第45話
「……マクシミリアン」
互いに乗り物から降り、マクシミリアンとアルフはハイウェイの上で対峙した。静かに降り注ぐ道路照明の中で、刺すように冷たい冬の風が吹き荒れている。
「やあ、アルフレッド」
白々しい挨拶には答えず、アルフは手にしていた拳銃をマクシミリアンに向ける。
「おい、何だよお前ら……あたしらに何の用だよ」
銃を見て怯みつつも、ドナがマクシミリアンの隣に立ってアルフを怒鳴る。だが、言い終えたとほぼ同時に、マクシミリアンが彼女を横に突き飛ばした。予想外の方向からの衝撃に、ドナは呆気なく転倒する。
「……アイザック!?」
「ここまでこの娘を脅して運転してもらっていたんだが、もう用済みだな」
冷たい声を発するマクシミリアンに、身を起こしたドナは悲鳴のような声で呼びかけた。
「何言ってんだよ、アイザック!」
だが、マクシミリアンは応じなかった。
「私はそんな名前では無い。マクシミリアン・ラムゼイと言うんだ」
「そんな、あんたアイザックって……」
「もう用済みだ。失せろ」
そう言って、マクシミリアンは泣きそうな顔で黙ってしまったドナからアルフに視線を戻す。
「……」
ドナと彼のやり取りを驚いた顔で見ていたアルフだが、マクシミリアンと目が合い、再び青い目に怒りの炎を灯す。
「さて、私を殺す気かね」
「そうだ。あんたは、俺の父と母を殺した」
アルフの断罪するようなその叫びに、ドナが目を丸くしている。マクシミリアンは苦笑し、まるで撃ってくれと言わんばかりに腕をわずかに広げた。
「……弁明はさせてもらえなさそうだな」
「証拠なんて無いし、罪を償って欲しいとも思わない。ここで、死ね」
アルフは泣き出しそうな顔でトリガーを引いた。直後、ハイウェイに小さな破裂音が鳴り渡る。
「――!?」
数秒後、目を見開くアルフ。
マクシミリアンは倒れていなかった。咄嗟に彼の前に飛び出たドナにしがみつかれたことと、さらに彼女も自分も撃たれてはいないことに気付き驚愕している。
撃たれたのは、撃ったはずのアルフ本人の方だった。
「駄目だよ、アルフ」
予想外の方向からの声に、拳銃を取り落としたアルフは弾かれるように振り向く。
「レイオ……?」
バイクを降りて以来静かに佇んでいたはずのレイオが、拳銃を手にしていた。アルフの方に銃口を向けている。 拳銃などとても扱えそうにない細い腕で、レイオはアルフの拳銃を撃ち、彼の手から弾き飛ばしたのだ。
呆然とするアルフに向かって、レイオは静かに口を開いた。
「君は、これから明るい世界に戻るの。アイリーンさんと一緒に、ラムゼイで元通りに暮らさなきゃ。だから、こんなことしちゃ駄目」
「……」
アルフが何も言えずにいると、次にレイオは拳銃をマクシミリアンと、必死の形相で彼を庇っているドナに向ける。
そして静かな声で告げた。
「わたしは、幻色人種です。やろうと思えばあなたの愛する人を調べて、その人に危害を加えることだってできます」
アルフレッドは拳銃を拾いに行くこともなく、ただその様子を呆然と眺めていた。そして、彼女もまた宇宙船乗りであることを痛感してもいた。
今のレイオは、復讐を果たそうとするアルフと違い、激しい情動を必要とせずにトリガーを引くことのできる、強く冷たい表情をしていた。人を殺すことのできる顔だった。
マクシミリアンは一瞬驚いた顔をするが、すぐに納得したようだった。
「幻色人種ということは……ロイヤルオペラハウスと、アイリーンのフロアに居たアルフレッドは、君か」
「はい」
レイオが毅然と返事をすると、マクシミリアンは少しだけ目を泳がせた後にゆっくりとかぶりを振った。目が泳いだ先に居た人物と、マクシミリアンが大事に思っているひとを結びつけるのは容易だった。
「若いお嬢さんの手を煩わせる必要もないな」
諦めきったすがすがしい顔でそういうと、マクシミリアンは突然懐から拳銃を取り出した。
「なっ……!?」
レイオがその真意を確かめるその前に、マクシミリアンは前に立つドナを愛おしげに見下ろしてから銃口を自分のこめかみに当て、躊躇わずに撃鉄を起こし、そして引き金を握った。
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