第124話 幸運と不安
煙立つ店の中で戦闘が起こっていた。レイは突如として目の前の壁を破壊し、現れた生物型モンスターと対峙していた。人型で、だが人ではない。二足歩行をしているだけだ。腕は両肩から生えた二本と、脇腹から生える二本の計四本。頭部は昆虫に似ている。商店街跡で何度も戦闘を行ったディスガーフが二足歩行をしたような様相だ。
ただ、ディスガーフとは比べ物にならないほどに強力だ。腹から突き出た砲からは爆発性の弾丸を撃ちだしてくる。力は強く、皮膚は硬い。NAK-416であったのならば有効打を与えるのが難しかっただろう。しかしGATO-1ならば話は違う。きっと皮膚を貫き、臓物を破裂させるだろう。ただGATO-1を撃ち込む暇は無くレイは眼前にまで接近したその生物型モンスターと近接戦を演じていた。
今、レイで引き出せる限りの全力で、H-44の出力を上げる。レイと生物型モンスターは互いに両手を握り、押し合う形だ。レイがここで押し負ければそのまま押し倒され、反撃が難しくなる。
レイは至近距離で生物型モンスターの昆虫のような頭部を見る。長い舌が垂れて、涎が滴っている。こんな奴に少しでも負けることが許せない。
出力を上げたH-44は怪力のままに生物型モンスターの手を握りつぶし、手首をねじ切る。だが同時に、モンスターの腹部に付けられた砲が赤くなる。瞬時にその変化を察知したレイは
その瞬間に生物型モンスターの頭部を構成する外骨格は面白いように砕け、皮膚は破裂する、肉は破片となり、眼球が宙を舞った。部屋中に爆発音にも似た音が響きわたり、レイの前方が赤く染められる。
拳を叩きつけられた頭部は内部から破裂したように吹き飛んだ。そして手首と頭部を不自然に失った生物型モンスターの胴体は力なく崩れ落ちる。と同時に、出力を上げていたH-44から空気が抜ける音がした。
「……ったく」
GATO-1を広い上げながらレイが呟く。その苛立ちが含まれた呟きはモンスターに向けられたものではない。ただ間接的には向けられている。レイが視線を送るのは背後だ。先ほどまで棚に箱が積まれ、大量の遺物が保管してあった場所。だが今は見る影もない。棚は崩れ、箱の幾つかは壊れ中身が出ている。
もともとバックパックの中にすべてが入り切ることは無かった。しかし宝の山であった倉庫がこのありさまだ。レイがため息を
そしてレイが遺跡探索に戻ろうとすると駆動音が聞こえた。確かに、聞こえる。近づいて来ている。タハタ駅跡はテイカーの侵入が少ないとだけあって、まだ稼働している警備ロボットが多い。今の戦闘で気が付かれたか、レイがすぐにその場から離れる。逃げられるとは思っていない。恐らくすでに捕捉されている。だがせめて、遺物を巻き込まないように離れようという考えだ。
レイが店舗から抜け出し、通路に飛び出したところで駆動音の正体を見つける。通路は一本の直線の道になっており先まで見える。右手側を見ると少し離れた所に三体の機械型モンスターが見えた。
造形は歪だ。人のような物体が四足歩行で動いている。とはいっても三体の内二体は腕が三本であったり五本であったりと冒涜的な見た目をしている。軟体動物のように体をくねくねと動かしながら、しかし体が機械で出来ているのを示すように、鋼鉄の銀色が反射して、ガチャガチャと歩く度に音が鳴る。背骨に当たる部分から機関銃や大砲が飛び出していた。成長途中のモンスターというわけでもない。機械型モンスターは生まれた時から完成品だ。だとしたら製造過程でエラーが生じた個体であると、そう思った方が良い。
人間が元は設計したのだろうから、出来上がる機械型モンスターというのはある程度、造形が整っている。しかし目の前の機械型モンスターはそうで無い。倫理観を持たないAIが合理性と現状維持、製造し続けなければならないという設定の元にどうにか作った機体である。
当然に形は歪だ。そして十分とは言えない。背中に生えた機関銃と大砲のせいでバランスがとりにくくなっている。加えて大砲は筒が歪んでいる。やはり製造途中にエラーがあったのだろう。
「…………」
考察もほどほどに、レイはすぐGATO-1を構え発砲する。その後、僅かに遅れて機械型モンスターが機関銃を発砲する。しかしレイが撃ち出した弾丸が着弾する方が早く、一発の弾丸が頭部を吹き飛ばす。残った二体が機関銃を撃ちだすが、H-44を前に負傷を与えることは叶わず、逆にGATO-1が撃ち出す弾丸の一発一発が致命傷になり得る。
レイは僅か三発の弾丸で機械型モンスターを仕留める。
呆気ない終わりだ。戦闘音に釣られて強力な機械型モンスターがやって来るのかと思えば、兵器のなり損ないだ。緊張しただけ、神経をすり減らしたのが馬鹿馬鹿しく思えるほど。
しかし僅かな違和感。
言いようのない不安感。中部でフィクサー、ジープから強化薬を強奪する依頼を受けた時もこのような気持ちだった。終わってみれば呆気ない。稀にある依頼だ。しかし何かの違和感を覚える。引っかかりがある。
不気味だ。しかし現状、レイはそう思えるだけ。なぜその感情を抱いたかの原因は分からない。この違和感に身を委ね、思考を重ねてもいい。しかしここは遺跡でありレイはテイカーだ。高価な遺物をバックパックに詰め、他の場所も探索しなければならない。
周りにモンスターがいないことを確認すると、レイが倉庫の中へと戻った。
◆
夕暮れ。赤く焼けた大地。クルメガを後ろにレイが帰路についていた。背負ったバックパックの中には大量に、空きが無いほど遺物が詰められている。朝早くから始めた遺跡探索、労力に見合った分の遺跡を持ち帰ることが出来た。
戦闘を行ったのは全部で四回。ドーム状の空間で機械型モンスターを相手に、二回目は電子機器類が保管されていた倉庫で、三回目は店から出た通路で、四回目は違う店で遺跡探索を行っていた際に背後から壁を突き部って襲ってきた人型の機械型モンスターを相手に、計四回。特に最後に戦った機械型モンスターは強かった。GATO-1を一発、命中させた程度では装甲を貫けず、拳はめり込むだけで一発で破壊することは叶わない。
ただその後、特に異常が起こることは無くレイは遺跡探索を終了させる。
H-44とGATO-1を装備した初めての遺跡探索は上手く行った方だ。四回の戦闘の中でH-44の性能とどこまで扱えるかが大まかに分かった。ただ緊張感のある死線にはまだ立っていないため、その際にH-44を扱えるかは分からない。だがひとまず遺跡探索を出来るだけにH-44を扱えたのは大きな収穫だった。今回の遺跡探索は成功だったと言えるだろう、たった一つの違和感を除いて。
レイの背後にあるクルメガが小さくなり始めた。とその時、電源をつけたばかりの通信端末が震えた。
レイが何かと思って画面を見る。
「……」
画面には関わりのある情報屋の名前が表示されていた。
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