第3話 居る

 突然の事に、息をのむ。


 参道には、白い衣に袴、首元に煌びやかな朱い衣装を着けた幼い子供達が歩いていた。

 赤い顎紐で結び付けた、金色の冠の飾りが、ちろちろ揺れている。

 真っ白にお化粧をされて、噤んだ口に、ちょんと付けられた紅が、お喋りを禁ずる封印の様に見えた。

 慣れない足取りでそろそろと、お行儀良く前を向き、何人かが赤く彩られた目尻で、きょろっとこちらを気にしている。

 華やかで可愛らしい姿に、思わず授与所の影から踏み出すと、瞬間、何かがつむじ辺りの髪をさっと掠めた。

 反射的に伏せて、恐る恐る顔を上げると、子供達の後ろには和装の大人達が、ざあっと本殿の方から連なって行列になって居る。


 なにこれ…




 練習…


 本番と同じ様にやってみようという事なのだろうか…


 大勢で仰々しく歩いて来る人達の、非現実的な光景に釘付けになった。


 このお寺、こんな催し物やってたんだ…


 子供達の直ぐ後ろに長い棒を持った大人が2人、棒の先で白い物がくるっくるっと回っている。

 UFOの正体はこれだった。

 ふわっふわっと上下している片方の棒が、いきなりこちらに振り下ろされ素早く頭上を横切った。


 わっ!!




 なんで…


 笠を頭にのせたUFO使いの、虫を追い払う様な、あまりの扱いに悲しくなって授与所の壁に張り付いた。

 手のひらに何かがぼろぼろと付いたけれど、気にならなかった。


 なんだよう…


 そら勝手に入ったこちらが悪いのだけれど…


 それにしたってそんな風にしなくても…


 恨めしい顔でUFO使いを睨んでいると、目深に被った笠の間から、きょろきょろと探す様な素振りで進んで来る。


 見えていないのだろうか…


 大体!笠を深く被り過ぎなんだよカッコつけマンがっ!そんな事では見えないに決まっている!もっと紐をしっかり結んできちんとしなければ立派なUFO使いにはなれ…


 不意に明かりが付いた。


 行列の手持ち提灯が、ぼんぼんと順番に灯っていくと、後ろの方まで行列が際立って急に周りが暗く感じる。


 いつの間に日は落ちたのか…


 下からほわんと照らされた人達は白く揺らぎ、お面を着けている様に見えた。


 狐…


 鼻から上を覆う白い狐のお面を着けて、何人かがUFO使いの様に視線を空中に彷徨わせている。

 何となく空を見上げる様な人が居たり、こちらに顔を向ける人が居たりしたけれど、どこを見ているのかは分からなかった。


 目がお面の穴に合っていないのだろうか…


 通り過ぎて行く妖美な空気に、何故だか急に落ち着かなくなってきて、出来るだけ小さく、そおっとしゃがみ込んだ。




 何か変だ…

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