第71話 失楽園
眩しい。瞼を貫通して。けたたましいほどの光が眼球に差し込む。体は重い、瞼もそうだ。だが起きなければいけない気がして、レイは起き上がった。
「………」
荒野に大の字で寝たまま漠然と空を見上げる。
そして両手で顔を覆った。
「――くそ…ぉ……あああぁ」
ニコもロベリアも何もかも失った。守れなかった。すべてを掴み取るにはあまりにも、小さな手だった。足りない。何もかもが。一つたりとも。
「あああぁぁ。最悪だ。俺は」
友をこの手で殺して一体なにが残った。何も救えなかった。残ったものと言えばニコを自分の手で殺めたという功罪とロベリアを救えなかったという悔恨。何もなしえなかったのに、何かをした気でいた。
「くそ。くそ。クソクソクソ!」
地面を何度も叩く。どこまでも広く続く荒野に拳を叩きつけても、地面が揺れるわけでも凹むわけでもない。何も起こらない。逆に自分の拳がちっぽけなものなのだと再認識させられる。
レイは虚しくなって、そして上半身を起こした。
際限なく広がる荒野にレイがただ一人。虚しさがさらにこみ上げてくる。
「ここは」
周りを見渡す。すると背後に一つの看板が立てられていた。また、その下には一つのバックパックが置いてある。
「………なんだよこれ」
レイが看板に近づいて彫られてあった文字を見る。
「……『ここは西部。西に向かえ、都市がある』…だ?」
レイは状況を完全に理解しきる前にバックパックの中を探る。
水、携帯食料。金、銃、身分証などが入っていた。その瞬間にレイは己が置かれた状況を理解する。
「…亡霊か」
もし依頼が達成されたのならばレイを中部から西部へと、経済線を越えて移動させると。そういった約束をしていた。今、それが遂行されたのだ。
レイが振り向いて、東の方向を見る。
一面、地平線の先まで平坦な荒野が続いていた。経済線は見えない。少なくとも一日二日で歩いて行ける距離じゃない。じゃあ、もう中部には戻れない、ということ。たとえ経済線についたところで中部に戻るのは容易じゃない。
「ああ……」
瞼が痙攣する。唇が震える。手に力が入らない。
「く……そが」
荒野を眺めるが、赤く充血した眼には何も映らない。
「…………っ」
レイは荒野に落ちていた岩石の破片を衝動的に持ち首元に近づける。首の肉と破片の尖った部分が接触するが、先に悲鳴を上げたのは岩石の方だった。岩石が割れて、手からすべり落ちて地面へと落ちる。
そしてレイは怒りを込めて破片となった岩石に拳を叩きつけた。そして立ち上がると共に地面を強く踏みつける。
「…死ねない。死ねないんだ。俺はまだ」
レイがバックパックを拾い上げると歩き出した。西に向かって。
第一章 『失楽園』――終
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