第144話 不安の正体
次の日の深夜。レイが救援依頼を行っていた。いつものようにテイカーフロントから指定された座標へと向かい、モンスターを仕留める。今回の指名依頼に際してレイは通常弾も買ってはいるが、専用弾の使い勝手が良すぎるがあまりそちらしか使っていない。
座標へと着いたレイはモンスターを肉眼で確認するとGARA-1を構えた。すでに夜間での戦闘は何度も行っている。その中でバイクに乗りながらの射撃に慣れ、暗闇の中であっても敵を正確に視認することが出来るようになっていた。
撃ち出された弾丸は機械型モンスターの装甲を一発で破壊し、貫いた。続けて何十発と弾丸が放たれ、後続する機械型モンスターを仕留めていく。
(多いな)
体感、いつもよりもモンスターの数が多い。ただ十分に仕留めきれる数だ。
(20体ってところか)
車両に乗っているテイカーも機械型モンスターを仕留めているためその程度の数はすぐに終わるだろう。
レイがそう思いながらGARA-1を構えた。
◆
「助かった」
モンスターをすべて片付けた後、一時的に停車した車両にレイが近づくと運転手がレイにそう言った。
「じゃあ俺がテイカーフロントで困ってることがあったら融通してくれ」
レイが苦笑交じりに冗談を言うと、運転手も苦笑しながら答えた。
「はっは。分かったよ。じゃあな」
「ああ」
車両が動き出して荒野の向こうへと消えて行く。レイは暗闇の中で一人になった。周りには何もなく、明かりも無いため静かでとても落ち着く空間だ。周りで機械型モンスターの死体が散乱していることや、遠くから銃声が聞こえることを無視すればだが。
「これで3件目か」
携帯食料を口の中に放り投げながら呟いた。
レイが来て初日はモンスターが急激に多くなったということもあり救難信号が多く発せられていた。それが中間都市に来てすぐに仕事を任せられた理由なのだが、そこから一日ほどが経過すると、モンスターが増加を確認したテイカーフロント側が報酬を上げるなどして人員を増やした。そのため夜間の救難信号が出るのは少なくなってた。そう少なくなっていた。昨日までは増加した人員で増えたモンスターに対処できていた。
救難信号が一件や二件出るだけ。たったそれだけでレイは基本的に暇をしていることが多かった。今日は昨日と同じくらいに人員が確保できている。そのため今日も救難信号が一件や二件出るだけ、多くても5件程度だろうと考えていた。しかし24時を回ったばかりだというのに、すでに6件の救難信号が発せられている。その内でレイが解決したのが3件。他の2件をレイ以外のテイカーが解決。残り1件は救援が間に合わなかった。
昨日に比べて車両に乗っているテイカー達の量は変わっていない。だとしたら質が低下しているのだろうか。恐らくそれもないだろう。レイもこうして救難信号を受けていて、いつもよりもモンスターが多いのは肌で感じている。
これが一時的なものであればいいのだが。最近、モンスター増えていることも考えるとそう簡単なものでないような予感がする。この危惧がただの予想で終われば良いのだが、そうならない場合もある。いずれにしても今は目の前のモンスターを殺し、救援依頼を完遂するだけだ。
そう思いながらレイが次の座標へとバイクを走らせた。
◆
次の座標に着いた時。すでにほぼすべてのモンスターは片付けられていた。レイが殺したのは12体ほどで、それ以外のモンスターは車両に乗るテイカーと救援に来ていた他のテイカーに討伐されていた。
付近に飛び散る生物型モンスターの肉片。そして漂う異臭。それらから逃げるように少し離れたところでレイと救援に来ていた他のテイカーとが会う。
「ハカマダ。こっちに来てたのか」
車両から降りて来たハカマダがわざとらしく額の汗を拭いながら答える。
「いやぁ疲れたな。昨日は巡回依頼をして、この辺りの地形を把握してたんだがよ。まあ救援依頼やってみるかってことで来てみればこれだ。疲れるぜ」
ハカマダはそう言いながら、車両の扉に取り付けられた収納ポケットの中をまさぐる。
「いるか」
「大丈夫だ」
レイが答えるとハカマダは収納ポケットの中に入っていたパック型の栄養補給飲料を取り出す。そして栄養補給飲料を飲みながら愚痴を吐く。
「それにしてもこんなにいるもんなのか? 救援依頼も馬鹿みたいに多いじゃねえか」
レイは何日も前から救援依頼を行っているため、どれだけモンスターが増加しているのかある程度分かっている。しかしハカマダは今日が初めてであるため知らない。これが普通では当然に無いので、レイが訂正しておく。
「いや。今日は異常だ。いつもよりもモンスターが多い」
「っは。だよな。このままじゃ満足に巡回依頼すらできねえぞ?」
救援依頼がすでに8件。異常なペースだ。夜間に救援依頼を行っている車両は朝と昼に比べ数が多くなっているが、それでも異常な数。このままいけば巡回依頼すら満足に行うことが出来ない。
それにテイカーもいくら報酬が高くともこれだけ危険であれば巡回依頼を引き受けないかもしれない。そうすれば人手が減り、さらに危険が上がり、また報酬と危険が不釣り合いなためにテイカーが辞めていく。悪循環だ。
ただ今日だけが異常なまでに多い可能性もあるので、その悪循環に陥る可能性は低い。
「この量のモンスターが毎日続けば巡回依頼が厳しくなるかもな。ただこんなに多いのは今日が初めてだ」
「だがよ。俺も昨日やってて気づいたんだが
ハカマダは中継都市に来てまだ二日程度。一週間前の当時の状況について知っているはずも無く、当然に推測だ。しかし完璧に合っている。ただレイが報酬がつり上がった日に中継都市に来たことを話すと、前にハカマダに言った『救援依頼の報酬が高くなったから来た』といった発言やその他の発言とも矛盾が生じるため、少しだけ嘘を混ぜる。
「合ってるな。俺も来たのが五日前だったんだが。その時から他の巡回依頼と比べてもモンスターは多かった。テイカーフロントの職員に聞いたんだが、突然のモンスター増加に対処しきれなくなったから報酬をあげて人員を募集したらしい。それから報酬が下がらず、人員が減らないってことはそれが適正ってことだ。つまり人員が増えて危機的状況に陥りづらくなっただけでモンスターの数自体は減ってないってことだな。だから今回の件でそこからさらにモンスターが足されたことになる。この状況が続けばテイカーフロントとしては厳しいだろうな。一時的な事だったらいいが」
「だよな。今の人員でこの数に対処するのには無理があるか。ここが稼ぎ時だとも思ったが、辞めた方がいいだろうな」
「帰るのか?」
「まあな。前にも話しただろ。金よりも命だってな。一週間前からモンスターが増加していること、そして今日、さらに増加したことを考慮すれば辞め時だ。嫌な予感、だけで終わればいいが、その予感が的中した時がなによりも最悪だ。何かを失敗するにしてもダメージは最小限に留めないとな。100の成功を思い浮かべるより100の失敗を危惧するぐらいの方が人生上手く行くぜ。これも戦術的撤退ってやつか?」
「どうだろうな」
レイがバイクに跨る。
「じゃあ今日はもう帰るのか?」
「いや、今日までは大丈夫だな。明日には帰る。レイはどうする。辞め時だと思うが」
レイが頭の中で指名依頼の日程を思い浮かべる。依頼最終日は今日を入れて4日後。その他のテイカーと異なり、レイには色々と制約があるため勝手に帰ることは出来ない。
「俺はもう少しここにいることにするよ」
「そうか」
そうして二人は救援依頼へと戻った。
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