第44話 ちょっとしたトラブル
「はぁ………?」
荒野に停められた車両。そのフロント部分に寄りかかりながら誰かと通話するロベリアが突然、悪態をついた。
「いや、まあそっちにも事情があるのは………は?それは分かってるから。大体、こんな直前でそれ言い出すとか、人の都合とか考えたことある?」
声を荒げている訳ではないが、淡々と威圧的に通話相手に対して毒を吐く。いつものは悠々自適で、どこから上から目線で、余裕のある様子だったが、今のロベリアにそれらの雰囲気は感じない。
(トラブルか………)
荷台で荷物に寄りかかりながら狙撃銃を抱いて座っていたレイは、周りを見渡しながらその声に耳を傾けていた。
思い返せば、あの通話が始まってから軽く20分は経とうとしている。最初、ロベリアは車を走らせたまま通話に出て応答していた。しかしある時点から声色が変わり始め、こうして車と止めて通話に集中する事態にまでなった。
かれこれ、レイもその通話を断片的にだが聞いていたが、一体なんの話をしているのか皆目見当もつかなかった。ロベリアが何をして稼いでいるのかなんて知らないし、通話相手のことも当然知らなかった。なぜ懸賞金をかけられているのかも同様に、それについて訊く必要も訊ける立場でもなかったためレイは知り得ない。
「謝罪なら聞かないぞ、お前の責任だ。行動で示すんだな」
ロベリアはいつもなら発さないような強い命令口調で威圧する。しかし通話相手はそれに動じていないのか、ロベリアの段々と表情を歪めていく。そしてそれが限界まで達す――という時に、ロベリアは頭を振って息を吐いて、溜飲を下げた。
「まあしょうがない。さっさと場所を移せ」
不発弾のような、いつ爆発するか分からない緊張感を発しながら、ロベリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「………ああ、予定は」
そしてフロント部分に寄りかかっていた体を起こし、最後に疲れたように口を開いた。
「分かった。そこで落ち合おう」
それを最後に、ロベリアは通信を切って疲れたように頭を振りながら荷台の方まで移動する。そしてあおりに前のめりに持たれかかってレイに声をかけた。
「すまない、予定変更だ」
「………」
大体、予想はついていた。断片的に、そしてロベリアの目的も知らなかったがあの通話が何らかのトラブルを伝えていたのは明らかだったためだ。そしてロベリアがあれほどまでに感情を出す、ということは今後の予定に異常が生じたか、それとももっとも個人的なことでトラブルがあったかのどちらかだ。
「どう変わるんだ」
レイは驚くことなく、淡々と答える。そしてロベリアはため息交じりに謝罪を述べた。
「まず、先に謝っておく。本当にすまない」
「………」
「少し先の都市に行くことになった」
だとすると。
通話の内容を推測すると。
今日、着く予定だった目的地、人に何らかの異常が生じてそこには行けなくなった。だから別の場所で落ち合おう、ということなのだろう。
「方向は」
これで西側に行くようならば、『経済線』から離れるため今後のことについて考えなければならない。
「変わらず東側だ」
「分かった」
レイは表情は変えず、内心で安堵する。
「着いて来てくれるか」
「今ここで降ろされたら俺が死ぬ」
「っはっは。それもそうだ」
「依頼金はそのままで十分だ」
「分かった。じゃあまたよろしく」
するとロベリアは運転席へと戻り、座ると荷台の方に振り向いた。
「今日はお詫びに私が上手い物を作ってやろう。楽しみに待っていてくれ」
「分かった」
レイが答えると、ロベリアは満足気な表情をしてアクセルを踏み込んだ。
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