第120話 思わぬ幸運
三日後。
レイが硬いベットの上で目を覚ます。
「――っ」
鋭く、走るような痛みが起き上がろうとしたレイを襲う。昨日の遺跡探索で負った傷だ。GATO-1とH-44を買ったせいで金が無い。遺跡で怪我した時に回復薬の使用をケチった結果がこれだ。幸い、今日は休養日で体を休めることが出来る。
ただこれでも運が良かった方だ。もし昨日の怪我が悪化していたのならば、1000スタテルほどの回復薬をケチったばかりにその10倍近い治療費を取られるところだった。
レイは痛む体を動かして起き上がる。そしていつものように準備を始めた。
顔を洗い、支度を済ませ、NAK-416の整備状態を確認する。恐らく、NAK-416はもう使わない。使うとしても緊急時だけ。もう遺跡探索を共にすうことは出来ないだろう。
今日はGATO-1の受け取り日だ。GATO-1があるのならばNAK-416の出番は無くなる。持って言ってもNAK-416は無駄に大きく、邪魔になるだけ。そして特別な機能も搭載していない。安全性、耐久性、設備性に優れているただの突撃銃だ。特筆して突き出た機能は無く、性能はすべてにおいてGATO-1よりも下。遺跡に持っていく利点が無い。故にNAK-416はGATO-1が壊れた時の予備になる。現状、スタテルが全くと言っていいほど無いためNAK-416を売ってもいい。しかし使い慣れ、愛着も沸いている。そして何よりも高く売れない。ならばもしもの時のために持っておいた方がいいだろう。
レイがベットに座りながらNAK-416の状態を確認する。基本的に昨日がNAK-416を使う最後の日だ。撃って、壊れかけて修理して、また撃って、撃ち続けた。たかが武器ではあるが感謝している。
昨日の遺跡探索では最後に最大限にその力を利用したいがために多くの弾倉を使用し、機械型モンスターを殲滅した。そのおかげでいつもよりも整備状態が悪い。何かの破片のような物が詰まっているし、部品が緩んでいるところもある。撃ちすぎか経年劣化か、これまでの酷使を考えれば当然、ここまでに損傷するのは普通のことだった。
今までは何とか修理しながら扱ってきたがガタが来ている。通常、物にもよるがNAK-416と同じくらいの価格帯の武器ならば三か月持てばいい方だ。一日に何度もあるモンスターとの戦闘の際には何千発と弾丸を使用するし、地面落下したりして破損することもある。
加えて使用していたのはレイだ。いつもの無茶な戦い方を鑑みればよく一カ月持ったと、逆にそう思えるぐらいには予想以上の働きをしてくれた。これからは変わりにGATO-1を使う。次の主力装備だ。
レイが準備を終えると、GATO-1を受け取るためにアンドラフォックへと向かった。
◆
レイがアンドラフォックの店前に着いた。GATO-1が楽しみなのか、踏み出す足はいつもよりも早く、移動時間は予想よりも短かった。
レイが店内に入るとすぐにジグを目が合った。他に客はおらず、カウンターで何やら機械を弄っているジグしかない。特に店内を見て回る理由もないので、レイは一直線にジグに向かって歩いていく。
するとジグが先にレイに声をかけた。
「生きてたな」
「どういう意味だ」
「いやな、テイカーが高額の品物を注文してから届くまでの1週間、気持ちが浮かれてるのか知らねえが、その期間は死亡率が上がる。まあ都市伝説みたいなものだ。何せ根拠は俺の経験測。まあ生きていてよかったぜ」
これは一種の言い伝えや噂だ。簡易型強化服や強化服など高額な装備を買ってから、実際に手元に渡るまでには一週間から、長くて一カ月ほどの時間がかかる。テイカーがもともとに死亡率が高いのもあるが、その注文品が届くまでの期間というのは特に死亡率が上がる。原因は分からない。ジグが言っていたように単に浮かれていただけかもしれない。
だがこの都市伝説な話を聞いて自分はそうならないよう、より一層気を引き締めて遺跡探索に臨むテイカーもいる。しかしそう言った者も例外なく、予想外の事態に直面して死ぬ――――ということがこの期間には多い。故にテイカーの中には遺跡に出て行かず、都市で休養を取る者もいる。ただ中には都市にいたとしても事件に巻き込まれ肉片になった者もいる。ここまで来るとオカルトだ。何ら関係の無い事柄を繋げ合わせて怖がっているに過ぎない。
だが噂話というのはそうやって広まる。そして注文してから品物が届くまでの期間、異常なまでに死亡率が高いのもまた事実だ。
レイがこのオカルト話を立証する証人になり得てしまうことを危惧していたが、どうやら何事も無く無事らしい。
そしてジグは当然、レイがアンドラフォックに来た理由は分かっている。
「GATO-1だな。届いてるぜ。今持ってくる」
レイに言われるよりも先に、ジグが倉庫裏へと消えて行く。そしてそう時間はかからず。ジグが光沢の光る黒色のケースを持って現れる。
「見るか?」
ケースをカウンターの上に置き訊いて来る。当然に返答は決まっていた。
「ああ頼む」
「よし」
ケースに付けられた誰でも開けられる簡単なロックを外し、ケースを開く。するとケース内部の
圧倒される。それほどまでに完璧な造形だ。無駄を極限まで省き、必要な機能を必要なだけ詰め込んだそんな性能と造形。思わず目を奪われる。
「まあ使いたくはあるだろうが、ここは射撃場を完備してねえからな。明日の遺跡探索にで使ってくれ。それと俺が確認した限りで不備は見つからなかった。ただ一応、お前も確認しておけ。もし不備があったら三日以内に持ってこい。じゃないとこっちからの配送が間に合わない」
ジグが注意事項を述べるとケースを閉じた。面倒な手続きは支払いの際に済ませているため、今すぐにでも受け取ることが出来る。
「分かった。ありがとう」
レイが礼を言ってケースに手を伸ばす。するとその時にジグが口を開いた。
「まあ待て。あと一つプレゼントがある」
「プレ……は?」
ジグの言っていることの意味が分からず、頭上に疑問符を浮かべる。そんなレイをお構い無しに、ジグが倉庫裏へと消えると一つの箱を持って現れる。倉庫裏に姿を消してから戻って来るまでの速さを鑑みるに、もともとレイに見せるために用意してあったのだろう。
「なんだそれ」
「見たらわかる」
箱にはロックがかかっている。ただGATO-1が入っていた箱のロックとは違い、電子ロックがついている。ジグは番号を打ち込み、三つあるロックを下から順番に外していく。
そして最後のロックを外すと、箱の上部が自動で開き、中が露になる。ジグはレイが見やすいよう、箱の中身を取り出してレイに見せた。
「……それは」
ジグが取り出した物はレイが良く知っている物だった。ただ何故、ジグが持っているのかが理解できず口を閉じた。そしてそんなレイの代わりにジグが説明を始める。
「そうだ。まあ気づいてると思うが。これがH-44だ」
ジグの手は確かにH-44を持っている。簡易が強化服を選ぶ際に何度も見たから絶対にH-44だ。そしてジグもそう言っている。だが確か、H-44が届くのは注文日から7日後。なぜ今、ジグの手元にあるのか。
「なんで持ってるんだって目だな。まあ言いたいことは分かる。俺は事前に注文日から7日後に到着予定、もしかしたら遅れる可能性がある。って言ったな。事実、途中まではその予定で進んでたんだが、今日の朝に予定が変わってな。
ジグはH-44を一旦、箱にしまってまた話を続ける。
「どうする。置き場所が無いんだったら本来の期限である7日後までここで保管しておく。いつでも取り出しに来い。元々予定よりも早く出来上がっちまったんだ。準備も出来てないのにこんなもの渡されても困るだろ。それとも今、ここで受け取るか?だとしたらここで基本的な動作設定を教えるが。どっちがいい」
レイとしては今ここで受け取っても何ら問題がない。というより、簡易型強化服が合った方が遺跡探索で死ぬ可能性が低くなる。明日も明後日も遺跡探索をするのだ。そこに簡易型強化服はあった方がいい。加えて、H-44に慣れるための時間を確保すうることもできる。簡易型強化服や強化薬などで発生する『酔い』。レイは今まででほぼなったことが無いが、H-44はその特殊な性質も相まって『酔い』が発症するかもしれない。H-44に慣れていない状態での遺跡探索はあまりにも危険だ。そのために相応の準備期間が必要になる。
そして今回は予定の日にちよりも早く届いたことで準備期間に時間を費やすことが出来る。
家での保管は防犯面で少し不安が残る。ただ移動する際はH-44を着ていれば一度も手を離すことはない。レイにとってみれば、ジグの提案は簡単に飲めるものだった。
「いち早く使いたい。受け取ることにするよ」
「よおし分かった。じゃあ一応、説明書もあるが俺からも説明をしておいた方が良い。起動やその他諸々の設定については着ながら試してもらう。ただ出力を間違って店を壊すなよ。当然、弁償だ」
「分かってる」
レイが簡易型強化服を使うのは一度や二度では無い。中部にいた時に何度か使用している。H-44がその時と同じようにうまくいくかは分からないが、レイの実力次第だろう。
レイはジグから受け取ったH-44の全体像確認すると、設定を確認しながら装着を始めた。
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