第21話 休憩と窮境
深夜。外灯など存在するわけもなく真っ暗な荒野に一つだけ、光が灯っていた。
小さな炎の明かりがレイの手元だけを照らしている。レイは何かをしているようであり、炎から供給される明かりを使って細かな操作をしていた。
今ではほとんどの武器を自分の手で修理することができるぐらいにはなっていた。
すでに短機関銃、
分解し、当該故障個所を修理し、また組み立てる。あまり明るくない環境であるためネジの一本でも無くしたらもう見つからないだろう。だからレイは慎重に組み立てる。
内部機構を調節して固定して、ハンドガードなどの外部部品をつける。
淀みなく、一連の動作を素早く行う。しかし乱雑というわけではない。
音のしない、ただただ無音の荒野。暗く、風も吹いていない。雑音は一切なくそのおかげで疲れていても集中できる。
レイは最後の一本のネジを締めると一度息を吐いて、動作確認を行う。ここで何か不具合でもあれば最悪だ。ここは都市ではないのだ、すぐに部品を買い足すことも出来ない。
レイは緊張しながら動作確認を行い――そしてすぐに終える。
特に異常はなかった。安心したレイは立ちあがるとBAR-47をバイクに立てかけておいた。そしてバイクの後部に積んである、食料を取り出した。
過熱することで出来上がる物と紐を引っ張ることで勝手に温まる物だ。
一つ目は適当に炎の中に投げ入れる。別にこれで燃えたりはしないし、説明書きにもそう書いてある。もう一つは紐を引いて、勝手に出来上がるのを待つ。
レイは透明な柔らかい容器に入った水を飲みながらただ暗闇の中で静かに時間が過ぎ去るのを待つ。夜は視界が悪くモンスターの危険もあるため、警備隊は動かないだろう。
ただこの時だけがやっとゆっくり出来る。
まあ、警備隊は都市の外まで追ってこれないのが普通だが、レイの置かれている状況が普通ではないのでもしかしたら、ということもある。それにもし、あの強化薬が議会連合がらみで、大事な物であったとしたら、警備隊ではなくPUPDが出てくるかもしれない。
だとしたらレイは生き残れるか生き残れないか、ネガティブな可能性の方が高そうだ。
だが今更、という感じもする。
自分の将来を不安がってびくついていても意味はないし、どうすることも出来ない。ただ今どうするか、最善の選択肢を選び続けることでしか生きることは出来ない。
昔から、レイはそういう生き方をしてきた。
スラムで這いつくばって、泥被って、踏みつけられ、踏みにじられて生きていた時もそうだ。傭兵を始めた時も、アカデミーに通っている時も、急いでいた。生き急いでいた。どうにか現状から逃げ出そうとして焦燥感に駆られていた。
だから今は、案外――楽だ。もうマザーシティで成り上がるだとかの希望は持てないし、持ちたくもないし、焦燥感も今はない。生きる意味が無くなった、と言えば聞こえは悪いが、レイは今、初めて、本当に意味でゆっくりとした時間を過ごしていた。
ただ少しだけ、口角を上げて笑いながら真っ暗な荒野を眺める。
そして出来上がった料理を食べる。
寂しさは感じない、もともと一人だったのだ、ニコがいたあの時が特別だっただけ。
レイは無言で、そして淡々と口の中に食べ物を入れていく。そしてピーピーピーというアラーム音が聞こえるとレイは食べ物を地面に置いた。
アラーム音はバイクから鳴っており、より正確にはフロントガラスに表示されたホログラム付近から鳴っていた。ホログラムには周囲に地図が載っていて、三つの赤い点がこちらに向かってきているのが分かる。これは老人がBERMODを改造して搭載した機能であり、音響探知自動マッピング機能と熱源探知を合わせた索敵レーダーだ。
つまり、この赤い点は敵――恐らくモンスターでレイに向かってきている。
レイはレーダーに映る赤い点の方向を確認するとBAR-47を持った。
BAR-47の照準器――KVG-Cにはサーマルスコープとしての機能を併せ持っている。
レイは疲れたように怠慢な動きで、だけど少し楽しそうにBAR-47を構え――向かってくるモンスターに向けて引き金を引いた。
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