第104話 勝負

 レイとサラが昼食を食べ終わった少ししたら午後の巡回依頼が始まった。指定された車両に、二人が乗り込んでいく。続くように何人かのテイカーが入って行った。今回も同じようにレイとサラで獲物を取り合わないために二人で逆の方向を向いて座る。

 レイが定位置に着くと、フード越しに周りを見渡す。

 午前と午後で特に人が変わった様子は無い。皆が様々な武装をしている。安価な突撃銃であったり、改造を施した愛銃を持っていたり。防護服を着ている者からただの布切れを着ている者まで様々だ。ただ皆がランク『1』以上。つまりは遺物を収める、という条件を達成した者達だ。最低限の装備は整っているように見える。

 レイが周りの様子を確認していると横から声をかけられた。


「お前。午前の依頼でかなり稼いでたじゃねぇか。どうだ、ここはひとつ――」

「誰だ」

「ああすまん。ハカマダってテイカー名だ。午前の依頼ではお前と逆方向に銃口を向けてたから知らないのも無理はない」


 狙撃銃を持った男――ハカマダは愛銃であるGARA-1という狙撃銃をレイに見せつけながら、話しを続けた。


「ここはいっちょ勝負してみねぇか」

「……何のだ」

「どちらがより多く討伐数を稼げるかだ」


 テイカーは基本的に血の気がある。勝ち負けを気にするし、優劣にこだわる者も多い。目の前にいるハカマダも例に漏れず、レイに対抗心を燃やしていた。だがレイはそこまで血の気がある方ではない。少なくとも、自身に害の無い人物に対しては寛容だ。


「そんなことする必要ないだろ。無理に得物を取り合う必要なんかない。互いに報酬が減るだけだぞ」


 しかしハカマダは気にせずに言う。


「はっは!まあいいじゃねぇか。もし断るっつうんなら、この場所から移動して端っこの方でやってくれ」


 つまりは負けるのが怖いんだったら場所を移してくれ、そうハカマダは言っている。レイにその気が無くとも移動すれば勝手に負けたことになり、ここにいたとしてもハカマダが勝手に得物を横取りにして勝負が始まるだろう。

 こうなるとレイも対抗心のようなものが湧き上がってくる。


「いいぜ。分かった。ただ数えるのが面倒だ。午後の報酬、それで勝負しよう」

「ああいいぜ。やっぱ相手が乗り気になってくれると嬉しいな。楽しもうぜ?」

「お前が楽しめるかは分からないがな」

「はっ!よく言うぜ」


 ハカマダが威勢よく答える。そしてそれから僅かに時間が経って、車両は動き出した。


 ◆


 午後の巡回依頼が始まった。レオ達は午前中と同じように何もない荒野を走る。砂塵が巻き上がり視界は悪いが、荷台に乗った傭兵達は近づいて来るモンスターに向かって射撃を開始する。

 レイも午前中と同じ場所から射撃を開始する。目標は走ってくる四足歩行のモンスターだ。ある程度の知能があるのか、銃弾を避けようとジグザグに動きながら距離を詰める。だが、レイは慌てずに対処する。的が大きい胴体を狙い、命中させる。すると弾丸の着弾によってモンスターが少しひるむ。その一瞬の硬直でレイが頭部を撃ち抜いた。

 一体を仕留めたらまた次の獲物へと目標を移す。レイは先と同じように胴体を撃ち抜く。弾丸は命中しモンスターがひるんだ。次は頭部を撃ち抜くだけだ。レイ尾は落ち着いて引き金を引く。すると弾丸が撃ち出され、モンスターの頭部に命中する――はずだったが、横にいたハカマダに獲物えものを横取りされた。


「はっは!すまんな」


 歯を見せて自身ありげに笑うハカマダ。

 レイが持つNAC-416とハカマダが持つGARA-1とでは性能に大きな差がある。巡回依頼に求められるのは殲滅能力と射程距離、威力だ。GARA-1は射程距離と威力でNAC-416に大きくまさっている。殲滅能力でも、連射速度こそ低いものの火力面で大きな差があることから、NAC-416にアドバンテージはほぼ存在しない。 

 レイは午前の任務で他のテイカーが取るはずだった得物を何十体と討伐している。荒野は実力主義だ。今度は自分が逆に獲物を横取りされる側に回ってしまったということだ。そして獲物を横取りされてしまうのも元を辿たどれば自分の実力不足であることに変わりはない。中部も西部も荒野での生き方は変わらない。実力で自分の存在をその意義を示すだけだ。

 装備の性能面では負けている。だが基礎的な技術はレイが優っていた。

 レイはハカマダに返答はせず、午前中と同じように効果的な射撃を繰り返す。


「おいおい。少し弾が乱れてるんじゃねぇか?」


 レイは無視しているが、それでもハカマダは執拗しつようあおってくる。別にレイは怒られたからって黙る人物でも、侮辱されたからって大人に対応をする人物でもない。元々はスラムで生まれ、死ぬ気で努力し、実際に死にかけて傭兵として成功した。その過程の中である程度の礼節を知って、身に付けただけ。殴られたら殴り返すし、撃たれたら相手を殺す。そのぐらいの常識は持っていた。

 レイはハカマダが狙っていた獲物に照準を合わせ――得物を横取りする。すると隣から恨めしそうな声が漏れた。


「――こいつ」


 続けて獲物も横取りする。やられたらやり返すだけだ。荒野では自分本位で生きてもいい。すべてが自己責任なのだから。そしてそもそも、ハカマダとは勝負している、負けるわけにはいかない。。

 レイは次々にハカマダが殺そうとしていたモンスターを横取りしていく。その射撃は煽られる前よりも正確だ。持ち前の反骨心と苛立ちが合わさって、レイの集中力が研ぎ澄まされた結果だ。前ならば胴体を撃ち抜いて弱らせてから頭部を撃ち抜いていた。しかし今は揺れ動く頭部を最初から、一発も外すことなく命中させている。


「――っこいつマジで」


 ハカマダが照準器から目を離してレイの方を見る。そのまま怒りに任せて体を動かしてしまいそうな様子だったがしかし、ハカマダは逆に笑った。


「いいじゃねぇか。そうこねぇとこっちも張り合いがねぇな」


 そしてさらに気合を入れてハカマダが照準器を覗き込む。そしてレイの獲物は横取りはせずに、一体のモンスターを処理する。その後もレイの獲物は横取りせず、結果的に同一の目標を狙ってしまうことはあるが、意図的に狙うことはしないで自分の得物だけを効率よく仕留めていく。

 レイの獲物を横取りしていたのは、相手の実力を図るため。またこの勝負。負けても特に罰金などが無い。賭けているのはプライドや自信といったものだ。それらを賭けるためには互いに本気にならなければならない。そしてレイは最初、やる気こそあったものの全力で集中している訳では無かった。

 ハカマダはレイが本気で勝負してくれるよう煽っていたのだ。 

 レイもそのことに気が付きながらも乗った。そして二人は獲物を取り合うことはせずに自分が狙うモンスターだけを狙う。二人の近くにいたテイカーは、もはやモンスターの一体すら討伐することが出来ない。それほどの速度で二人はモンスターを処理する。

 レイは段々と集中を高めて行き、その練度は増していく。機械型モンスターであろうと、脚部の関節部分に一発の弾丸を命中させ、動きを鈍らせてから動力部を破壊する。硬い装甲に守られていたとしたらレイに対処は不可能だが、殺しきれる機械型モンスターも多い。

 動き、揺れる荷台でレイはその射撃技術を遺憾なく発揮して討伐数を稼いでいく。だがハカマダはそんな小細工がいらずとも一発の弾丸で装甲も動力部も破壊する。ただそれでも二人の討伐数は並んでいる。

 このモンスターの波はもうすぐで終わる。それまでの勝負だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る