コンペティション

第178話 元財閥所属

 12日後。依頼を受けたレイがアンテラと約束をした場所へと向かっていた。クルガオカ都市の中で落ち合うということでは無く、レイが合流次第すぐに行くため荒野で待ち合わせになっている。

 いつものように強化服『エニグマ』と散弾銃『MAD4C』で武装したレイが荒野に向かって歩く。いつもならば装甲車両を使って車道を行っていたが今日は歩道。加えて遺跡探索のように一日で終わる仕事をするわけではない。レイは荒野仕様に改造された頑丈な大きめのバックパックを背負って歩いていた。

 レイが少し歩くと門を潜って荒野に出る。そしてアンテラから送られてきた位置座標を元に通信端末を見ながら向かう。荒野は開けた場所であるということもあって、レイはすぐに荒野に停車している装甲車両を見つける。遠くから見ても分かる、通常よりも大きめの車両だ。恐らく長旅になることも踏まえて、車内に休憩スペースが完備されている車両を使っているのだろう。加えて荒野仕様に改造されている、内部も改造されている可能性がある。もし買うのならば大金をはたく必要があるが、あの車両はタイタンが所有している物。少しの傷は無償で修理してくれ、壊しこそしなければいくらでも使えさせてもらえるものだろう。

 当然、あのレベルの車両を使えるようになるにはタイタンの中で実績を積み、序列を上げなければならないだろうが。

 

「……お久しぶりです」


 レイが近づくと運転席の近くでハンドルを握るアンテラと話をしていたクルスが、レイの方に向かって小走りで近づいて来て、そう言った。そしてレイが返事を返すよりも早くクルスは言葉を紡いだ。


「前はすみませんでした。マルコが……あれ、まる…」


 クルスが周りを見渡してマルコの姿が無いことに気が付く。きっとレイが来た時にマルコも一緒に来ていると思っていたのだろう。


「あ、あいつ」


 そうしてクルスがマルコを呼びに行こうとする。しかしレイが止める。


「それはもう済んだことだろ。依頼期間中だけだが、行動を共にするんだ。遠慮はしなくていい」


 レイの言葉にクルスは僅かに考えるよな素振りを見せる。そして表情が切り替わると共に頭を上げて答えた。


「分かりました。ではよろしくお願いしますレイさん」

「ああ、よろしく頼む」


 そして振り向いたクルスの横にレイが並んで、車両の方に向かって歩いて行く。その際にレイが幾つかの軽い疑問を晴らしていく。


「部隊は全員で何人いるんだ?」

「レイさんを含めないで、私を入れて4人です」


 レイを入れて五人。遺跡探索を行うテイカーは仲の良い者や腕の近しい者と部隊を組むことがあるが、適正の人数は5人以下とされている。中でも2人と5人の部隊はこと遺跡探索においては最も適性だとオカルト的に囁かれている。これには遺跡という環境下であることとオカルト的な慣習のため、という理由がある。

 まず大前提として腕の立つ同レベルのテイカーが複数人集まるということ自体が珍しいという問題がある。腕の立つテイカーというのは遺物を独り占めにしたいため、また足を引っ張られたくないため一人で行動することが多い。

 もし、その腕の立つテイカーが一緒に行動したいと思えるような奴でも腕が足りていなければただの足手まとい。つまり背中を任せられる実力と信頼がある者としか共に遺跡探索に行けず、そう言った仕事仲間を見つけるのは個人主義が蔓延るテイカーという職業柄難しい。

 

 故に3人目、4人目の仲間を見つけるのは困難であり、また数が増えれば報酬の取り分などでも面倒ごとが増える。つまり、現実的な観点から一般の組織に属さないテイカーが部隊を作るにしても二人組が限界だ。3人目からは二人ならば話し合って解決できていた報酬や生活、価値観についてのもめごとが増える。加えて連携を取るのが難しい。四人ならばまたそのさらにだ。

 当然、3人、4人の部隊ならばは連携さえ取れていれば行動しやすく強力な仲間となる。適正の人数は5人以下とされているのもそれが理由だ。そのため5人の部隊であろうと同じ問題を抱えている。


 だが例外として、『組織に属するテイカー』ならばまた話も変わって来る。彼らは組織の中で訓練を受け、皆が一定以上の実力を持ち、また連携を取ることができる。2人でも3人でも4人でも5人でも、部隊を組んで動くことができる。

 野良のテイカーとは違い、組織の管理下に置かれているため金銭面での争いが発生しづらく、同じ水準の実力である隊員と部隊を組まされるため足を引っ張られることも無い。当然、性格の違いによる衝突もあるだろうが、野良のテイカーとは違い組織に属しているため身勝手な行動は許されず、歯車として動くことを求められる。無駄な争いが起こる機会はほぼ無い。

 ただこの際、タイタンは何人であろうと部隊を組めるものの、適正の人数というものは存在する。それが2人か5人。二人ならば迅速な意思疎通と隠密的且つ自由な行動をすることができる。5人ならば圧倒的な殲滅能力と対応能力、物資補給能力を持つ。対して、タイタンは3人と4人の部隊を作って行動させることもあるが、その場合では5人の方が効率が良い。完璧に意思疎通の取れた腕の立つテイカーが集まったのならば人数はいればいるだけ効率が良くなる。


 この際に3人組と4人組の部隊は二人の時ほど早く動けず、5人の時ほど結果を残せない。時と場合によっては3人組、4人組の部隊が組まれることもある。しかしほとんどの場合において何故か2人組と5人組の部隊が多い。

 そして、6人以上になると部隊で連携を積んだ仲間同士であっても僅かなずれが生じる。遺跡においてこの些細な隙が命取りであり、実際に6人以上の部隊は死亡率が高い。また実際のところ3人と4人の部隊と5人の部隊では結果に大きな違いは無い。ただそれも『遺跡探索で無かったのならば』という言葉が前に付く。

 暗殺任務や捕縛任務などでは異なるものの、こと遺跡探索においては何故か5人の部隊とそれ以外とで致命的なまでの差が出る。訓練では生じることの無かった差。故にオカルト。

 数値だけでは判別のつかないテイカーだけが『遺跡で』感じる違和感の差。5人だと安心感があるからかもしれない、しかしそれでは緊張感が無くなり注意力が散漫になるのでは。単純に数がいるから対処能力も高いんだろう、しかし6人以上の部隊の死亡率が高くなっている。じゃああれか、致命的な安心を覚える人数が6人で最も対処能力が上がるのが5人組ってことか。

 のように何故か『遺跡』の探索においてのみ起こるオカルトについて研究者や技術者は討論を続けている―――が未だ答えは出てこない。考えるだけ無駄なのかもしれないが、それは現時点では不明。少なくともレイが考えるようなものではない。

 今回の依頼では取り合えず一部隊5人という風にNAK社から言われている。そしてその5人の中から2人と3人に分けられて二つの部隊が作られたりなど、変則的に動く。

 よく言われている2人と5人の部隊の方が良い結果を残せる、というオカルト。普段単独行動が多いレイは無関係なものとばかり思っていたが、今回の依頼でその言葉の意味が知れるかもしれない。


「分かった。じゃあ俺は一度アンテラに挨拶してくる」

「分かりました。じゃあ終わったらマルコとか呼びますね」

「頼んだ」

「頼まれました」


 クルスはわざとらしく背筋を伸ばすとそう言って、車両の後部の方へと消えて行った。一方でレイは運転席の方に寄って、ハンドルを握るアンテラに近づく。


「久しぶり」

「ああ久しぶりだな」


 アンテラが窓の外に腕を出して、僅かに体を傾ける。


「用意は」

「もう済ませてある」

「よし、じゃあ後は出発するだけだな。何か聞いておきたいことは」


 レイが一瞬だけ空を見て思考を巡らす。そしてすぐに答える。


「ミミズカ都市まではそのまま行くのか」

「いや、一度中継都市で止まるよ。さすがに疲れるし。あともう送ったから知ってると思うけど運転は交代制ね、まあレイは部隊の面々と慣れるために戦ってもらう方が多いと思うけど。それでも大丈夫かい」

「構わない」


 レイが答えるのを確認するとアンテラは窓を僅かに開けて口を開く。


「じゃあ取り合えず。移動する前に自己紹介だけ済ませちゃおうか。一応知っているとは思うけど、形式上はね。それに一人は知らないと思うし」

「分かった」


 そしてアンテラがハンドル脇にあった小型マイクを手に取って集まるよう仲間に伝える。すでに呼ばれることを知っていた部隊の面々が車両から降りてくると運転席の横、レイの前に並ぶ。そしてアンテラが運転席から降りてきてその横に並ぶ。


「こいつら三人だな。クルスとマルコは知ってるだろ。こいつは……」


 レイを除いて四人の部隊。アンテラとクルスとマルコ、そして一人はレイの知らない顔の人物だった。


「前に遺跡で会った時に紹介した奴だ。元は貨物列車の護衛だとか、そんな説明をしただろ」


 前に遺跡探索をした際、レイが巨大なモンスターに襲われることがあった。その時にアンテラの部隊に同行していた男。それが今、レイの目の前にいる。

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