第109話 落下死

 荷台に置いてある外骨格アーマ―の固定器具を外しているとレイがハカマダを呼び、そしてその直後、何かを話し合ったかと思えばハカマダが大声で言った。


「今すぐ乗り込め!」


 ハカマダの言葉にまずはアンテラが反応し、訓練生をすぐ乗るように促す。その際、ハルシャの死体を持つマルコが良くない未来を想像して固まった。しかしそんなことに構っている理由はないと、アンテラがマルコに「死体を抱えたままでいい、乗れ」と怒号を飛ばしたため、マルコはすぐに乗り込んだ。死体を抱えたまま。

 次にハカマダが運転席に乗り込むとアクセルを踏み込んだ。すでに、少し離れた場所で砂塵が舞っている。すぐに追いつかれるのは目に見えている。そしてモンスターを引き連れたままでは二次被害を生む可能性があるため都市には戻れない。モンスターを撒くか、殲滅するか。前者は不可能だ。だとしたらすべてを殲滅するしかない。その遅れで負傷者の容態が変化する可能性は十分にあり得る。

 だがやらなければならないだろう。それしか方法が無いのならば、全力で敵を殲滅することにだけ注力すればいい。

 荷台の最後尾でレイが狙撃銃を構え、近づいて来る機械型モンスターに向けて発砲する。

 救出依頼が始まって何回も見て来た機械型モンスターだ。どの辺が急所だとかのことは大体分かっている。GARA-1は一発で敵を破壊しきることが出来るのも分かっている。

 そして短い間ではあったがサラとは共に敵を処理してきた。どこを狙うか、いつ狙うか、そのぐらいのことは分かっている。そのため二人の射撃には隙が無い。いつものように、背中に取り付けられた機関銃を撃たせることは無く、またほぼ近づかせないで処理している。

 また、そこにアンテラも加わっている。アンテラの実力はレイも確認済みだ。アンテラがいれば殲滅能力は各段に上がる。連携をしたわけでもないし、何かの取り決めをしたわけでもないのだが、サラ、レイ、アンテラは慣れた様子で敵を処理していく。

 だがそれでも数は多いのでかなり時間がかかりそうだ。重体の者はもしかしたら死ぬかもしれない。タイタンの訓練生に補給される回復薬はどれも高価だ。駆け出しのテイカーでは絶対に買えないものであり、中堅のテイカーでも中々手が伸びないものだ。

 そしてそれほどに高価な物が訓練生に配られるのは相応の期待を寄せられているから――ではない。訓練生の商品価値を評価しているためだ。訓練生は己の一存でタイタンから脱退することは出来ない。そしてある程度の権利も縛られている。クルガオカ都市から出てはいけないし、命令は絶対だ。新米から一流のテイカーに育てるのにかかった費用分、最低限でも回収しなければいけない。損傷が酷く無ければ死体の臓器だって売る。当然、与えた武器は回収する。

 また、育てたテイカーは優秀な戦力として他組織に貸し出すということもある。そういった商品価値。当然のように、慈善活動などではない。もう助からないものに高価な回復薬は使わない。商品価値が無くなったものと同義だからだ。

 

「アンテラさん。僕もやります」


 アンテラの隣から、突撃銃を持ったマルコが姿を現す。仲間を殺されたかたき、あるいは憂さ晴らし。いずれにしても、その申し出は邪魔なものだった。


「勝手なことするな! 何もしないで後ろにいろ」


 荷台は狭く、訓練生に無駄に動かれたら邪魔になる。それに射撃したところで有効打を与えられる可能性は低い。装備が優秀であったとしても本人の技術が置いてついていなければ意味がない。

 今、いくら撃とうが目障りなだけだ。

 アンテラは前に出ようとするマルコを声で制止した。アンテラの言葉はマルコの反感を買うものではあったが、あくまでも感情面での話。アンテラの言いたいこととをマルコは分かってもいた。感情に流されて言ったことは確かだ。そしてアンテラの言葉が至極当然のことであると理解している。だからこそ、不満はありつつもマルコはすぐに下がった。

 しかしアンテラがマルコを注意した時に出来た意識が逸れた僅か一秒にも満たない時間。本来、アンテラが処理すべきであった敵機に攻撃を許してしまった。機関銃が放たれたわけではない。機械型モンスターの胸部に搭載されていた、捕縛用の鎖が射出されただけだ。

 しかし本来、アンテラが処理するはずの敵であったためレイはその姿を注意して確認しておらず、飛んできた鎖に対して反応が僅かに遅れた。咄嗟に身を退いて、鎖から逃れる。しかし僅かに左腕を鎖が掠めた。次の瞬間に鎖が意思を持ったかのようにレイの左腕に巻き付き、肉を突き刺す。

 このままでは荷台から引きずり落される。だが腕を切り落とすのも間に合わない。鎖も旧時代製。時間かければ破壊できるだろうが、狙撃銃で鎖を撃てる時間は残されていない。 

 レイの体が後方には引っ張られる。

 左腕を前に、レイは体を半身にさせながら叫んだ。誰にというわけでもない、ただ誰かに伝えられればいい。


外骨格アーマーそれを!」


 体が荷台から落ち切るところで言い切る。直後、レイの体は荒野へと落下する。だが引きずられるようなことは無かった。サラが咄嗟の反応で鎖を撃ち抜き、破壊していたためだ。

 そしてレイの言葉を聞いたサラが荷台に乗る訓練生を退けながら外骨格アーマーまで近づく。もともと、機械型モンスターが来る前まで外骨格アーマーは荒野に捨てられる予定だったためすでに固定器具の半分が外れていた。そのためサラは外骨格アーマーの固定器具を突撃銃で撃ち抜き、すぐに外すことが出来た。

 荷台に固定されなくなった外骨格アーマーはサラが車外へと蹴とばしたことや、その状況に気が付いていたハカマダがさらに速度を上げたことで慣性の法則に従って、荒野へと投げ出される。

 外骨格アーマーは先に投げ出され、地面を転がるレイと同じく跳ねながら、傷をつけながら荒野に落下する。砂塵を巻き上げながらも段々と速度を落としていき、最後はレイが足で受け止めた。すぐにハッチを開けて中に乗り込む、その際、レイは背後から来る機械型モンスターの群れに一瞬だけ視線を向ける。サラ、アンテラが外骨格アーマーにレイが乗るまでの時間を稼いでくれたのか、鎖を飛ばしてきた機械型モンスターや近くにいた機械型モンスターが倒されている。

 だが次から次へと現れ、高速で接近してくる。


(確かにな)

 

 ハカマダが言っていたように普通の外骨格アーマーではない。色々と配置や機能が変わっている。レイが初めて扱うものだ。従来ようには行かないだろう。


「来いよ」


 迫りくる多数の機械型モンスターに、レイは正面から向き合った。

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