都市防衛依頼
第133話 指名依頼
荒野を一台の車両が走っていた。運転席に座るレイは時より地図に目を向け、目的までの道のりを調整する。レイはイナバから提示された指名依頼を引き受けた。当然、目的地はクルガオカ都市と周辺の都市との繋がりを強めるために建設されている中継都市だ。
レイが運転している車両は移動用に買った物だ。買った、とは言いつつも代金はテイカーフロントが負担している。情報収集機器や電磁装甲、自動ターレットなどが搭載された高級車は買うことはできないが、テイカーフロントが代金を出すということでそれなりに性能の良い車両を買った。
都市で生活する分には十分。遺跡に連れていくのには不安が残る。荒野を移動する分には必要最低限の機能を備えている。限られた補填代の中ではかなり良い方の車両だ。
車はジグに色々と聞きながら選んだ。アンドラフォックは武器屋ではあるものの万屋のような品揃えだ。特に取り寄せることも無く、すぐにこの車両を用意してくれた。
またこれが様々な機能を搭載した荒野仕様の車両ともなると取り寄せるのにも時間がかかるそうだが、レイが運転している車両はそこまで高価なものではない。ただ、移動手段を持っていなかったレイにしてみれば良い買い物だ。
イナバには感謝しなくてはいけない。
今回の指名依頼は書かれていたように、使用した分の弾丸の費用をテイカーフロントが負担してくれる。加えて、必要な物であれば弾丸の他にも、回復薬や強化薬、滞在費などを補填してくる。ただここで注意しなければいけないのは『使用した分』という言葉が前に入ることだ。回復薬も弾丸も強化薬も、あくまでも使用した分しか補填しない。弾代をテイカーフロントが払ってくれるからといって買いためをすることは出来ない。
指名依頼が終わるその日に清算され、払われる。回復薬を買い過ぎて余ったとしてもそれは自己責任だ。そこで怪我をしていなかったり、依頼以外のことで負った傷を負傷するために回復薬を使っても不当、として代金の補填を認められない。
当然だ。ほとんどのテイカーは回復薬や弾丸を買い過ぎて自分で自分の首を絞めるようなことはしない。ただテイカーという職業上、スラムで生まれ育ったような者も一定数存在する。目先のものに釣られ、内容をよく読まばずに破滅する。
その様ではいずれ破滅していたと思うが、何とも悲惨な最後だ。
そして少なくとも、レイはそこまで馬鹿ではない。アンドラフォックで弾丸と回復薬を事前に買ったが、もしもの時があっても自分で全額を払えるだけの金額だ。そうして、レイが中継都市を目指して車を走らせていると視界の隅に黒い点が移り込んだ。
(やっぱ探査レーダーがないと厳しいな)
隅に映る黒い点に目を向けると機械型モンスターがこちらに迫ってきているのが見えた。もしこれが十分な機能を搭載した車両であれば、探査レーダーを有していれば、機械型モンスターの接近を早く察知できただろう。しかし必要最低限の機能しか有していないため、レイの肉眼で発見するまで察知できなかった。
やはりこの車両で遺跡に行くことは出来ない、そう思いながらレイが自動運転に切り替えて、運転席の後ろにある小窓から荷台に移動する。
そしてレイは荷台に
荷台の上でGATO-1を構える。そして引き金を引いた。弾丸は僅かに弧を描きながら飛んでいき、機械型モンスターに命中する。弾丸は装甲を砕き、衝撃で足を折った。
一発の弾丸を浴び、ほぼ戦闘不能になった機械型モンスターに続けて弾丸が浴びせられる。必要な戦闘で使った弾丸ならばテイカーフロントが負担する。ここで弾代を気にする必要は無く、完全に相手を破壊するまで撃ち続けることが出来る。
また、レイが使用している弾丸は『専用弾』だ。普通の弾丸とは異なり、威力と有効射程が大幅に伸びる。GATO-1のためだけに開発され、使用することが出来る弾丸。互換性はあるもののGATO-1の専用弾とだけあって特別だ。Gシリーズには『1』から『10』のモデルがあるが、その中でも専用弾が作られているのは、使用者の多い『1』『2』『3』『5』『6』だけだ。『4』は単純にあまり使用者がいないため作られておらず、『7』から上のモデルに関しては専用弾を作ったところで微細な変化しか無いほど本体の性能が高く、銃弾に左右されない。
一発一発の値段は高い。しかしテイカーフロントが負担するため気にする必要はない。専用弾の他にも徹甲弾や炸裂弾も用意している。レイの計算ではこの指名依頼が終わるちょうどにすべてを使い切る予定だ。いつもならば買い渋り、使い渋る高価な弾丸をいくらでも使える。
これだけで指名依頼を受けて良かったと思える。ついでにバックパックも新しく買い直し、負担してもらったのだ。不満点は無い。
後はレイが、負担してもらった分に見合うだけの働きをすればいいだけ。今回の戦闘は依頼内容に含まれていないが、まずは最初の成果として対象を完全に沈黙させる。
機械型モンスターはすべてで5機いたが、一瞬で片付けられる。荒野に残ったのは機械型モンスターの部品だけだ。レイは完全に活動を停止した機械型モンスターの元まで車を走らせる。
そして近くまで来ると車を止めて機械型モンスターに歩み寄る。再度、完全に停止していることを確認すると機械型モンスターの動力部を引き抜いて、荷台に乗せた。これは巡回依頼や遺跡探索では出来なかったものだ。機械型モンスターというのはそれだけで価値がある。特に動力部などは遺物として高く売れる。レイが今倒した個体は機械型モンスターとしてはありふれているので、高い値は付かないがそれでも金にはなる。ただ、動力部などの部品は重く、大きい。とてもバックパックには入れられず、遺跡内を持ち歩くのも面倒だ。巡回依頼では倒した機械型モンスターの所有権はテイカーフロントにあるので回収することが出来ない。
故に、車両を持ち自由な今しかこのようなことは出来ない。
中継都市は建設途中ではあるが、中には宿泊施設やテイカーフロントの施設などがすでに作られている。そこで売れば良いだろう。
値の付きそうな部品を車両に積み終わったレイが運転席に戻る。
そしてパネルに表示された地図に目を向ける中継都市まであと少しだ。日が沈む前には着くだろう。
小さな車両が荒野を走っているだけで、こうして数体のモンスターに気が付かれた。中継都市の建設現場が多くのモンスターを引き寄せていることぐらい容易に想像できる。
また、中継都市の建設は周辺の都市とクルガオカ都市とで金を出し合って共同で開発している。そこに財閥や企業も絡んできているため、その利権構造は色々と複雑だ。レイがそこまで踏み込むことは無いが、注意しておいた方が良さそうだ。『稼働する工場』は不可抗力で会ったから仕方ないが、それでもむやみやたらに踏み込んでいけない場所というのはある。特に企業間の争いに首を突っ込むのは危険だ。たとえ護衛だけだとしても、相手企業からの刺客を殺したり、相手企業の役員を殺さなければいけなくなったりと、結果的に面倒ごとに巻き込まれる場合が多々ある。
あくまでも護衛を遂行していただけ、あくまでも仕事、そんな言い訳が通用しない世界だ。特に企業間の争いはその色が強い。名をあげ、自信を持ち、さらなる富と名声のために首を突っ込むテイカーがいるが一様に結果は同じだ。
ちょっとやそっと力を付けたぐらいで
中継都市の環境と、モンスターのことを思い浮かべながらレイがペダルを踏み込んだ。
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