第一章――失楽園
第36話 傾斜に楔を
都市ロザリアの、主に中流階層が住まう場所で営業している武器屋ヘッケンカトラー。まだ朝早い時間ということもあって店内に客の姿は見えない。いるのはスキンヘッドと黒いサングラス、筋肉質で大柄な体格が特徴的なブロックと呼ばれているヘッケンカトラーの店主がカウンターの内側におり、カウンターの外側――ブロックの対面には長い赤髪と引き締まりながらも凹凸のあるスタイルをしたロベリアという175センチほどの身長の女性のみだった。
二人は他愛ない会話を交わしながら、小気味よく進む朝の緩い時間を過ごす。このロザリアという都市はあまり発展しておらず大きな都市と比べると人は少なく、また治安もそこまで悪いというわけではないのでこの時間帯はいつも静かだった。
ブロックはカウンター上に浮かび上がるホログラムに目をやりながら、コーヒーの入ったコップ片手に店内に置いてある銃器を見ているロベリアを一瞥する。
何もない、ただただ淡々と流れていく静かな空間だった。互いに特に干渉することなく各々が好き好んでいる。
しかし、こんな時間もいつかは終わる。
そろそろ店に客がやってくる頃だと、ブロックは銃器の在庫に目を通し始め、ロベリアはコップの中身を飲み干した。
だが、今日はいつもと少し違った。
少し違って、いつもよりも早く客が来た。常連というわけでもなく、二人が知っている人物というわけでも当然なかった。
それは、ボロボロ服を着て、痩せこけて、今にも死にそうな程に疲れ果てている少年だった。
一体なんのことかと、泥棒かと、強盗かと二人が一瞬だけ身構える。しかし少年はそんなことを気にせずに自分の要求をぶつけた。
「なんでもする。だから代わりに水をくれ。あと出来れば食べ物も」
それが、二人と少年――レイとの最初の出会いだった。
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