第119話 決断の証左

 ジグが装備の最終確認へと移る。

 まずはGATO-1についてだ。値段は32万スタテル。弾倉は無料で二つ。それ以上は自腹での購入。修理に関する保証は無し。ただ万が一、最初から不備があった場合のみバルドラ社の規定に基づいて無料での交換が行われる。

 ジグは次に注意点を述べていく。


「Gシリーズはバルドラ社の直営店じゃないと在庫が無い。だから取り寄せる形になる。大体3日はかかるな、それでもいいか」


 三日、すぐに使いたかったが、仕方がない。Gシリーズはバルドラ社の主力商品だ。ジグのような一武器屋には置けないのだろう。置くとしてもジグが言っていたようにバルドラ社が運営している直轄の武器屋や提携している武器屋など。

 また、武器屋によっては取り寄せすらできないようだが、アンドラフォックは違うようだ。

 ただ三日という日数には厳しいものがある。というのもH-44とGATO-1を合わせた金は104万4800スタテルだ。予算が90万であったことを考えると、14万4800スタテル超過している。その約14万スタテルは『使ってはいけない金』を切り崩して補填することになる。それは生活費であったり、装備の修理代、整備代などを合わせた金額だ。ここから何を削り、何を残すか。難問だ。しかし14万スタテルぐらいならいならば、GATO-1が来るまでの3日で稼げる。運によっても大きく左右されるが、最低でも今のレイは10万スタテルぐらいは稼げる。ただそれでも厳しいことには変わりない。少しの間、最低限の生活を享受することになりそうだ。


「大丈夫です」

「よし。じゃあGATO-1についてはこれで以上だ。次は問題のH-44に関してだな」


 ジグがH-44に関しての基本的なことを話し始める。

 値段は72万4800スタテル。不備があった場合は無料での交換、修理を行う。整備は桧山製物に直接依頼するか、取り扱いができる武器屋で有料で可能。

 GATO-1と同様に、次に注意点を述べていく。


「簡易型強化服もGATO-1と同様に注文する形になる。通常は5日。だがH-44こいつはあんまし注文が無い商品だからな、7日はかかると思って貰っていい。ただ桧山製物から連絡が来るだろうから、二日前には到着日時を連絡しておく。それでいいか」

「はい」

「よし、じゃあ次は採寸だな」


 ジグがスキャナを取り出すと、レイにかざす。だがすぐにスキャナを下げた。


「確かその防護服、妨害装置が埋め込まれただろ。脱いでくれ、じゃないとこいつで測定できない」


 レイの着ている防護服には探査レーダーでの感知などを妨害する機能が埋め込まれており、スキャナによる測定が妨害されていた。

 レイは言われたように防護服を脱ぐ。防護服の下は薄く、体に密着する服を着ており、体のラインが分かりやすく浮き彫りになる。それと同時に、裂傷や弾痕といった跡もあらわになる。

 かなりの死闘を演じてきなのだと一目で分かる様相だ。テイカーになってから一カ月とはとても思えない。だがジグはそれを見て驚きはなしない。不釣り合いなほどに高い戦闘技術、それを補うだけの過去があると分かっていたからだ。

 気にはなる。しかしただの一武器屋の店長であるジグが訊くのは無粋だ。

 レイの身体に軽く視線を送りながらスキャナで測定していく。しかしながらどうも、スキャナの調子が悪いのか解析に時間がかかっている。いつもならば20秒ほどで体の半分をスキャンできる。しかし30秒が経とうとしているのに、まだ半分も終わっていない。

 

「動くなよ、数値に誤差が出るぞ」

「動いてない」

「だよな」


 なぜこんなにも解析が遅いのか。単純にスキャナの不調、という事もありえるが他の客には問題なく使えた。だとすると他の原因がある。


「レイ、他に通信やスキャンを妨害する装置を持ってたりはしないよな」

「あ?……ああ。ないはずだ」

「いったん、上の服を脱いでくれ」

「え……ここでか?」


 もしかしたら防護服だけでなく服にも妨害装置が埋め込まれているかもしれない。ただ、ここで上半身裸になったのだとしたら、もし客が来た時に面倒なことになるかもしれない。レイはそのことについてジグに指摘したが、特に結果は変わらなかった。


「別にいいだろ。見られても気にするようなことか?」

「いやまあ……別にいいが」


 見られても特に気にしたりはしない。しかし店長としてそれでいいのかと問いたくもなった。ただこれ以上言っても面倒なことになるだけなので、レイが上着を脱いだ。

 それまでは上着で隠されていたが、腕や首よりも傷が酷い。特に右の脇腹、抉り取られた後に無理矢理修復したような跡が残っている。その再生跡には細長い何か、ケーブルのような何かが這ったような痕跡が残っていた。通常では絶対に見れない傷跡だ。

 回復薬を無理矢理使った時にできる、溶接したような跡とも違う。当然に自然治癒でもない。治療を受けたのならば跡はそこまで残らない。だとしたらあの傷跡は、何で出来た。そしてどんな風に直したのか。 

 

「…………」


 加えて、良く見てみるとそんな不自然な傷跡が幾つも残っていた。大小さまざまで、腹から背中にかけて走る裂傷や焼かれたような跡。拷問でも受けた跡のようだった。

 その異様な光景に目を取られていたジグがふと我に返る。そしてもう終わっただろうとスキャナに視線を送った。しかしまだ73%しか終わっていない。妨害装置が埋め込まれている可能性はすべて排除した。だとしたら他に理由があるのか、先ほどまで使えていたスキャナがたった今、壊れたのか。

 

「終わったか?」


 ジグと同じく、そろそろ終わっただろうとレイが問いかける。するとジグは頭を傾げたままスキャナをカウンターの上に置いた。


「いや、壊れてんのか上手く読み取れねえな。もう少し待っててくれ。あ、動くなよ」

「分かってる」


 ジグがスキャナをカウンターの上で固定する。そしてジグは別のことをする。


「レイ。これが終わったらオフィスカードを出せ。あと念のため顔写真を取る」

「なんでだ?」


 テイカーとしての情報が欲しいのならばすでに渡している。NAK-416や弾丸を買う際にテイカー証を利用しており、機械に登録されているはずだ。今更、出す必要は無いように感じる。

 実際に”普通の買い物”をする分には必要ない。ただH-44は特殊な商品だ。個人確認をしっかりと行わなければならない。


「H-44は値段に対してパーツが高価だからな、バラして売られたりってことが良く起こる。そんなことされたら企業としては堪ったもんじゃない。だからそういうことが起きないよう相手の個人情報を取得しておくんだよ。もしそういうことがあったのならば、取得した個人情報を元にテイカーフロントに言ってペナルティを課してもらったり、他の製造会社や武器屋にブラックリストとして流す。当然、強化服とかの注文して買う物は買いづらくなるな。それにH-44を取り扱える店は認められたところだけだ。お前がそんなことするわけねえと思うが、こっちがちゃんとしねぇと桧山製物の商品が取り扱えなくなる。だからこういったことは大事だ」


 H-44は値段以上の性能がある。つまりは高性能な部品を使用している。分解して部品だけを売れば相応の利益が得られるほどに高品質な物だ。だが製造会社としてそれは許せない。当然に対策を講じる。

 加えて、アンドラフォックのように認められた店だけでしかH-44を取り扱うことが出来ない。

 ジグの説明を聞いたレイが率直な感想を呟く。


「ここってすごかったのか」


 駆け出しから中堅を主な客層にしているアンドラフォック。ここよりも品ぞろえが良く、立地も良く、サービスも良い店はいくらでもある。レイはアンドラフォックに対して使いやすく、信頼できる良い店だと思っていた。しかし桧山製物に認められるほどだとは思っておらず、予想外の驚きに言葉を漏らしてしまった。


「失礼な奴だな、ったく」


 ジグが当然の反応をする。そしてその時にちょうどスキャンが終わった。

 そして後は支払いを終え、商品が届くのを待つだけだ。


(楽しみだな)


 GATO-1とH-44でさらに遺跡探索を進められる。さらに熾烈極める場所に行くことができる。それが楽しみだと、レイが内心で笑った。

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