第123話 電子端末

 タハタ駅跡に内設された小規模な商店街跡。場所が分かりにくい所かつモンスターも多い場所とあってあまりテイカーが来ない場所だ。ただ危険と分かりながらも、高価な遺物を求めてやって来るテイカーもいる。そしてレイもまたその一人だった。

 人形のような機械型モンスターとの戦闘を終えたレイは少し歩いて商店街跡まで来ていた。この場所については以前にも世話になった情報屋経由で知った。値段については特に高いということは無く、至って良心的で、金欠のレイでも払える金額であった。

 金を払ってでも得た商店街跡の情報。これを活かせるかはレイの実力と運次第だ。少なくとも、レイは自身でも運がある方だとは思っていないため根気強く探索を進めるしかないと思っている。幸い、今は予想外の状況に対して十分に対応できる。限度こそあるが、H-44とGATO-1があればよほどのモンスターでも無い限り大丈夫だ。

 倒せなくとも逃げればいい。装備の新調によってレイが生存する確率は上がった。しかし同時に探索する場所の難易度も大幅に引き上げた。危険は常に付きまとう。それに遺跡では予想外の事が起きるのは当然のこと、レイはH-44を使いこなしているわけではない。

 だがそれでもテイカーとしてハイリスクハイリターンを求めるべきだし、レイとしては常に戦い続けるべきだとも思っている。


「…………」


 レイが十分に警戒しながら店の一つに入る。看板には『オレンジ』と書かれていたが、何の店かは分からない。しかし通りから全容を確認する限り雑貨屋や家具屋と言ったものではないように見えた。

 そして目の前の店は商店街跡に立ち並ぶ他店と比べて綺麗だ。その綺麗さは偶々たまたまなのか、それとも自動修復機構などが関係しているのかは分からない。ただ少なくとも探索してみる価値はあった。


(……電子端末か)


 店の中を少しだけ歩き、そして商品を見てレイが何の店なのか把握する。

 店頭に並ぶのはレイの持っている通信端末やその他電子機器と似た見た目の商品だ。確信は無いが、恐らく電子機器のたぐいだろうと考察して、レイが店内を見渡す。

 電子端末は高く売れる。それでいて軽量且つ小型のため容量を圧迫することもない。そしてレイはバックパックを買い替えて、より頑丈且つ柔軟。軽量な品物に、バックパックの中に入れた物同士がぶつかって音が鳴ったとしても外に漏れないような消音措置も保護こされている物にした。そして必要時以外は圧縮して持ち運ぶこともできる。何よりも中に入れた遺物が破損しないよう、クッションが搭載されている。

 電子機器の類は戦闘によって破壊され、価値を損なったまま売りに出すことがほとんどだ。遺跡探索によって得られる遺物が量、質ともに向上すること見計らって買い替えたが、さっそくその効果が出た。

 レイがH-44の脇腹辺りにある装甲のロックを外す。すると装甲がずれて、中に圧縮されて入っていたバックパックが出てくる。基本的に簡易型強化服には物を入れる機能が無い。それは軽量化や構造的な問題から物を入れる隙間を作れないためだ。しかしH-44は強化服と似た構造、見た目であるため装甲の裏に幾つかの収納場所が確保されている。当然、入れすぎたり、硬い物を入れると動きにくくなるため袋に入った水や回復薬などを主に入れる。ただ圧縮されたバックパックは入れても特に邪魔にはならないため格納していた。

 そしてレイがバックパックについたボタンを押し込むと空気が注入され、圧縮される前の元の形へと戻っていく。バックパックが完全に元通りになると中を開け、入ったいた物に目を通す。バックパックの中には三つほど予備の弾倉が入っていた。レイは腰のあたりつけていた弾倉をすべて取り外し、バックパックの中に入れる。また圧縮するのは時間がかかるため、一度、解放してしまったのならばクルガオカ都市に戻るまでこのままだ。レイはバックパックの中に回復薬や水などを詰めていく。そこまでの量はないためバックパックを圧迫することは無い。

 そして準備が完了し、バックパックに電子機器を詰めて――は行けない。

 今見えている、店頭に並んでいる電子機器類はすべてサンプル。中には使える物があるかもしれないが、すべて確認するのは手間だ。加えて警備システムは停止しているようだが、まだ活きている部分があるかもしれない。サンプルの不用意な起動がシステムの起動に繋がり、いらぬ面倒ごとを引き起こす可能性がある。

 こういった電子機器の店で店頭に置かれている物はすべてサンプルであり、それは今の時代も旧時代も変わらない。在庫はすべて倉庫にある。サンプルを確認するのは倉庫を確認した後でも遅くはない。ただ、他のテイカーもレイと同様に店頭は荒らさず、倉庫だけを探索した可能性があるので、もしかしたらもう在庫は残っていないのかもしれない。

 ただ試してみる価値はある。

 店頭に並べられた電子機器たちを通り過ぎて、在庫があるであろう倉庫に向かって進む。カウンターの奥に扉がある。在庫があるというのはあくまでも憶測だ。期待はあまりしない方が良い。しかしそう思っていても目の前に高価な遺物があると無意識に期待してしまう。

 カウンターを乗り越え、奥の扉に手をかける。

 特にトラップが仕掛けれている様子は無い。モンスターの気配も無い。注意深く、慎重に扉を開いていく。扉は何事も無く開き、倉庫の中が見えるようになる。明かりが点いていないため暗い。だが視認が困難なほどではない。壁に入った亀裂から光が入ってきているためだ。その上、レイは夜目が利く。ある程度の暗闇ならば問題なく行動ができる。

 扉を開けた先には等間隔に置かれた棚と、そこに積まれた箱で埋め尽くされていた。見たところ、まだ他のテイカーは来ていないように思える。また幾つかの箱が地面に落ちて割れ、中の物が露出していた。

 レイが近づいて箱に入った亀裂を広げる。すると中からは通信端末が零れた。

 箱を置き、地面に転がった通信端末を拾い上げる。


(……バッテリー切れ……それとも壊れてるのか?)


 通信端末は起動しない。それが経年劣化によるものなのか、それともバッテリー切れという単純明快な理由なのかは分からない。ただもし壊れているのだとしたら価値は大きく下がる。

 レイは一旦、通信端末を亀裂の入った箱の上に置いて、別の箱に手を伸ばす。そしてH-44の力を利用して、箱をこじ開ける。中には緩衝材と何かの部品が詰まっていた。

 ということは、ここに置いてある箱全てが電子端末では無いということだ。

 もしすべてが電子端末であり、つ壊れていなかったのだとしたら、余裕で1憶スタテルの値が付く。だがさすがにそこまで上手くはいかない。そして先ほど零れ落ちた端末がまだ起動できる可能性は低いだろう。旧時代のバッテリーだ。使っておらず、電源を落としてる状態であれば何百年と持つだろう。だとしたら破損している可能性が高い。

 そしてレイが次の箱を開けてみる。そこには案の定、一部が破損した通信端末が入っていた。


(…………まあこんなもんか)


 この倉庫は機能に不備があった通信端末や、すでに分解された後に残った部品が保管されている場所だ。普通に考えれば、一つでもかなりの値段がする電子機器類の在庫をこれだけ抱えるのはリスクがある。旧時代の治安がどれほどだったかは分からないが、生物兵器のなれの果てであるモンスターが都市で暴れている時点で、知れている。

 それか今とは異なり、通信端末の類が大量生産でき、値段も安かったか。ただ旧時代の価値観や生活方式など今はどれだけ考えようが分からない。箱の中には部品や壊れた電子機器類が入っている。本来の想定よりも価値は下がるだろう。しかしそれでも十分な価値はある。

 ここにある遺物すべてを売り捌けば30万スタテルに届くだろう。

 ただ問題として一度にこの量を持ち運ぶのは不可能だ。何度か往復することになる。


(……欲しいな)


 バイク。欲を言えば車両が欲しい。

 車両さえあればここにある遺物すべてを積むことが出来た。しかし今はバックパックしか無い。遺跡探索では取捨選択が大事だ。何を持ち帰り、何を置いていくか。苦渋の選択の数々だ。だが車両さえあればその選択は限りなく無くなる。

 ただ車両は高い。中古の、安物になればレイでも買える。しかし荒野を移動する以上、荒野仕様の物にしなければ使い物にならない。GATO-1を買った、簡易型強化服を得た。次は車両かと、レイがそう考えながら倉庫の中を漁る。

 だがその時、背後からの気配を感じ振り向いた。

 何もいない。

 だが何かが来るはずだ。レイの勘はそう告げていた。

 レイはすぐに戦闘体勢を取る。GATO-1を持ち敵に備える。敵が来るまでそう時間はかからなかった。ただ、敵の姿を視界の中に収めるよりも早く、レイが攻撃を受ける方が先だった。


「――――ッッ!」


 次の瞬間、扉ごと突き破って破壊して、視界は赤く染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る