第149話 電磁機構砲台

 崩れ去った壁の周りに、荒野に、一台の車両が止まっていた。


「行くか」


 レイの合図と共にキクチが都市の備品である車両の運転席に座る。

 そして視線を真っすぐ前に向けた。そこには一体のモンスター。巨大な電磁機構砲台を備えた懸賞首級のモンスターがいた。あれに今から突撃するのだ。とても倒せるようには見えない。

 無理無謀。あまりにも無茶。しかし勝機があるからこそレイはここにいる。

 道のりは長い。気が遠くなるほどに。ただやると決めたのならばやる。それがテイカーとしてレイが築き上げた気負いや考え。


「キクチ」


 レイが運転席にいるキクチに話しかける。


「なんだ」

「銃はバルドラ社のか。だったら使えるか」


 レイがキクチに、特殊な弾丸を手渡す。


「これは」

「さっき言ってたやつだ。『グロウ』用に用意された特殊弾丸、L-FIR4。必要になる」

「いいのか。『グロウ』討伐の為に渡されたモンだろ。こんなところで使っちまって」

「そんなことも言ってられないだろ。それにこの弾丸ぐらいいくらでも弁償できる。あとで謝ればいい」

「それもそうか」

「ああ。まあ運転だけしてればいいからな。使う必要はないと思うが、一応渡しておくぞ」


 レイが荷台に乗り込む。そして目の前に視線を送った。ファージスのようなモンスターの足元に何百体にも及ぶ、蜘蛛型多脚兵器が見える。恐らく、巨大なファージスは近づかれた対象に攻撃することができない。足の下にでも周り込まれたら逃げることしかできなくなる。そうした状況に対応するためにあの蜘蛛型多脚兵器を体内で製造し、産み落としたのだろう。

 レイ達からしてみれば、あの蜘蛛型多脚兵器は、ただでさえ長い道に生えたいばらのようなものだ。全く大変だと、そう思わざる得ない。もうあと数分もすれば都市の警備隊が出動するだろう。しかしそれではファージスに三発目の射撃を許してしまう。

 いや、恐らく四発目すらも許してしまうだろう。ファージスは攻撃に伴って反撃されることを予知している。正しく認識しているか分からない。ただ攻撃をすれば反撃される。そんな当たり前のプログラムを組み込まれているからかもしれない。レイ達と、警備隊が向かってくるのを中継都市の防衛反応として、当然に警戒している。

 それが蜘蛛型多脚兵器であり、電波妨害などの機能だ。

 だが蜘蛛型多脚兵器を製造するのにはそれなりのエネルギーを消費する。故に電磁機構砲台にエネルギーを回すことができず、三発目の射撃が遅れた。不幸中の幸いか。

 三発目が撃ち出されることこそ防ぐことができたが、レイからしてみれば目前の道に茨が生えた。

 喜んでも良いことなのか、そうでないのか。疑問が残るところだ。

 ただ、その疑問に対して答えを出すのはすべてが終わってからでも遅くはないだろう。


「よし」


 レイが準備を整えると同時に車両が走り出す。するとキクチがレイに問いかけてきた。


「どうする」

「真っすぐだ。突っ切って殺すぞ」

「賛成だ」

 

 目前には数えきれないほど多くの蜘蛛型多脚兵器。蜘蛛型多脚兵器は分厚い装甲を持ち、一体殺すだけでもかなり苦労する。それが数えきれないほどいるのだ。恐らく、通常の武装だけであったのならば苦労していただろう。それどこから囲まれて死んでいた。

 加えて、逃げながら戦うのではない。突っ込み、四方八方を囲まれながら戦うのだ。

 この状況でファージスを殺すのは大変どころの話ではないだろう。

 しかし幸い、少しながら勝機はある。キクチが持ち出した車両には荷台に機関銃が搭載されている。壁に取り付けられているものとは全く違う型番の機関銃だ。使用する弾薬は一回りも大きく、徹甲弾を撃ち出すことができる。

 加えて、電磁機構砲台によって壊された壁からまだ使える自動ターレットを拾い、荷台に取り付けた。都市防衛依頼を長くやっていたということもあり、自動ターレットの構造や機能については完璧に把握しており、車両に取り付けるのに二分とかからなかった。

 キクチと共に取り付け、荷台には自動ターレットが二機ついている。弾丸は200発ほど、すぐに切れるだろうがこれに関しては仕方がないだろう。次弾が撃ち出されるまでの時間を考慮して満足な時間が無く、十分な量を用意できなかった。


「――レイ!」

「ああ!」


 キクチが叫ぶ。目の前には蜘蛛型多脚兵器の群れがいる。

 レイが答えると、機関銃の引き金を引いた。次の瞬間に、目前にまで迫っていた蜘蛛型多脚兵器が一瞬にして破壊され、機械部品へと姿を変える。発火炎マズルフラッシュで目前が赤く染まり、暗闇が照らされる。

 レイの横では自動ターレットが連続で弾丸を撃ち出している。たとえ四方八方を囲まれようともあらゆる覚悟からの攻撃に対処できている、今のところは。

 

 キクチの乗る車両が前方を防ぐようにして現れた蜘蛛型多脚兵器に突撃する。一般的な車両だったのならばフロント部分は潰れ、キクチは死んでいた。しかし今運転している車両は普通のものではない。

 荒野仕様に改造された車両をさらに改造しているものだ。骨格フレームはより強靭に、装甲板が二枚重ねてある。それでいて馬力は桁違い。車両は蜘蛛型多脚兵器と衝突するものの、潰れ、ひしゃげたのは蜘蛛型多脚兵器の方だった。フロント部分に乗って、足の幾つかが破壊され、千切れた蜘蛛型多脚兵器が宙を舞う。その際に荷台に乗るレイの頭上を掠る。しかしレイは機関銃を片手で握りながら、右腕で払うように裏拳で叩き落とした。

 そしてすぐに機関銃の引き金を引く。

 周りはすでに蜘蛛型多脚兵器で溢れている。右も左も後ろも前も。車両は蜘蛛型多脚兵器を押しのけながら進み続け、レイは全方位から迫りくるモンスターを処理し続ける。

 車両は確かに高性能だが、上を見ればいくらでも高性能な商品がある。馬力があるとは言いつつも、目の前を数十体にも及ぶ蜘蛛型多脚兵器が立ち塞げば突破も困難になる。

 車両の速度は遅くなり、背後から来ていたモンスターに追いつかれ、左右から飛んでくるモンスターに対処できなくなる。常人ならば全方位から来るモンスターに対応することは不可能。しかしレイはテイカーだ。まだテイカーランク『14』だが、数値に見合わないほどの危機を乗り越えている。生物型モンスターに囲まれた、機械型モンスターにも囲まれた。中部の頃に戻れば、徒党を一人で破滅させ、議会連合に追われながらも生き残った。


 今更どうってことない。

 レイはさらに集中を研ぎ澄まし、蜘蛛型多脚兵器を仕留めていく。その中で自動ターレットが破壊され、処理能力が落ちた。機関銃の弾が尽きた。

 しかしGATO-1を使い蜘蛛型多脚兵器に対処する。


「おらよッ!」


 銃弾の間を縫って蜘蛛型多脚兵器が飛び掛かる。レイは背後からも横からモンスターが来ていること、弾倉内の弾丸が少なくなってきていることを知覚しており、そして飛び掛かって来た個体にその後のことも考え無駄な弾丸を使うわけにはいかなかった。


 レイが飛び掛かって来た個体の懐に入り込むと、胸部付近の出っ張りを掴む。そして蜘蛛型多脚兵器を振り回し、周りからも同様に飛び掛かって来た個体たちをまとめて弾き飛ばす。

 そして蜘蛛型多脚兵器から手を離すとすぐにGATO-1の弾倉内に残る弾丸をすべて使い切って周りのモンスターを一掃する。加えて、7つの強化手榴弾を全方位に投げ込む。

 強化手榴弾は飛び散った破片による負傷ではなく、単純な爆発力を強化した手榴弾だ。

 全方位に投げられた手榴弾をレイはGATO-1で正確に撃ち抜く。7個の手榴弾に対して七発の弾丸。

 手榴弾は空中で大爆発を引き起こし、飛び掛かろうとしていた蜘蛛型多脚兵器を一掃。加えて付近にまで来ていた個体すらも余波で吹き飛ばした。車両も爆発に巻き込まれたことで大きく揺れ、機関銃と自動ターレットが吹き飛んだ。しかしもう使用する必要が無かった物なので、大したデメリットではない。

 レイの周りの敵はいなくなった。一方でキクチは運転をAIに任せ、自身は窓から身を乗り出して突撃銃を乱射している。見るとフロントガラスは割れていた。恐らく、蜘蛛型多脚兵器の脚が貫通したのだろう。


 レイがキクチから視線を外し、少し遠くを見た。そこには近づいたことでさらに巨大になったファージスのようなモンスターが、背中に乗せた電磁機構砲台を青白く輝かせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る