第172話 奇妙な縁
レイが遺跡探索をしている。探索場所はいつもとは少し違って『クルメガ』の中でも探索がしづらい西側の場所だ。
というのも。小規模遺跡『クルメガ』はレイの住むクルガオカ都市の西側に存在する。当然ながらクルガオカ都市から『クルメガ』へと向かえば『クルメガ』の東側に付くのは当然のこと。故に、クルメガの東側はテイカーが立ち入る機会が多く、探索が進んでいる。
逆に。『クルメガ』の西側はクルガオカ都市から行くとわざわざ回り込まなければならない場所であり、テイカーが立ち入るのが困難だ。特にバイクや装甲車両などの移動手段を持たぬ駆け出しのテイカーは時間的制限から回り込むことができない。また、ある程度手慣れたテイカーであっても『クルメガ』の西側部分は未探索領域も多いため近寄る者は少ない。
だが、テイカーが来ていないということは、未探索猟奇がまだ残っているということは高価な遺物がまだ眠っているということでもある。バイクや装甲車両を手に入れたばかりのテイカーや腕に自信のあるテイカーが良く訪れる。高価な遺物による一発逆転、名声や富。そういったものを求めて来る。
しかしそう上手くもいかないのが現実だ。モンスターの数が多く、まだ多くの防衛設備が残っている。一つでも判断を誤れば死に至る罠がそこら中に仕掛けられている。
その環境下で無事に遺跡探索を成功させるものは限られる。レイのような大規模遺跡にも行けるような装備で武装したテイカーや強い連携を持った複数人のパーティなど、ほとんどの場合において単独で強力な実力を持つ者と足手まといではない仲間同士が協力する場合の二択になる。
レイは西側を探索する基準に届いている。
ただだからといって慢心や安心はできない。いくら強力な装備で身を守ろうがここは遺跡だ。予想外の事態に巻き込まれ、強力なモンスターを対峙させられることも良くある。
エニグマとMAD4C。その他の装備を持ち万全の体勢ではあるがレイは常に緊張感をもって遺跡探索をしていた。
テイカーが立ち入ることが少ないため見つかる遺物が多い。高価な物では無いにしろ一つ5000スタテル程度の値が付く旧時代製の調理道具が幾つも見つかり、また旧時代製の調理道具は状態の良いもの性能の良いものなど値がつり上がる可能性を多く秘めている。状態の良い物であれば5000スタテルを大きく上回り2万スタテルにも届く。
実際にレイは2万4千スタテルの値がついた旧時代製の包丁を以前に見つけている。
今回は見つかる遺物が多いこともあり、2万スタテル程度の値が付く遺物が多く見つかっている。バックパックはすでに二回ほど満杯になり、置いてきた装甲車両に乗せてはまた戻って来て遺跡探索を繰り返している。
まだ西側でも外周部と中域の中間地点を探索しているため車両があるところまで大きく離れておらず、往復はモンスターに注意して進みながらも案外すぐに終わる。現に、まだ昼を少し過ぎたぐらいの時間帯だ。
ただ何回か往復をしていれば気おつけていてもモンスターと会うことがある。レイはすでに三回ほどモンスターと戦闘になっており、今回で四回目だ。
レイが静かに目の前を浮遊する人型の機械型モンスターに照準を合わせる。機械型モンスターはレイを敵か、そうで無いか判断するのに時間を要しているのか接敵から5秒ほど静寂の時間があった。
そして戦闘は突然に、突如としてレイが引き金を引いた瞬間に始まる。機構がMOD3に設定されているMAD4Cは付近の柱や壁を巻き込みながら機械型モンスターへと着弾する。
しかし表面の装甲が僅かに凹み、穴が空いただけだ。レイはすぐにMODを『3』から『1』へと切り替える。だがそれと同時に機械型モンスターが浮遊しながら地面を滑ってレイに近づく。急激に距離を詰め、目前にまで迫った機械型モンスターに対してレイは一歩だけ後ろに飛んで距離を取る。
その一歩でMOD1へと機構を変化させ、さらに目前へと近づいた機械型モンスターの胴体に向けて近距離から散弾を放つ。一点に貫通力を高めた散弾は機械型モンスターを吹き飛ばし、胴体に大穴を開ける。
機械型モンスターが浮遊機能を失い、地面に倒れる。だがまだ死んではいなかった。
最後に仕留めようとMAD4Cの銃口を向けた――瞬間にレイの耳とエニグマに搭載された敵感知システムがモンスターの足音と反応を拾った。急速に近づく生体反応にレイの意識が僅かに逸れる。その瞬間に先ほどまで相対していた機械型モンスターがレイに向けて急接近する。
だが、機械型モンスターがレイに攻撃を仕掛けるよりも早く、別の方向から現れたモンスターが戦闘に割り込んでくる方が早かった。まるで肉塊。赤い皮膚に黒い点々が並べられ、まるで赤子が肥大化してしまったかのような造形。
その生物型モンスターが隣の建物を壊しながらレイのいる場所に向けて倒れ込んできた。
それまで対峙していた機械型モンスターは肉塊に踏みつぶされ地面にめり込む。そして突如として現れたモンスターに僅かに戸惑いながらもすぐに意識を切り替えたレイが対処する。
すぐにMAD4の機構をMOD3へと変更し、撃ち込む。広く分散した弾丸はモンスターの皮膚にめり込み、満杯に水の入った袋に穴を開けた時のように血液が吹き出る。
レイは続けて弾丸を撃ちこみ、モンスターの四肢を破裂、破壊する。だが、そこでレイは引き金を引くのを止めた。理由は単純だ。斜線上に撃ってはならない物体が入ったためだ。
遺跡には当然、レイ以外のテイカーもいる。そしてそれらのテイカーはレイと同じように遺跡探索を行い、遺物を収集し、モンスターと戦っている。今、レイの目の前にいるモンスターは別のテイカーと戦い、追い詰められた挙句にここへとなだれ込んできた。
「……」
構えられたMAD4の照準器には一人のテイカーが映っていた。強化服を着て、高性能な突撃銃を装備している。
(……仲間か?)
だがすぐに一人だけではないことに気が付く。戦闘を走るテイカーの後ろからさらに三人ほど強化服を着た者達が現れたからだ。それら四人は連携の取れた動きでモンスターを死へと追いやる。狙っているのは首の辺り、レイも撃ってみて分かったが胴体や四肢と比べて頭部だけが異常に硬いモンスターだ。
あの四人のテイカーもそれに気が付いていて、首を狙っているのだろう。レイも同じ行動をしていた。火力は十分。あと10秒もすれば殺しきれるだろう。事実、レイが何か手助けをすることは無くモンスターは一瞬にして胴と頭部が分かたれ、動かなくなった。
動かなくなったモンスターを前に三人のテイカーは死体を見下ろして少し休憩している。一方で先頭で戦闘をしていた一人のテイカーはビルから飛び降りて、レイの近くまで歩いて来る。
そしてある一定の距離―――いつでも反撃できる間合い―――まで近づくと敵対意識が無いことを告げるように頭部装甲を外して素顔を晒す。すると見えたのは、レイが知っている顔だった。
「……アンテラか?」
「あれ?レイ?」
アンテラとは指名依頼の際に受けた懸賞首討伐の仕事の時に会った以来だ。これで遺跡内でアンテラと会ったのは三回目か四回目か、少なくともかなりの回数会っている。
奇妙な縁。レイは僅かに困惑しながら自分も頭部装甲を外した。
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