはNAK社のような武器製造会社と提携しているが、その他にも西部各地で展開している武器屋とも契約を交わしている。そのおかげで手持ちが無くともタイタンが後払いで支払ってくれたり割り引きがついたりなど良いことだらけ。そして西部の多くの都市で展開している武器屋であるため恩恵を受けやすい。クルガオカ都市に二店舗。交流都市に一店舗。ミミズカ都市に二店舗。そして中継都市には一店舗目を建設中だ。
これもタイタンのメリット。弾代を気にする必要が無く、あらゆる面で恩恵を受けられる。
また、アンテラが弾代のことを話したためレイは、今日の昼頃に擢弾を使い過ぎて怒られたマルコとクルスのことを思い出した。そして車両に乗っていた時に思っていたが、交流都市について忘れてしまっていた疑問を思い出し、歩きながらに訊く。
「そういえば、あの二人に今まで弾代のことを言ってなかったのか?」
擢弾の使い過ぎは費用がかかるため駄目だと、アンテラはそう注意した。しかしマルコとクルスはタイタンの中で訓練を受けて来た者達。その程度の知識が無いのは違和感が残る。
そしてアンテラはその違和感を正しいものだと、笑いながら説明する。
「まあね。確かに二人はタイタンで訓練を受けて、今は一人前の隊員だ。その過程の中で弾代のことぐらい説明していないのはおかしい。その違和感は最だ。ちょっとあの二人は特殊でな。あいつらは一人前の実力はあるが、まだ未熟。私がこうしてついているのもそれが理由だ。本来なら訓練生から卒業した奴は即、実働部隊に放り込まれる。なのにまだ訓練生を担当してる私の部隊だ」
アンテラが「しょうがないことだけどね」と前置きしてから続ける。
「今回はコンペティションがあるだろ。多分この話自体は二か月ぐらい前から上がってた案件だ。あるのが分かっているのならばタイタンは戦闘員だけじゃなく『訓練生の育成もすごいですよ』ってアピールしたいだろ? だから少し、予定よりも卒業を速めてマルコとクルスが正式な戦闘員になった。確かにあいつらの実力は一級品だが、まだそれ以外の部分で未熟なところも多い。つまりはまだ卒業できる基準は満たしていなかった、と私は考えている。少なくとも、教養や知識、精神的に成長させてやっと、という具合だな。もしちゃんとした卒業の過程を踏んでいれば弾代のことについて言う必要もなかったんだがな。今回の件は十分な教育を受けられずに卒業してしまった結果だ。つまりはタイタンに振り回されたせい。あとは私が外部契約だったってこともある。それで本来の教官より教えるのが遅れた」
ため息交じりに説明する。不満は少しばかりあるようだが、すでに諦めている様子だ。
「だがまあこれが組織ってもの。仕方ないね。安心の対価だよ。強いられたのならば対応しないとクビだ」
アンテラは「疲れるよね」と付け加えて大きく背伸びをする。そして「もうそろそろで着くよ」と言って、レイと共に少し歩いて武器屋の中へと入って行った。
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