第176話 NAK社

「で、本題はそれじゃないんだろ」


 今までのはすべて世間話。今回アンテラがレイを呼んだのには別の理由がある。そろそろ本題に入ろう、レイがそう言うとアンテラは「そうだね、そうしよう」と呟いて通信端末を取り出した。

 普通に考えて、アンテラがマルコに関しての謝罪や勧誘のために食事に誘うわけが無い。マルコの件に関してレイが気にしていないのをアンテラは分かっていて、わざわざ直接謝る必要がないことが分かっている。勧誘に関してもそうだ。わざわざ呼んで言う事でもない。相手がタイタンに入ろうか、入らないか迷っているならばまだしもレイが答える内容など分かり切っている。

 故に今回、アンテラがレイを呼んだのはそれらとはまた別の理由だ。

 アンテラは通信端末を取り出して一度、画面を開いて何かを確認してから話し始める。


「いつもと同じだ。レイ、君に依頼を頼みたい」

「詳細を頼む」

「……今回の依頼は私達と共同で行うことになる。つまりは、私が指揮する部隊に入っての任務だ。……ああだが、別に君の行動を縛るつもりはない。体裁上、私の部隊に属するというだけだ」

「……」

「それで本題だ。私達は一カ月後、NAK社が開くコンペティションに参加する。君にはこれに私達と同行して参加してもらいたい」

 

 まだ話が掴めていないレイは首を傾げたままだ。アンテラは引き続き説明をする。


「このコンペティションの目的はNAK社が新たに業務提携する企業、組織を探すために開催されるもので、タイタンは今回、これに参加することになった。まあ、組織としての活動内容を鑑みればNAK社と提携を結びたいのは当然、分かるよな。タイタンは今、提携している企業から装備や弾薬などの支給品を貰う、又は格安で買える代わりにその企業の装備の不具合のチェックや性能の確認。広告として機能している。今回はその提携企業を増やすためにこのコンペティションに参加する、ってわけだ」

「ああ。そういうことか」


 タイタンや丸山組合などの組織は企業と提携することでその企業の装備を格安で買ったり、支給されたりしている。そしてタイタンなどの組織が支給された装備を使うことで性能の確認や広告塔としての役割を果たし、企業側のメリットとなる。

 そしてNAK社が新たに業務提携をする相手を探していて、今回はそれにタイタンが立候補したという具合なのだろう。だが今の話を聞いてレイは幾つかの疑問点を覚えた。


「NAK社か。大企業だな。俺でもいいのか」


 コンペティションということは何らかの試験を他の組織や企業と競って契約を勝ち取る形になるのだろう。だとするとレイでは実力不足なように感じる。NAK社はバルドラ社やハップラー社などの企業と比べるとまだ規模は小さいものの、業界の中で見ればTOP10には入る企業だ。

 当然、契約するとなれば莫大な金が動く。それほどの重大事にレイのようなテイカーを参加させても良いのか、という疑問だ。アンテラはすでに返答を用意していたのか、すぐに返す。


「確かに、まあ正直なところ私の部隊じゃ力不足。だから君を呼んだんだけど他の企業と競うにはまだ力不足。だけど安心して欲しい。このコンペティションには私達の他に、タイタンから複数の部隊が派遣される。っていうのも、今回のコンペティションは各企業、組織から複数の部隊を出すことになってるんだよね。これは多分、タイタンの人材の層とか、質とか、そういったものを見るためなんじゃないかな。一番手の部隊、二番手の部隊、三番手の部隊、みたいな感じで他と競わせる内容だと思うよ。それに私達の他に派遣される人達の中には当然、テイカーランク『45』以上で構成された部隊もある。今回はその人たちに他の企業の一番手の部隊とか二番手の部隊とかと戦って貰って、私達は下の方でゆっくりやるってこと」

「そうか」


 つまり、レイ達は他の企業や組織の三番手や四番手の部隊と戦うことになるから実力として申し分ないということ。それならば良いが、レイにはまだ別の疑問が残っている。


「いいのか。俺は別にタイタンの戦闘員じゃないぞ。それじゃあ色々とまずいんじゃないか」


 NAK社はタイタンやその他の企業が持つ資本力や人材でどちらが優秀かで決めようとしている。そこに部外者であるレイが紛れ込んでしまっては正確な判断ができなくなっていまうのではないかという指摘だ。

 それにもし参加できたとしてレイよりも優秀なテイカーを呼んだ方が効果的なはずだ。

 レイの問いにアンテラは苦笑しながら答える。


「そうだね、確かに。だけどまあその辺は許されてるよ。そもそも、私は自由に部隊を指揮できる権利があるから、今回の仕事に伴って最適な人材を組織するつもり。それに腕利きのテイカーを引っ張ってこれるだけの人脈と金があるってことも証明できる。確かに君は外部の人間だけど、それを含めての力。NAK社からはOKが出てるよ」

「いいのか、俺で」

「あまり自分を過小評価しない方が良い。君は優秀だ」

「そう、か……部隊は他にどうするつもりなんだ」

「一応、タイタン側からマルコとクルスを参加させるように言われてるよ。これには訓練生がどの程度まで育成できているかを証明する証拠としてだな。こっちの育成力、人材の幅、それらを証明するためのってこと。……あ、当然、実力はあるよ。無理にねじ込まれたわけじゃないから安心して」


 今のところレイが思っていた疑問はすべて晴れて、後は決めるだけ。報酬や詳細な内容に関してはまだ伝えられていないが、あとで送られてきた資料を見れば書いてあること。

 別に今、決めるような案件でもない。三日後か四日後か、それまでに結論を出せば良いだけだ。少しの間、首を傾げたまま悩むレイを見て、アンテラが何かを思いついたかのように頭を上げる。


「そうそう言い忘れていたけど。依頼開始は一か月後。だけどもし依頼を受けるのならその7日から5日前までには集まってもらうことになる。ていうのも行われる訓練場がクルガオカ都市じゃなくてミミズカ都市なんだよね。だから数日前に集まっていくことになる。別に君一人だけでミミズカ都市まで行ってもらっても構わないんだけど、その場合は移動分の費用を負担できないのと、着いた時の手続きが面倒になる。一応、決める前にこれだけ知っておいてくれ」

「分かった」


 この先、レイに入っている重要な予定は無い。テイカーらしく、遺跡探索だけを続け、また休みたい時に休むという日程だ。そのためアンテラの話を受けること自体はできる。

 後はやはり報酬面との相談。加えてこの依頼期間中はクルガオカ都市とミミズカ都市との行き帰り、コンペティションを行う日などを含めて二週間程度の日程になるだろう。そうするとレイが今住んでいるビルの管理人に書類を書いて渡さなければならない。

 というのも、テイカーは死にやすい職業であり、どれだけ腕利きでもある日突然に帰ってこないことがある。遺跡に行って死んだ場合、死体の発見は困難で死亡確認は難しい。

 故にテイカーはビルと契約するときに数十日間の外出をする場合は一度連絡する必要がある。そうしないと死んだと思われて勝手に部屋の物を売られたり捨てられたりするからだ。

 その手続き自体は面倒ではないが、ビルの管理人というのが一癖も二癖もあるような人でレイは個人的にあまり話たくはない。ただそんなことは依頼を受けるにあたって些細な影響しかない。

 結局のところレイが受けたいか受けたくないかが大事なのだ。


「そのコンペティションに参加する企業とやらはすでに公開されてるのか?」

「ん?……ああ。まあね。すでに公開されてるよ。そこまで多いわけじゃない。今送る」


 アンテラが通信端末を取り出してレイに資料を送る。そしてレイが送られてきた資料に目を向けている際、アンテラが口を開く。


「今送った表を見てくれれば分かるけど、今回のコンペティションはタイタンわたしたちともう一つの参加企業との勝負になると思うよ。出来レース、とは違うけど表の下に載ってるこの企業とタイタン。どちらが提携を勝ち取れるかって勝負」


 レイが表の一番下に視線を送って載っていた企業に目を向ける。


「どうしたんだい、いきなり。参加企業に何か気になることでも?」

「いや、まあ……そうだな」


 参加企業を見たレイが僅かに口角を上げる。そして一秒ほど瞼を伏せて考えた。そして目を開ける。


「返事は二日後でもいいか。いい返事ができそうだ」

「っはは。構わないよ。それじゃあ、期待して待っておくよ」


 二人がそう言葉を交わし、依頼についての話が終わると同時にちょうどよく食事が運ばれてきた。

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