第2話 てんかん~誤解
ある患者様に紹介されてきたという女性。
彼女はサービス業で接客をしている20代。
高校生のころからてんかんを患っているという。
てんかんとは、脳の過剰な電気的刺激によって、手足や顔がつっぱる、ねじれる、ガクガクとけいれんするといった発作を起こす症候だ。
一概には言えないが、漢方学的には、肝血虚、肝風内動など、筋に血が足りないことで起こると考えられている。
初見では、彼女の姿にダブった化け物の姿を確認することはできなかった。
そこで、私は通常通りの問診を進める。
話を聞けば聞くほど、脾の弱りと肝血、心血の不足が浮き彫りとなっていく。
脾とは、消化吸収の働き全般を表す。
立ち眩み、食欲不振などはそこから来ているようだ。
肝血とは、筋や目を養うのに重要なエネルギーだ。
心血とは、心を潤すエネルギーだ。不足すると、不安や心配が増える。
また、顔色が白くなり、唇が真っ青になる。
彼女の唇はカサカサに乾燥し、真っ白だった。
唇の症状は、脾や腎からも起こる。腎とは、先天的な生命力を表す。
彼女の話では、発作は決まってお酒を飲んだ後や疲労が重なったときに起きるという。
人間は、酒を飲むと理性を失う。
その程度はあれども、これは間違いがないことだ。
そして、その理性の緩んだ時こそ、化け物が表に出てくるチャンスとなる。
疲労もまた同じだ。
しかし、彼女の表情からは、化け物の面影は見えなかった。
「発作が起きると、こう、全身にギュッと力がはいるだろ?」
「はい」
「この、力が入っている状態って、どんな時に似てる?」
「?」
「怒ってるときとか、我慢しているときに似てない?」
「あぁ、言われて見れば」
「はじめて発作があったとき、なにか強く怒りを抱いたか、我慢をしたか、そんなことはなったですか?」
私は、彼女にそう聞いた。
彼女にすれば、不思議な話だろう。
今まで行ったどこの医者でも、そんなことは聞かれなかったはずだ。
ただ、「病は気からと言いますが」と前置きすれば、とたんに不自然ではなくなる。
「う~ん、もう何年も前のことなので……」
彼女には、できるだけ思い出してくださいと伝えた。さらに、「できるだけ、怒りや我慢をせず、明るく、楽観的に過ごすようにしてみましょう」とも伝えた。
三陰交や脾兪など、脾の働きをよくし、血を養うツボに鍼をして、その日は終わった。
話を聞けば聞くほど、「奴」は、彼女が同じ波長を抱いたとき、憑依して発作を起こしている。
その波長が怒りなのか、ガマンなのか、それともほかの何かなのか。
それを突き止めるのが私の仕事だ。
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