第125話 情報屋
日が落ち切った頃。人気の無い裏路地でレイが人を待っていた。周りには誰もいない。少し遠くから聞こえる銃声や喧噪さえ気にしなければ至って静かなものだ。レイが周りを注意しながら、壁に背を預けながら待っていると奥の通路から一人歩いてきた。フードを被っていて顔は見えない。背は小さく、この付近一帯は治安が悪いためそれだけで厄介ごとに絡まられそうだ。しかしそう言った気配は感じられない。それは彼女が放つ独特の雰囲気によるものだろう。
「やあ。久しぶりだね」
情報屋である彼女がフードから僅かに顔を覗かせながら、レイに言う。レイは背中を壁から話すと応える。
「二日ぶりだ。久しいわけじゃない」
「それもそうだ」
情報屋はそう呟きながら小さく頷く。そしてレイの足元まで来るとフードを外した。
「どうこれ」
フードを外す。するとそこには猫耳? 兎耳? のような物体を頭に取り付けた顔が見えた。レイは困惑気味に返す。
「なんだそれ」
「なんか遺跡で見つかった趣向品だって。旧時代の人も不思議だね。特殊な性癖だよ」
確かに、これは色々と業の深い遺物かもしれない。
「模造品か?」
「そうだね。見つかった遺物は頭に取り付けて起動すると勝手に服が生成されるらしいよ。ホログラムみたいな……ちょっと人づてに聞いただけだから分からないけどね」
旧時代の技術であれば服を生成することも可能なのだろう。しかし技術の使いどころが些か間違っている感は否めない。というより不要ではある。ただ、人の三大欲求を考えてみると、そこまでしても叶えたかった者達がいたのかもしれない、と聞きながらレイが考える。
「ちなみに。見つかった遺物だけど、3憶4800万スタテルの値がついたらしいよ」
「三億?!」
不意に驚愕の情報が舞い込んで来たら、さすがのレイでも驚く。ただ、考えてみれば妥当な金額なのかもしれない。物体の生成。それがたとえホログラムに似た簡易出力であったとしても、現代の技術では再現不可能だ。いや、厳密に言うならば再現は可能だ。現に、タイタンや企業傭兵などが訓練をする施設にはホログラムに似た物体を表示させ、そこに質量を与え、実際の建物と同じような挙動をするよう設計されている物がある。ただ、それには莫大なスタテルと膨大な数の装置が必要になる。手で持てるほどの大きさにその機能を詰め込むのは不可能だ。
「そう。三億もついたんだよ」
三億。これほどの値段は恐らく、搭載された機能に付けられた金額だ。金額であると信じたい。レイは敢えてその辺のことは訊かず、話を進める。
「……それで。ここに呼び出した用件はなんだ。それのためじゃないだろ」
情報屋が頭につけた髪飾りを地面に捨てて、本題を切り出す。
「実は依頼を受けて欲しいんだよね。GATO-1とH-44を手に入れた君ならできると思ってね」
GATO-1とH-44を買ったとどこで知ったのか、少なくともレイは言っていない。ただいちいちそんなことについて問いただすのも面倒で、意味がないことだ。
「いくら装備を新調したと言っても、やれることは限られるぞ。それでもいいなら、取り合えず話だけは聞くが」
「無理な話じゃないと思うよ。私がして欲しいのはタハタ駅跡の調査依頼だけ」
タハタ駅跡は広大且つモンスターが多い。それでいてテイカーが来ることも少ないため探索が進んでいない。タハタ駅跡の探索は過酷だ。巡回中の警備ロボット。変異を遂げた生物兵器。
それら、まだ稼働している施設が存在し、防衛システムのために探索が出来ない。加えて、タハタ駅跡の施設をすべて探索できるほど装備を整えたテイカーは小規模な遺跡である『クルメガ』ではなく、他の大規模遺跡の探索へと移る場合が多い。
故にレイのようなテイカーしか探索に来ないため中々調査が進まず、モンスターも減らない。ただ遺物が多く残っているのでレイからしてみれば嬉しい限りだが。テイカーフロントとしては思うところがある。こうした調査を進めるためテイカーフロントは特定のテイカーに調査依頼を出すことがある。
ただ、今回はテイカーフロントではなく情報屋からの依頼だ。情報屋とテイカーフロントが繋がっている線も考えられるが、利害関係を考慮するとその可能性は低い。それでいて、情報屋がタハタ駅跡の調査結果で得られる利益は少ないだろう。レイへの依頼費と情報の売却で少し稼げるかぐらいだろう。そして情報屋がそこまでする理由がレイには分からない。
テイカーフロントのように損得だけを考えない目的があるのか、それともレイが情報の売却に関して知識が甘いだけで、本当ならばもっと高く売れるのか。情報屋は続ける。
「詳しい内容について、具体的には情報端末に保存しておいた一定の領域内を探索して、地図のマッピング、生息するモンスターの種類の把握とかをして欲しいんだよね」
「情報端末ってのは?」
情報屋が持っていた情報端末をレイに渡す。
「使い方は分かるよね?」
「基本的なことは」
「だったら面倒な説明はいいね。その情報端末には音響探知と熱源探知、それに付随した自動マッピング機能があるから、それを起動させながら指定した場所を探索してくれると助かるかな」
「そんな高性能な物渡してもいいのか」
「構わないよ。死なない限りはちゃんと渡した物を返してくれる、君はそういう|
「…………まあ」
レイが情報端末を受け取る。
「探索する場所は情報端末に保存されてるんだっけか?」
「そうだね。その他、必要なことはすでに入っている。どう? やる?」
「それは報酬次第だ」
レイが情報端末を差し出した。すると情報屋が情報端末を押し込んで、レイの手のひらに収める。
「基本報酬は20万スタテル。探索の際に発見した遺物は、こちらが指定していない物だったら好きにして貰って構わない。逆にもし合ったら回収して欲しい物があるから、その辺をちゃんと持ち帰れるようバックパックの容量には気を配って。それと、もしヤバい目に合ったらすぐに逃げてね。それとそのことについての情報も事細かに教えて。以上、指定された遺物の収集、地図作成以外の情報とかを考慮して報酬を払おう。どうだい?多分納得してくれる金額だろ?」
もし指定の遺物を見つけたのならば回収し、情報屋に渡さなければならない。その分に追加報酬が支払われるということは、遺物分の代金を補うためなのだろう。ただ、テイカーフロントやテイカーフロントと提携している企業以外での遺物の売却は認められているが、テイカーランクの上昇は無い。
故にテイカーは遺物の売却にテイカーフロントを利用する。
レイもそうだ。
ただこう言った状況ならば話も別だ。
「分かった。一旦条件を精査してからまた連絡する。明日の朝にでもまた連絡するから待っててくれ」
レイがそう言って情報端末を差し出す。
「
「…………分かった」
レイが答えると情報屋は笑って、一度手を振ると歩いて消えて行った。
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