第42話
最初にレイオの帰還に気付いたのは、アルフだった。
「レイオ!
良かった、無事だったんだな」
「うん。ありがとうね」
駆け寄ってきたアルフに、レイオは笑顔を向ける。
レイオはトリスとともに、連邦軍のヘリに乗ってラムゼイ本社のビルまで戻ってきていた。そして総帥のプライベートフロアでこうやって再会を果たしたのだ。
審問会はとうに終わっているようだが、その結果がアルフにとって好ましいものであったことが彼の様子から見て取れる。
本当は工場から出た後、ザギと合流するつもりだったのだが、その途中何故かトリスの端末にジリアンからの通信が入り、それによるとザギは『連邦警察に一本取られて不貞腐れてるから先に帰ってしまった』のだそうだ。また、ジリアンが親切につけた注釈によると、『その同族の連邦捜査官とレイオを長い時間一緒に居させてやりたかったんじゃないかな』とのことだった。
「レイオさん」
「……アイリーンさん」
次いで、アルフの年上の妹アイリーンがレイオの側に来る。晴れ晴れとした表情をしており、美貌がいっそう輝いて見えた。アイリーンはレイオをふわりと抱き締めてから、改めてレイオの顔を見て言った。
「それがあなたの本来の姿なのね」
「……そんなところです」
レイオは笑顔でそう返事をした。自分だけの本当の姿ではないが、それでも一番大事な、胸を張って自分はレイオだと名乗ることのできる唯一の姿だった。
先日までアルフと、そして今日までアルフの姿でアイリーンと過ごしていたせいだろうか。三人で輪になっていると、まるで自分まで彼らの家族になったような気がした。レイオは胸の底から湧き上がる暖かい感情に身を任せる。
だが、その団欒は女性の鋭い声によって遮られた。
「遅いぞ」
「……申し訳ありません」
その迫力に驚いたレイオが声のしたほうを見ると、フロアの隅の方で、レイオをここまで連れてきたトリス冷や汗をかきながらが平身低頭でマイア捜査官に詫びているところだった。
「……?」
先日までの、どう見ても相棒関係だった二人を見ていたレイオがきょとんとしていると、アイリーンが苦笑して囁きかけてきた。
「あの方ね、実は……」
「連邦軍犯罪捜査局、マイア・ミューラー少佐だ。昨年よりこの事件の担当をしている」
レイオの視線に気付いたマイアがレイオに向き直って再び強い声を発した。
「……ど、どうも」
レイオは先日までの知的な彼女とのギャップに驚くが何も言えず、曖昧な笑みを浮かべて会釈するだけだった。少佐を少尉と偽って捜査活動することの法的是非など、彼女の迫力の前では問えるはずもなかった。
「あの……マクシミリアンさんは」
レイオが連邦捜査官達に聞こえないように小声でそうたずねると、アイリーンとアルフはほぼ同時に、沈痛な顔をして首をゆっくりと横に振った。
「何もしてない。というか、できなかった」
「何も証拠が無いの。彼があなたを連れ出したことの……」
「秘書のウォリックってやつは誘拐犯と繋がってた可能性があるってのに連絡がつかなくなって指名手配された。けど、本人はウォリックが消えたのをいいことに、普通に家に帰りやがった」
心底悔しそうに言うアルフ。その表情はレイオの誘拐に対するものだけではない何かが含まれていることは明らかだった。
アルフに向かって一瞬心配そうな眼差しを向けた後、アイリーンは暗くなった空気を払拭するように、レイオに明るく微笑みかける。
「警察の方の用事を済ませたら、今日はここに泊まっていってくれるかしら。色々お話がしたいわ」
レイオは喜んでその提案を受けた。
いつもと違った形の団欒を、もう少しだけ味わっていたかった。
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